小雨の降る肌寒い冬の朝、三ノ輪橋の「立喰い生そば 長寿庵」ののれんをくぐった。都電荒川線の三ノ輪橋停留場とは目と鼻の先、東京メトロ日比谷線「三ノ輪」駅からも歩いて5分もかからない。昭和通りを北に進み常磐線の下をくぐった先にある小さな立ち食いそば店だ。店前のガラス戸には飾り気のないお品書きが貼られている。

  • 「立喰い生そば 長寿庵」の「天ぷらうどん」(税込340円)

    「立喰い生そば 長寿庵」の「天ぷらうどん」(税込340円)

ご婦人がいる下町のお店

朝と言っても、訪問したのは9時過ぎ。通勤客を相手にした朝食のピークは一旦過ぎたと見え、店内に入ると客はいなかった。左手に厨房。それを囲むL字のカウンターにはスツールが5脚。右手側にはふたりがけの小さなテーブルが3脚置かれていて、計10人ちょっとの店内サイズである。

店はやや年配のご婦人がひとりで切り盛りしていた。軽やかな挨拶も、都心のチェーン店では得られない雰囲気だ。

メニューはごくごく一般的。天ぷら、月見、きつね、わかめ、たぬき……いつもなるべくこの連載のためにと、少し変わったそばを注文しようと心掛けているのだが、それが通用しない感じ。こういう時は直感に従って。「天ぷらうどん」(税込340円)を注文した。そばでなく、うどんで。

入ってきた引き戸は結露で濡れていた。セルフの水を汲み、AMラジオを聴きながら2~3分待った。代金引換式なので、出来上がりと同時に支払う。にしても、340円。下町価格とはいえ、破格だ。

ツユが染み入るうどんかな

大抵の場合、「天ぷら」は「かき揚げ」を指す。こちらもしかり。一口かじると、どこか懐かしい味。このネギや桜エビを使ったかき揚げはカップうどんの後乗せサクサクの天ぷらに似ている。その豪華版(?)とでも言うべきか。

ツユはダシが強い。油がじんわり広がり、こっくりした風味に。立ち食いそば店でうどんを食べるのは久しぶりだ。麺は細めで、ゆでた麺をそのままツユにつけたというよりも、少し煮込んだように茶色に染まっている。よく味が染みていて最高にうまい。やはり、うどんセレクトに間違いはなかった。

  • 「立喰い生そば 長寿庵」へは東京メトロ日比谷線「三ノ輪」駅から徒歩5分

    「立喰い生そば 長寿庵」へは東京メトロ日比谷線「三ノ輪」駅から徒歩5分

溶けた衣のかけらと最後の一滴までおいしくいただく。入れ違いにお客さんがひとり。注文は「きつねうどん」だった。

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に銭湯を紹介する同人誌『東京銭湯』『三重銭湯』『尼崎銭湯』などをこれまでに制作。