いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、高円寺の食堂「七面鳥」をご紹介。
おせちに飽きたら、カレーもいいんじゃない?
「おせちもいいけど、カレーもね」ってなわけで、お正月も三が日を過ぎればカレーが恋しくなりませんか? しかも新年なんだから、縁起をかついで「かつカレー」といきたいところじゃないですか(そうかね?)。
だから、カツカレーを食べに行ってきました。実はこの原稿を書いているのは、2021年末なんですけどね(バラしてどうする?)。
どこで食べるべきかと考えたとき、真っ先に頭に浮かんだのは高円寺の「七面鳥」というお店でした。とくに理由はないのですが、外観がシブすぎるこの店にはカツカレーが似合う気がしたんですよね。いいかえれば、理由はそれだけなんですけれど。
高円寺駅南口から、高南通りを青梅街道方面へ直進。角にローソンがある「高円寺南四丁目」交差点を左折(環七方向)して、信号をひとつ越えた右側、「高円寺前」交差点の手前です。
こうして文章化すると、いかにも見つけにくい場所にありそうな感じですよね。でも、実際には、すぐに見つかるはずなのでご安心を。というのもこのお店、1959年創業というだけあって外観に貫禄がありすぎるんですよ。それも魅力のひとつでね。
なお看板にある正式名称は「中華 七面鳥」なのですが、個人的には食堂というイメージのほうが強かったりします。
引き戸を開けるとまず目に飛び込んでくるのは、白木でできたコの字型のカウンター。右側にはテーブル席もありますが、カウンターの中央に陣取って、真正面の厨房の動きを眺めながら飲むビールが最高なんですよ。
そうそう、ビールなどのアルコール類を飲みたい場合は、セルフスタイルがこの店の流儀。左側にある冷蔵ケースを勝手に開けてお目当ての飲み物とグラスを取り出し、ビールの栓も自分で開けるわけです。で、そうした一連の作業を行っていると、自動的に2種類のお通しが出てくるのです。
そういった流れ自体が非常に楽しいのですが、だからこそ注意しなければならないこともあるんですよね。
ビールを飲むんだったら、ツマミも一品くらい頼みたいじゃないですか。そこで「じゃあ唐揚げでも」と思って注文したら、山盛りの唐揚げが出てきたためお腹いっぱいになってしまったという経験が何度かありましてね(何度も同じ失敗をするなよ)。
つまりは、「ちょっとつまんでから食事」というコースで行くには量的に多すぎるわけです。そこで、あくまでカツカレーが目的の今回、ビールは我慢することにしました。
それにしても、人気がすごい。そんなこともあろうかと、11時30分の開店に合わせて一番乗りをしたのですが、次から次へとお客さんが入ってくるのです。前回の「いたりあ小僧」でも同じようなことになりましたが、こちらはスペースが限られていますから、開店後10数分でほぼ満員状態。
接客も明るくて気持ちがいいし、さすがは高円寺を代表する人気店ですね。
なお、見渡せば、ほとんどの人がオムライスを注文しています。というのも、オムライスはこのお店の一番人気なんですよ。だから、入るオーダーの大半は入り口の手書き看板に書かれた「本日のサービス品」か、オムライス。カツカレーなんか頼んだら、なぜか目立ってしまうくらいなのです。
ともあれ、まずはお新香が置かれ、その数分後には味噌汁つきのカツカレーが登場です。
ライス型でラグビーボール状に整形されたライスにロースカツが寄りかかり、そこに濃厚なカレーソースがたっぷり。ライスの向こう側にセットされたスプーンの上に乗る、人工的な赤さの紅生姜もいい感じです。
まず視覚的には、望んでいたとおりのカレーですね。もちろん味の満足度も高く、カレーは辛すぎず、甘すぎもせず、ちょうどいいバランス。シャバシャバのタイプよりも粘度のある“日本のカレー”が好きな僕としては、まさに文句なしです。
そして、カツがまたおいしい。揚げたてのアツアツだったので、口のなかをやけどしそうなくらいでしたが、そのぶん「カツカレーを食べてるんだなあ」という気分に浸ることができたのでした。
2022年は1月6日からだそうなので、おせちに飽きた方はぜひ。
●七面鳥
住所:東京都杉並区高円寺南4-4-15
営業時間:11:30~15:00、17:30~21:00 新年は1月6日より
定休日:土曜日、不定休日曜