いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、 武蔵小金井の立ち食いそば店「白樺」をご紹介。

  • ドンキ裏手のお手軽そば店「白樺」(武蔵小金井)

ちくわそばを頼んでみたら……?

武蔵小金井駅の北口を出たら、すぐに目につく「MEGAドン・キホーテ」脇の路地へ。そう、そのまま突き当たると、以前ご紹介した「ハンバーグレストラン 葦」にたどり着くところです。

が、今回のお目当てのお店はその手前なかほどの右側。角地で静かに存在感を放つ、「白樺」という立ち食いそば屋さんです。

  • ふらっと立ち寄りやすい雰囲気

こぢんまりとした店構えはいかにも個人経営の店っぽい感じですが、じつは「ハンバーグレストラン 葦」と同系列。経営母体は吉祥寺の居酒屋だそうです。なのに、チェーン店っぽくないところがいいですよね。

狭い店内は、すぐ正面のL字型のカウンターを中心としたつくり。入り口を入ってすぐ脇の券売機で食券を購入するスタイルになっています。

  • 券売機に並ぶメニューもシンプル

そのラインナップは、いたってシンプル。大手チェーンでよく見るオリジナルメニューや限定メニュー的なものは一切なく、「かき揚げ」「たぬき」「きつね」「海老天」「月見」などなど、いたって立ち食いそば屋らしいメニューだけが並んでいます。

そんな、妙に気をてらわないところがいいですよね。あくまでも、小腹がすいたときにちょっと立ち寄る店という感じで。

ってなわけで、ちくわそばに生卵を入れてもらうことにしました(ちくわそばの地味っぷりが昔から好きでしてね)。食券を渡し、カウンターの隅でしばし待ちます。

  • 天ぷらもズラリ

なお、立ち食いそばといいましたが、椅子に座るスタイルです。いまの立ち食いそば屋さんは大半がそんな感じですよね。飛沫防止のアクリル板で仕切られてもいるし、狭いながらも安心できます。

厨房内で、ふたりのおばちゃんがテキパキと働いているのが印象的。人当たりもよく、常連さんとも親しげに会話をしています。とはいえ常連さん以外を拒むわけではなく、接客はとても行き届いている印象。

お昼前なのにぽつぽつとお客さんが入ってきて、おばちゃんたちと会話をし、食べ終わったら一声かけて出ていくーー。目の前で展開されるそんなローテーションを、とても心地よく感じます。

  • ちくわそば+生卵

さて、そうこうしているうちに、ちくわそばが登場。

中央に生卵が落としてあって、それを囲むようにわかめ、ネギ、ちくわ天が並び……。いや、ちょっと待て! ちくわ天そばを頼んだのに、さやえんどうとかぼちゃの天ぷらも入ってるぞ!

  • さやえんどう、かぼちゃの天ぷらも!

なんというサービス精神! おかげで基本的には地味であるはずのちくわそばが、ずいぶん華やかな印象になっています。こういう、さりげない配慮はうれしいなあ。

  • そばは柔らかめ

麺にコシはなく、ボソッとした、いかにも立ち食いそばといった印象。でもね、それがいいんですよ。こういうお店で食べるそばに、コシは必要ない。むしろ、これがいい。個人的にはそう思います。

甘めのつゆとの相性も抜群だし、天ぷらもカラッと揚がっていて食感が抜群。理屈以前に“食べる楽しみ”を実感できる、正統的な立ち食いそばだと感じました。

しかもね、自然と耳に飛び込んでくるお店のおばちゃんたちと常連さんとの会話もいい感じなんです。なぜかBGMはずっとユーミンだったのですけれど、むしろ、なにげない会話のほうが心地よかったりして。

たとえば、「きのうは遅くなっちゃったから、きょう来たの」といいながら入ってきた常連らしき高齢のおばあさんは、注文の品を待ちながら小さな声で「お父さんが亡くなってから、なにもやる気がなくなっちゃってね」なんてことを口にするのです。

で、それを聞いたおばちゃんが、「そうなの……。でも、元気出さなきゃね」とさりげなく励ましたり。

そばやうどんを食べるためだけではなく、地元の人たちのコミュニケーションの場としても機能しているわけですね。

暖かくていいなあ。長く営業を続けられているのは、こういう人間味ある姿勢のおかげなのでしょう。

●白樺
住所:東京都小金井市本町5-12-11 近江ビル1F
営業時間:[月~金]8:00~翌1:00、[土日祝] 8:00~24:00
当面の間は[月~土]11:00~20:00、[日] 11:00~17:00
定休日:無休