いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、吉祥寺の食堂「まるけん食堂」です。

  • シンプルな外観が興味をそそる「まるけん食堂」(吉祥寺)

    シンプルな外観が興味をそそる「まるけん食堂」(吉祥寺)


主張しない外観の食堂は店内も"ちょうどいい"

最寄り駅は吉祥寺ですが、東口を出たら五日市街道を渡り、そこからさらに進むことになります。位置的には、西荻窪から続く、女子大通りのちょっと手前。ですから、吉祥寺から歩くと10分くらいはかかります。

しかも周辺は住宅地で、決して商売に向いた場所ではないかもしれません。けれど、そんな場所に「まるけん食堂」という素敵なお店があるのです。

  • 「定食」の2文字が放つ安心感

「いらっしゃいませ。そこにアルコールスプレーがありますのでお使いください」暖簾をくぐって店内に入ると、出迎えてくださった女性が声をかけてくださいました。コロナ対策も万全ですね。

店内は広すぎもせず、狭くもなく、"ちょうどいい"感じ。8人が座れるテーブル席と、壁を向かい2人がけの席、そして4人用席があります。

  • 掃除が行き届いて清潔な店内

開店直後ということで、お客さんは壁に向かって黙々と食べているおじさんひとりだけ。ということで、いちばん奥の4人席に座ります。見渡せば、シンプルで無駄なものがなく、掃除も行き届いているので快適。

ズラリと並ぶメニューに激しく心を動かされたものの、ここは王道の日替り定食を注文。ちなみにこの日は、とり唐揚げとハムエッグでした。

  • 魅力的なメニューがズラリ

  • 全体的に値段もリーズナブル

「ご飯の盛りは普通でいいですか?」と聞かれたので「はい」と答えましたが、希望すれば大盛りにしてもらえるのかもしれません。

アツアツな唐揚げの定食はボリュームもさすが

女性がメニューを通すと、座った席の後方にある厨房から唐揚げを揚げる音が。一方、正面上方のテレビからはニュースの音声。聞こえてくるのはそれだけで、ゆったりとした時間が流れています。

なんだか、居心地がいいなあ。

  • 調味料類もかわいらしい

で、そうこうしているうちに日替り定食が運ばれてきました……のですが、ボリューム感にびっくり。

  • コスパ抜群の「日替り定食」

唐揚げは小ぶりのものが6つで、キャベツの千切り、カイワレ、レモンのスライスつき。ハムを2枚使ったハムエッグには、マヨネーズがかかったレタス。豆腐、わかめ、大根の入った味噌汁に、ご飯と漬け物。

700円だそうですが、これはかなりコスパがいいのではないでしょうか? ていねいにつくられていることがわかるし、眺めているだけで安心できます。

それにね、みんなアツアツなんですよ。熱い味噌汁をいただけると、それだけでうれしい。もちろん唐揚げも揚げたてで、油断をしていると火傷をしそうなくらいです。目玉焼きも半熟なので、トロリとした黄身を存分に味わえます。

  • 揚げたてでアツアツの唐揚げ

  • 目玉焼きも絶妙の焼き具合

漬け物のような脇役も含め、ひとつひとつがおいしいので、ゆっくりとよく噛んで味わいたくなってきます。そのせいか無意識のうちに、普段よりゆっくり時間をかけて食べたような気が(いいこと)。

  • 味噌汁もほっとする味

で、そういう当たり前のことをしていると、きちんと生きているような気分になったりもします。って発想が単純すぎますが、そんな気持ちにさせてくれる定食って、すごく魅力的だと思いませんか?

予想どおり、いや、それ以上に、ここは正しい「町の食堂(あえて"街"ではなく"町"と表記したい)。お昼の時間が近づくにしたがってお客さんが増えてきましたが、地元の人たちから愛される理由がよくわかります。

単品メニューも充実してるし、ビール(中瓶が600円なのに大瓶は650円!)やお酒もあるみたいなので、軽く飲むのもいいかもしれませんね。

お話を伺ったところ、創業は昭和35年。最初は中華そば屋さんで、のちに食堂に業態を変えたのだそうです。たしかに店内には、中華そば屋さん時代の白黒写真も飾られていました。

  • 中華そば屋時代の写真

ちなみに現在のご主人は2代目。一緒にいらっしゃった女性はお姉様だそうです。吉祥寺の端の方から、ずーっと街の変遷を見守ってきたわけで、なんとも歴史を感じさせてくれます。

吉祥寺駅周辺のおしゃれなスポットも悪くはないけれど、こういうお店にこそ、街の本質が隠されていると言えるんじゃないかな。


●まるけん食堂
住所:東京都武蔵野市吉祥寺東町1-6-14
営業時間:11:00~15:00、17:00~21:00
定休日:月曜