「小学、中学、高校のどれが一番面白かったか?」
それは「漫画、アニメ、実写映画のどれが一番面白かったか?」という問いに似ている。それぞれの長所・短所があるように、漫画には漫画の、実写には実写の良さがある。…なんつって、近所のセブンイレブンで買った「ふんわりとろける食感のキャラメルスナック」を皿に盛り、グラスに氷を入れてキリン「生茶」を注ぎ、今夜も部屋のテレビの前でソロシネマタイムがやってきた。
さて、今週紹介する作品は『亜人』(2017年)だ。桜井画門が描く、公開当時で累計650万部突破の人気漫画を『踊る大捜査線』の本広克行監督が映画化。交通事故に遭い亜人であることが発覚した永井圭役に佐藤健、永井と敵対し最凶の亜人として人類に牙を剥く謎の男・佐藤役に綾野剛という二本柱にこの映画は支えられている。
■映画化の難易度が高い作品
なお、“亜人”とは「死ぬことができない新しい人類である。どれだけ傷ついても、一時的に死ぬことで元通りに再生する特徴を持つ。26年前、アフリカで初めて発見され、現在、全世界で46体確認されている。日本政府は亜人管理委員会を設立し、謎を解明するため日々研究を重ねている」設定だ。亜人だけに見え、体外に放出する黒い粒子の集合体“IBM”は人型となり戦闘も可能である。……これだけの情報でめちゃくちゃ映画化の難易度が高い作品であることが分かる。なぜなら、リアリティがない物語を実写化するわけだから。
これが料理人とかサッカー選手を描いた漫画原作なら、実際に存在する職業なのでモデルも多く実写化の役作りのヒントも多いだろう。だが、亜人は何度でもリセットできるRPGゲーム的なファンタジーの設定なので、実世界に参考になるものがない。もう役者の力量に思いっきり左右される題材だ。ちなみに元広島カープの助っ人4番打者、それはアレンだ。亜人とアレンは似ているようで全然違う。同じように漫画と映画も全然違う。
基本的に漫画原作の劇場映画は2時間前後にまとめるため、結果的に原作の設定を変えたり、主要キャラを大胆に削りがち。ストーリーが破綻し、ファンの怒りを買い、消化不良の中途半端な映画になってしまうことが多々ある(かと言って、原作に忠実に作っても駄作というケースもあるので難しい)。
■佐藤健「極論を言うと…」
この難易度の高い『亜人』を実写化するにあたり、主人公の永井を演じた佐藤健は「極論を言うと、僕は“死なない”“リセットで再生する”という設定さえあればよかったんです。その“命を繰り返す”設定を最大限に生かして、原作ファンも『おもしろい』と言ってくれるものを作りたいと思ってました」と公式パンフレットでコメントしている。
すごい。さすが、実写化マスターこと佐藤健である。演技力だけでなく、この思い切った割り切りが、『るろうに剣心』や『バクマン。』の漫画実写化のヒットに導いたのではないだろうか。本作でも原作の良さは継承しつつ、心身ともにタフな映画オリジナルの永井圭を作り出すことに成功している。
■佐藤健と綾野剛のアクションシーン
綾野剛が演ずるテロリスト佐藤にしても、原作より設定年齢がかなり若いが、滋賀県の旧住友セメント工場で撮影が行われた激しく緻密なSATとの戦いでは、その肉体の若さがフィジカルなアクションシーンに説得力をもたらした。
「そこまでしてなぜ人間の味方をする?」
映画の終盤、ふたりが対峙する決戦で、宿敵からそう問われた永井は、「人間とか亜人とかそんなことどうでもいいんですよ。僕はただあんたが嫌いなんだよおっ!」と鬼の形相で咆哮して戦い続ける。リアリティのない設定のはずが、亜人と人間の境界線に存在する永井圭の表情には、確かにリアルな感情があった。
さて、1本の作品として気になった点もいくつかある。まず登場人物造形や音楽の使い方がところどころ野暮ったい。思えば、90年代後半の『踊る大捜査線』を大ヒットさせた頃の本広監督は、時代を代表するというより、時代そのものという特殊なポジションにいたと思う。
1998年(平成10年)10月31日、有楽町の日劇ではなんと徹夜組を含む3,200人の大行列ができていた。今より消防法が緩く、映画館が全席指定制になる前。この日から公開開始の『踊る大捜査線 THE MOVIE』を観るために、日劇史上No.1の観客が建物の周囲を囲むように並んだのである。まさに90年代の邦画界、そして黄金時代のフジテレビを象徴する存在。
しかし、爆発的に流行ったものの宿命として、しばらくしたら過去の象徴となり、どうしても古く見えてしまう。『亜人』もシーンによっては、本広作品で2000年公開の迷作『スペーストラベラーズ』を彷彿とさせた。
それでも、映画『亜人』は漫画実写化の絶対的エース佐藤健によって、コミックスやアニメとはまた別の魅力を持った娯楽作品に仕上がっているのである。
■【ソロシネマイレージ 63点】
川栄李奈演ずる下村泉と田中(城田優)の肉弾バトルシーンもセミファイナル級の盛り上がりだ。柔よく剛を制す、多彩な関節技を操る美女格闘家(実は亜人)ことグラップラー下村泉の勇姿は必見!
(ソロシネマイレージとはひとり家映画オススメ度の判定ポイント。なお点数の高さは映画の世間的評価とは全然関係ない)
『亜人』
桜井画門による同名漫画を映画化。研修医の永井圭(佐藤健)はある日、交通事故に遭って死亡するが、直後に肉体が復活し、生き返る。絶対に死なない新人類【亜人】と発覚した圭は研究施設に監禁され実験のモルモットとなるが、【亜人】仲間に救出される。しかし、人間でいたい圭は亜人の仲間と対立していくことになる。
Amazonプライム・ビデオ、huluほかで視聴可能(2020年6月5日時点)。