ストレートプレイにミュージカル、バレエにオペラ、大劇場から小劇場まであちらこちらの劇場で、実にさまざまな舞台が楽しめる今。迷ってしまうほど数々の演目が上演されている中、今もっとも注目されているのはどの作品? 今月から始まる演劇コーナーでは、舞台評論家の藤本真由が厳選した話題の公演を中心にイマドキの舞台事情を解説します。

『道元の冒険』 - 鬼才・蜷川がつくる新しい"栗山千明"

昨年11月には『カリギュラ』で今をときめく小栗旬の舞台俳優としての能力をさらなる高みに引き上げ、今年1月には平幹二朗を主役に据えて観客の作品観を一変させる奥行き深い『リア王』を提示してみせた演出家・蜷川幸雄。70歳を超えてなお精力的に意欲作を発表し続ける彼が、劇作家・井上ひさしの初期の傑作『道元の冒険』で阿部寛とタッグを組む。つかこうへい作・演出『熱海殺人事件~モンテカルロイリュージョン~』等の舞台作品でも活躍してきた阿部は、2004、5年の『新・近松心中物語~それは恋~』で蜷川作品もすでに経験済み。3年ぶりの顔合わせとなる2人が、多彩な劇中歌&シニカルなユーモアあふれる言葉遊びを駆使して宗教家の苦悩と傲慢を鋭く描き出してゆくこの戯曲を、21世紀の今いかに甦らせるのか、注目の作品。

舞台初挑戦を果たす俳優たちがどう新たな才能を開花させるかも、蜷川作品においては見どころの一つ。今回のチャレンジャー、栗山千明が観客を前に披露する演技も楽しみな限りだ。他にも、北村有起哉、横山めぐみら、充実のキャストが集結。井上作品の常連として名高い木場勝己が見せる名演技も見逃すわけにはいきません。

『道元の冒険』
日程 2008年7月7日(月)~28日(月)
会場 Bunkamuraシアターコクーン(東京・渋谷)
井上ひさし
演出 蜷川幸雄
キャスト 阿部寛、栗山千明、北村有起哉、横山めぐみ、木場勝己ほか
料金 S席 9,500円、A席 7,500円、コクーンシート 5,000円

『五右衛門ロック』- 松雪泰子ら豪華出演陣にも注目!

ドラマと音楽と立ち回りが華麗に融合したスピーディな作風で絶大な人気を誇る「劇団☆新感線」。7月の新宿コマ劇場で取り上げるは、稀代の大泥棒として名高い石川五右衛門! 釜茹でになりあえなく死す……のエピソードがあまりにもポピュラーなこの五右衛門が、実は逃げおおせて他国に脱出、ドでかい事件を引き起こしていたとしたら……という奇想天外な発想で物語をつづるは座付作家の中島かずき。この"海洋冒険活劇"を、ロックをまじえていかに料理していくのか、主宰・演出のいのうえひでのりの手腕に注目。

五右衛門に扮するは、その独特のキャラクターで、劇団の看板役者として、そして外部作品でも活躍中の古田新太。そして、何といってもゲストが豪華! 同劇団作品に出演する日が来るとは……と、新鮮な驚きさえ誘う大御所、北大路欣也。今年4月の『どん底』でのまっすぐな演技が好感度大だった江口洋介。ミュージカル『キャバレー』で松尾スズキ演出に応えてヒロインを好演した松雪泰子。他にも、川平慈英、濱田マリ、森山未來らが大集合。もちろん、劇団が誇る個性派メンバーも勢揃い。夏の暑さを吹っ飛ばすスカッと爽快な舞台に期待大!

『五右衛門ロック』
日程 2008年7月8日(火)~28日(月)
会場 新宿コマ劇場(東京・新宿)
中島かずき
演出 いのうえひでのり
キャスト 古田新太、松雪泰子、森山未來、江口洋介、北大路欣也ほか
料金 S席 12,500円、A席 10,000円、B席 7,500円

『SISTERS』 - 松たか子×鈴木杏の演技バトル!

劇作家・演出家・俳優として注目される若手演劇人の中で、ひときわ熱い視線を集めているのが長塚圭史。演劇ユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」の主宰として活躍するのみならず、外部公演にも作品を提供、海外戯曲の演出も手がけるなど、活動の場を着々と広げている彼が、7月のパルコ劇場で、松たか子と待望の顔合わせを果たす。家族の問題を手がかりに人間の姿を抉り出してきた長塚、今回の作品では、父と娘、夫と妻、姉と妹といった関係をキーに、このテーマにさらに深く取り組む。

舞台はとあるさびれたホテル。新婚旅行を終えたばかりでここにやって来た若夫婦(松たか子・田中哲司)と、ホテルに長年暮らす父娘(吉田鋼太郎・鈴木杏)、ホテルの経営者(中村まこと)、従業員(梅沢昌代)が顔を合わせる。ホテル暮らしの若い娘が新妻に接近していったことから、新妻の隠された過去が浮かび上がり――。若手実力派の誉れ高い松&鈴木の真剣演技バトルが楽しみ。今年秋より文化庁の海外留学制度で1年間日本を離れることが決まっているため、長塚作品が次に観られるのはしばらく先のこと。気になっている方はぜひこの機会にチェックされたし。

『SISTERS』
日程 2008年7月5日(土)~8月3日(日)
会場 PARCO劇場(東京・渋谷)
作・演出 長塚圭史
キャスト 松たか子、鈴木 杏、田中哲司ほか
料金 8,400円(全席指定)

あひるのひとりごと

はじめまして! おもしろい舞台ならジャンルを問わず食わず嫌いなしのあひること藤本真由と申します。これからも注目の作品をどしどし紹介して、一人でも多くの方と一つでも多くの舞台の幸福な出会いのお手伝いができればと思っています。 そんなあひるが、今回紹介した3つの作品のほかに今月楽しみにしているのは、「アメリカン・バレエ・シアター(ABT)」と「英国ロイヤル・バレエ団」の来日公演。まるでディズニーランドのアトラクションをまとめて舞台に載せてしまったようなエンターテインメント精神が痛快なABT、典雅なロイヤル・スタイルで華麗な物語を舞台上に織り成すロイヤル・バレエ――。バレエ初心者でも楽しめること請け合いの二つの来日公演は必見です!
藤本真由

舞台評論家。東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。2001年に退社し、フリーに。以後、演劇を中心に国内はもとより海外公演のインタビュー・取材を手がけ、新聞・雑誌・公演プログラム等に記事を寄稿している。藤本真由オフィシャルブログ