いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、 吉祥寺の喫茶店「COFFEE HALL くぐつ草」をご紹介。

  • 武蔵野の地下で40数年「COFFEE HALL くぐつ草」(吉祥寺)

洞窟感あふれる老舗カフェ

吉祥寺駅の中央口を出たら、正面左側のダイヤ街をぐんぐん直進。東急百貨店を斜め右に臨む吉祥寺通りのすぐ手前、携帯ショップ隣の地下一階に「COFFEE HALL くぐつ草」というお店があります。

  • 入り口からすでに個性的

引っ越して家から遠くなったこともあり、考えてみると最近はあまり行かなくなってしまったのだけれど、青春時代にはよく通っていた喫茶店です。

昔は携帯ショップのところに「大中」という中国雑貨のお店があったので、そこで買い物をしてからくぐつ草に降りていくのが定番のコースでした。あと、斜向かいにあった「ロヂャース」にもお世話になってたなー。

  • 看板にも味わいが

学生時代はつきあっていた女の子と、20代後半くらいになると、そののち結婚することになった彼女(妻)と、そして30代のころは小さかった息子も連れて家族で……という感じで、改めて考えてみるとこの店は、いつも身近にあったのでした。

  • 階段を降りていくと……

石の壁に挟まれた木の階段を降りていくと、左側に広い空間が現れます。薄暗い“洞窟感”が魅力ですが、とはいえ奥行きがあるし、いちばん奥には日の光が差し込む窓もあるので閉塞感は皆無。

  • 広々とした店内

それどころか、ひさしぶりに伺ってもやっぱり落ち着きます。昔、幼稚園生だった息子が、興味深そうな笑顔で店内をキョロキョロ見回していた光景を、いまさらながら思い出してしまいました。

で、「お好きな席へどうぞ」との声を聞きながら真ん中辺の席へ。

  • 壁も個性的

店内に置いてあったリーフレットを見てみて意外に感じたのは、1979年オープンだということ。つまり学生時代に通っていたあのころは、まだ新しいお店だったということになるわけです。

  • このイラストも昔のまま

当時から空間そのものに不思議なヴィンテージ感があったので、もっと古いお店なんだろうと思っていました。ともあれ、その雰囲気はいまもまったく変わっていません。

すぐに運ばれてきたのは、これまた懐かしい木製のメニュー。

  • 木製メニューも特徴のひとつ

  • 頼むものは決まっているよ

でも、それをじっくり見るまでもなく、もう注文するものは決まっているのです。ここはコーヒーと、それからカレーがおいしいから。ということで、「くぐつ草カレーセット」をお願いしました。

お昼少し前だったこともあり、店内にまだお客さんはまばら。ジャズが静かに流れる店内で、数人がそれぞれの時間を楽しんでいます。

  • くぐつ草カレー

さて、ほどなくしてお待ちかねの「くぐつ草カレー」が運ばれてきました。ライスにレーズンが散りばめられているのも昔のままなので、見ているだけでうれしくなってきます。

もちろん、スパイスの風味と玉ねぎの甘みとのバランスが絶妙なカレーの味も健在。ひとくち食べた瞬間に、過去のいろいろな思い出が蘇ってきました。決して大げさな表現ではなく、爽やかな辛さが過去の記憶を呼び覚ましてくれたのです。

  • じっくり煮込まれたカレーソース

ちなみに、つけ合わせのサラダのおいしさも見逃し難いところ。味のバランスをきちんと意識されているような印象があり、結果的に主役のカレーの味を引き立てています。

  • サラダもおいしい

そして食べ終えてほどなくすると、もうひとつのお目当てであるブレンドコーヒーが登場。ここのコーヒーは濃いめだけれどスッキリしていて、とてもおいしいんですよ。そのことも、ずっと記憶に残っていたんですよね。

  • 安定のブレンドコーヒー

なんでも2年以上自然乾燥・熟成させたオールドビーンズを使い、ネルドリップで淹れているそうなのですが、充分に納得できる話です。

さて、予想どおり、お昼が近づくにつれてお客さんが増えてきました。日中は混んでいることも多いから、この雰囲気をゆっくり楽しみたいなら、午前中が狙い目かもしれませんね。

それにしても朝10時から夜10時まで、休みなしで営業を続けてこられたというのは驚くべきこと。

これからも、ずっと吉祥寺の名店であり続けてほしいものです。

●COFFEE HALL くぐつ草
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-7-7 島田ビルB1F
営業時間:10:00~22:00
定休日:年中無休