いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、西荻窪の老舗喫茶店「ビーイン」をご紹介。
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1972年から続く老舗喫茶「ビーイン」(西荻窪)
目の前でマスターが淹れてくれるアイスコーヒー
西荻窪には、どこか時間がゆっくり流れているような印象があります。以前ご紹介した「物豆奇」や「それいゆ」「どんぐり舎」など、昔ながらの喫茶店が営業を続けられるのも、そんな街の空気感の影響なのかもしれません(残念なことに、先ごろ「ダンテ」は閉店してしまいましたが)。
今回ご紹介する「ビーイン」も、そういう意味ではとても西荻らしい店だといえるでしょう。北口の「北銀座通り」を青梅街道方面に進み、最初の角を左折。有名な「海南チキンライス 夢飯」の並びにある小さな喫茶店です。
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手書きの看板がいい感じ
手書きの立て看板にもあるように、1972年からこの地で営業を続ける老舗喫茶。“炭火珈琲”と謳っているあたりからも、1970年代の炭火コーヒーブームを思い出すことができます。
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時の流れが止まったかのようなたたずまい
決して現代風ではないし、むしろ年季の入った、奥の深い懐かしさを感じさせるたたずまい。しかし、そこがいいのです。いつ覗いてみてもお客さんがたくさん入っているだけに、さすがは西荻の老舗だといわざるを得ません。
実は、ひさしぶりにお邪魔したこの日の少し前にも、入れなくて諦めたことがあったんですよ。店の前で迷っている様子の女性が、マスターから「一席だけ空いてるよ」と声をかけられ、ほっとした表情で入っていく場面に遭遇したため、「ああ、きょうも満員か」って。
で、それから数日後の夕方に通りかかったら、奥の席がひとつだけ空いていたというわけ。でも考えてみると、夕方4時半という中途半端な時間帯でもほぼ満員というあたりがすごいですよね。
つまりはそういう店なのです。完全に地域に密着しているのです。
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店内は1970年代のまま
店内に入ると両側に、木製のテーブルと椅子が並んでいます。一段上がった奥の右側にはカウンターがあり、今回はその向かいの席へ。そこから店内を見渡してみれば、昔とまったく変わっていないことがわかります。
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雑然としているのに落ち着く
なお店内には(おそらく有線放送の)J-POPが流れているのですが、僕の背後のテレビからはけっこうな音量でニュース番組が。つまり音楽とアナウンサーの声が混ざり合って混沌としたムードを生み出しているわけですが、それもまた味。
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壁にはサイン色紙も
さて、この日はまだ暑かったので、アイスコーヒーを頼むことにしました。その時点で他に2人のお客さんのオーダーが入っていたため忙しそうでしたが、老齢のマスターはキビキビしていて動きに無駄がありません。
そのため、さほど待たされることもなく、アイスコーヒーが運ばれてくることに。が、ここに“サイフォンで炭火コーヒーを淹れる店”としての注目すべきポイントがあります。
まずは、たくさんの氷が入ったグラスとガムシロップ、ミルクピッチャー、ストローが並ぶ木製のプレートが運ばれてきます。次いでサイフォンを手にしたマスターが、グラスに熱いコーヒーを注ぎ込んでくれるのです。
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目の前でコーヒーが注がれる
つくり置きなどはしないというポリシーを感じることができるわけですが、手間がかかるだけに、なかなかできないサービス。しかし、そんな手間をかけてくれるところに、このお店の魅力が反映されていといえるでしょう。
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アイスコーヒーは苦味が絶妙
そういえば、コーヒーショップでアルバイトしていた高校生時代にも、「アイスコーヒーはこうやってつくるんだよ」と教わったことがあったよなあ。そんなことを思い出させてくれもして、その時点で満足度はマックスに近い状態。
肝心なのは味ですが、ここまでしっかり淹れられたアイスコーヒーなんですから、おいしいに決まっています。端的にいえば、「ああ、炭火コーヒーって、たしかにこうだったよな」と実感できる味。
好みにもよりますが、とはいえできればガムシロップやミルクは入れずに飲むべきだと個人的には思うな。苦味の強さが心地よく、その味もまた伝統を感じさせてくれるから。
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カウンターにも座ってみたい
なお参考までに書き添えておくと、ここは食べものも非常に充実しています。トーストやサンドウィッチはもちろんのこと、ピラフ、カレー、カレーなどバリエーションがとにかく豊富。
今度お昼どきに伺ったときには、前から気になっている「神戸そばめし」をオーダーしてみたいと思います。なぜ西荻で神戸のそばめしなのかって、ちょっと気になるじゃないですか。
●ビーイン
住所：東京都杉並区西荻北3-21-2 徳田ビル1F
営業時間9:00～23:00
定休日：無休
