いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、西荻窪の喫茶店「コーヒーロッジ ダンテ」です。

  • 老舗の珈琲専門店でホッと一息「コーヒーロッジ ダンテ」(西荻窪)


店内は味わい深い"山小屋"風の内装

西荻窪駅南口を出て、牛丼チェーン「松屋」脇の路地を歩くこと数分。以前ご紹介したおそば屋さん「鞍馬」の手前に、外観からして魅力的なお店が現れます。それが、今回ご紹介する「コーヒーロッジ ダンテ」。

  • 重厚で落ち着きある入り口

当然ながら、いまどきのカフェとはまったく違ったタイプ。つまり王道の"喫茶店"なのですが、昔風の言い方をするなら「珈琲専門店」ということになると思います。1970年代あたりまでは多かったんですよ、珈琲専門店って。

厚みのある木の扉を開けて店内へ足を踏み入れると、すぐに3段ほどの階段が。そこを降りた右側が、カウンター席になっています。そして、左側には少し高い位置のテーブル席。つまり、テーブル席に座った場合、カウンターを見下ろすような形になるわけです。

変わったつくりですが、その不規則性が開放感につながっているようにも思えます。

なお、「コーヒーロッジ(山小屋)」と銘打っているだけあって、味わい深い店内はたしかに山小屋風でもありますね。開店してからすでに50年以上の歳月が経過しているそうですが、レンガの壁や柱、木枠などは長い時間の経過を意識させます。

  • そこにいるだけで落ち着きを感じる店内

考えてみれば、前に伺ったのは20年くらい前だったかもしれません。「もうそんなに経つのかー」と驚かずにはいられませんが、雰囲気はそのころとまったく同じ。それは、時代に迎合したりせず、同じスタイルを貫いてきたことの証だと言えるでしょう。

そんなせいもあってか、カウンターの丸椅子に腰を下ろすと、なんだかそれだけでホッとします。「ひさしぶりだから」ということではなく、おそらく初めて訪れる人でも、同じような感覚を味わえるのではないかと思います。そういうお店なのです。

  • 窓の外からは柔らかな日差しが

なお専門店なので、スペシャルティー珈琲なども用意されているようですが、ここはやはり基本の「ダンテブレンド」を。ブレンドを飲んでみれば、その店の力量がわかりますからね(高校生のころにアルバイトしていた珈琲専門店のマスターからの受け売り)。

クラシックとコーヒーが奏でる至福のひと時

店内にはクラシックが、大きくもなく、小さすぎもしないちょうどいい音量で流れています。カウンター奥にはCDの山がありますし、右側の棚にはLPレコードもぎっしり。きっと、クラシックがお好きなのでしょう。

  • きちんと整理されたカウンター

それにしても、耳障りのいい音です。マスターにそのことを伝えたら、「いやぁ、まあまあです」と謙遜されておりましたが、実を言うと、この音のよさは理にかなっているのです。

スピーカーがレンガの壁に埋め込まれているので、建物とスピーカーが一体化しているわけです。オーディオ的に言えば、これは理想的な環境だということ。

ストリングスの音色と、サイフォンコーヒーならではの、お湯がコポコポと心地よい音が混ざり合って、いい雰囲気。饒舌でもなく、寡黙すぎもせず、マスターもほどよいペースで声をかけてくださいます。

静かに会話をしていたら、ほどなく目の前に、「お待たせしました」という声とともに「ダンテブレンド」が置かれました。

  • 濃いめなのにすっきりとした「ダンテブレンド」

無駄な装飾のない、シンプルなカップ&ソーサーが気持ちを落ち着かせてくれます。コーヒーは濃い目ですが、苦味のバランスがとれているので、意外なほどスッキリしています。

休日などには席が埋まってしまうこともあるようですが、伺った平日のお昼すぎはお客さんも少なめ。ぽつりぽつりと常連さんが入ってくるものの、必要以上に長居をするような人はいません。

コーヒーの味とマスターとの会話を楽しんだら、「じゃあ、また」という感じで去っていく人が多いような印象。

そういうさりげなさも、この店の魅力のひとつと言えるのかもしれません。


●コーヒーロッジ ダンテ
住所:東京都杉並区西荻南3-10-2
営業時間:12:00~19:00
定休日:無休

※取材は緊急事態宣言発令以前に行ったものです