「別れさせ屋」と聞いて、まず思い浮かぶのは、不倫や復縁といった訳アリな男女の恋愛模様でしょう。そして依頼内容は、略奪したいから相手を配偶者や恋人を別れさせて欲しい。これが、ステレオタイプな別れさせ屋のイメージかと思います。

皆さんは縁切り神社をご存知でしょうか。関東であれば、お岩稲荷、関西であれば安井金毘羅が有名ですが、文字どおり悪い縁が切れるというご利益を求め、毎日多くの人が参拝します。その願いごとか書かれた絵馬を見ると、略奪愛だけでなく、貧乏との縁が切れますように、病気との縁が切れますように、息子が嫁と別れますように、パワハラ上司が左遷されますように……というように、様々なタイプの縁切りがあることがわかります。

実は別れさせ屋もこの縁切りに近いのかもしれません。今回は、社宅のボスママとその子供、そしてその取り巻きによるイジメのターゲットになってしまい、毎日死ぬほど苦しんでいたある母子を救うため、我ら別れさせ屋が暗躍するお話です。

社宅内の濃すぎる関係 毎日お茶会

相談に来られた加藤さんは、憔悴しきっていらっしゃいました。ご主人の転勤で関西から東京に引っ越して来られたのが昨年の3月のこと。辞令が出たのがなんと約2週間前。ご主人は引き継ぎに追われて深夜まで残業。小さなお子さんを抱えての引っ越し準備は本当に大変だったことでしょう。

引っ越し後、荷解きをする間もなく、同じ社宅のママたちから次々声がかかります。「引っ越しの片付け、大変でしょう。お子さん、預かりますよ。新しい人が来ると皆そうしてるの」「お茶にいらっしゃいません? この社宅では皆午後はそうしてるの」「来週の土曜、高木さんの旦那さんは出張でいないから、高木さんのお家で持ち寄りランチパーティーするんです。是非いらっしゃって。加藤さんはお引っ越しされてきたところだから、今回は子供用のサンドイッチだけお願いします。マスタードは抜いて、具は卵、ハム、きゅうりくらいでいいから。この社宅では、定期的にそうしてるの」

この社宅では、子供のいる家庭は非常に仲が良いらしく、お互いに子供を預けあったり、毎日のように誰かの家で集まって、子供を遊ばせながら母親たちはお茶会をするのが慣習となっていました。

知らない土地でお互いを頼れるのはメリットですが、毎日毎日となると負担に感じる人も少なからずいるでしょう。奈央さんも、家事、休息、子供とゆっくり向き合う時間が取れないことや、夫の会社での役職や年功序列に左右される付き合いへの気疲れから、社宅内の付き合いから少し距離を取りたいと思うようになりました。そして社宅内をよく観察すると、少数の世帯ではありますが、子供を別の幼稚園に通わせていたり、「午後のお集まり」に参加していない人もいることに気づいたのです。

3日に1回、2日に1回、子供と遠くの公園へ出かけたり、社宅外のママ友と遊んだり、何かしら口実をつけてお集まりを回避し始めた奈央さんが、おかしな空気に気づき始めるまでそう時間はかかりませんでした。社宅内の遊び場の滑り台で滑りたがるユキちゃんに向かい、他の子供が鬼の形相で「ユキちゃんはここで遊んじゃだめ」と通せんぼしたり、それを諌めるどころか「あら、今日はお出かけしないの?」と笑顔で言うママがいたり……。 あ、しくじったかも。浮いてるな。 そう加藤さんは感じたそうです。ご主人にそれとなく話してみたものの地元を離れ、新しい職場と業務に慣れるのに精一杯のご主人は溜め息をついて、「うまくやってくれよ」と言うばかりでした。

ボスママに逆らったら村八分 そして会社に舞い込む怪文書

社宅のママ友コミュニティからなんとなく浮いてしまった加藤さんですが、そういった人は奈央さん一人ではなく、他にも2軒ほど、ママ友グループから外れている世帯がありました。例のお集まりではその人たちの陰口も聞かれたと言います。仲間外れの理由は、バックグラウンドの違いや、専業主婦出ないことなど、元々、さっぱりした性格で、妊娠出産前はバリバリ働いていた加藤さんからすればくだらないことばかり。仲間外れや陰口が嫌いな彼女にとり、お集まりの居心地が悪かった原因はここにもあったのです。

加藤さんにとって、状況が急激に悪化したのは、村八分になっていた人たちと積極的に仲良くするようになってから。そして、ボス的存在である高木さんの娘さんの目に余る言動を嗜めたからです。人のおもちゃを奪う、突き飛ばす、暴言を吐くなどやりたい放題であっても、高木さんの機嫌を取る取り巻きは、自分の子供に我慢させるばかり。しかし加藤さんははっきりと「危ないやんか。人の物取ったり、突き飛ばしたらあかん!」と注意したのです。

悲しいことに正論が通用しない組織や場所というものは、往々にして存在します。その頃から、明らかに避けられるようになり、お誘いもなくなったと加藤さんは言います。ユキちゃんが社宅内で遊んでいて他の子供が話しかけたりすると、割って入って誰かの家に引き上げてしまうなど、子供に対しても容赦ない村八分が始まりました。しかしそれだけであれば一抹の寂しさや気まずさはあれど、グループ以外の人や外部に遊び相手を求めることができます。

加藤さんがもう無理だ、実家に帰りたいと思うほど追い詰められたのは、会社の社宅管理担当部門の名前で社宅全体に通知された注意勧告した。そこには、次のような内容が書かれていたのです。

「近隣の住民から社宅の入居者について苦情が入っております。①子供を乱暴な関西弁で怒鳴りつけている母親がいて、虐待を危惧するレベルである。②またしょっちゅう社宅外に外出しているが、ママ活、女性用風俗の利用など若い男性を相手に買春をしている。

会社としてどう考えているのか知りたい。この不道徳で犯罪を犯している人物が行状を改めないのであれば、然るべきところに通報したい。

このような内容でした。問題になれば、会社の社会的信用にも関わることです。お心当たりがある方は、気をつけてください。」

きっと社宅中から、「これって加藤さん?」と疑いの目で見られている。そう思うと、恥という焼きごてを当てられているように感じられ、これまで押さえ込んできた悔しさ、ストレス、孤独、怒り、悲しみといったいろんな感情の渦に飲み込まれてしまったのです。

外に出るのが怖い、人に会うのが怖い、絶えず誰かに見張られているような息苦しさ。何もしたくない。娘の相手をするのも手作りのおやつを作るのも億劫。公園に行きたがり遊んで欲しがる娘に、「ママを放っておいて」とテレビを見せてポテトチップスを与える自分にも嫌悪感が募ります。家事も手抜きになり、いつも暗い顔をしてちょっとしたことでイライラしたり泣いたりする妻に、ご主人もイラ立ち、夫婦喧嘩も増えました。さらに激しい夫婦喧嘩をした翌日には、社宅の掲示板に「夜遅くに大声は控えてください。ここは共同住宅です。」という張り紙がされる始末。

このままではいけない。あの人たちに自分の全てを壊されてしまう。そう思った加藤さんはメンタルクリニックの受診を決心しました。久しぶりの外出らしい外出、その帰り道、彼女は信じられない光景を見たのです。

それは、憎きボスママ、高木さんとホスト風の若い男性の姿。高木さんのシナの作り方、2人のいちゃつき方から見て、男女の関係であることは明らかでした。

「ママ活、女性用風俗の利用など若い男性を相手に買春をしている」

あの怪文書の文面が、加藤さんの脳裏をよぎります。「それって、貴女のことでは?」唇を噛み締めた加藤さんは、反撃を決心したのでした。

別れさせ屋はストーカー問題にも対応

別れさせ屋というと、どうしても諦められない執着心の強い依頼者が、最終手段として利用するものという印象が強いと思います。ですがこの事例のように、悪意や執着をもって粘着してくるストーカーや虐め(ハラスメント)を円満に断ち切る切り札としても利用できることは、是非広く知られて欲しいと思います。

実はこの事例のように、PTA、幼稚園や小学校、社宅、習い事、マンション、ママ友コミュニティのイジメに悩む人は少なくありません。職場のイジメも深刻ですが、家族が絡む、子供が影響を受ける、自分1人の意思で戦ったり逃げたりできないという点で、より八方塞がりになり、戦うことすら難しくなりがちです。法の力を借りられない、戦うことすら難しい。そんな正面突破が難しい悩みだからこそ、別れさせ屋の工作を利用する価値がおおいにあると言えます。

その後、高木さんの女性用風俗店従業員との直引き(お店を通さず会う利用規約違反行為)や、過去の長年のホスト遊び、その時に作った借金などが明るみに出ました。また、若い男性と密会するために、社宅の他のママに子供を押し付けていることもご主人の知るところとなりました。そしてなんと、2人のお子さんのうち片方は、ご主人との子でなかったのです。結果、高木さん一家は社宅を去りました。風の噂では、ご主人と離婚話が進んでいるそうです。

驕るものは久しからず。因果応報。いろんな言葉が頭に浮かんだ今回のミッションでした。本当に本当に苦しい。自分では解決できない。まるで家族が人質に取られているような状況で、陰湿活理不尽なイジメを受けている。ああ、仕置人かゴルゴがこの世に存在してくれていたら。

そんな時、あなたはどうしますか。間違っても直接手を下してはいけません。でも、やられっぱなしなんて許せません。あなたが壊れてしまいます。神頼み、それもいいでしょう。しかし、もし別れさせ屋の力で、もしかしたら状況が変わるとしたら? このように別れさせ屋に持ち込まれる相談・依頼内容は様々です。別れさせ屋は弁護士事務所の法律相談とは異なります。こんな依頼は無理だよね…と思う前に、一度相談だけでもしていただければ、あなたの苦しみや執着が解決に向かって動き出すかもしれません。