この連載も、今回で50回目を迎えた。1杯ワンコイン計算だと、50杯食べても2万5,000円。食べ歩くと、どう考えても交通費の方が高い。元々のハードルが低いので、失敗してもまあしょうがないか、と思える。その割に、ハズレは滅多にないどころか、アタリにもしばしば出くわす。つくづくやさしい趣味だと思う。是非皆さんも試していただきたい。

「鴨南そば」(税込500円)

さて、記念すべき回に訪れたのは築地。築地と言えば、やはり場内外市場を中心としたグルメ。お寿司を筆頭に、よそではちょっと食べられないような味を求めて、国内外から観光客が殺到する。でも、今日は市場まで全然行かない。東京メトロ日比谷線「築地」駅4番出口上がってすぐ、「天花そば」に行く。

天丼やカレーもラインナップ

店に戸はなく、短い暖簾で隔てられた「そばスタンド」で、入り口すぐ左手に食券機がある。店内は外からでも見通せるが、左側に厨房カウンター、右側にカウンターテーブルがある。イスはなく、左で受け取って右でサッと食べる感じ。思ったより奥に深く、平日9時頃、相客は3~4人程いた。

BGMはAMラジオである。早速食券を買おう。ラインナップは、かき揚げやちくわ天、春菊天などのオーソドックスなものを中心に、天丼やカレーのセットものも。取り立てて珍しいメニューはないが、一通りのニーズに応えられる、といった印象。今日は「鴨南そば」(税込500円)を注文した。

肉のうまみが生きたツユ、麺には山芋を

水をくんで待つこと1~2分で完成。鴨肉と、小口(刻み)切りと斜め切りという、2種類のネギが盛られている。ツユにはアブラが浮かんでいるが、いつもの天ぷらのアブラではなく、肉からにじみ出したもので、甘みと旨みが強い。

ツユ自体にもこだわりがあるようで、自家製のカエシを一週間以上寝かせたものらしい。まろやかで上品な味だ。肝心の麺だが、コシがあり、ツルッとした喉越しの口当たりのいいもの。こちらもつなぎに山芋を使うなどした、この店オリジナルのものらしい。

「天花そば」は東京メトロ日比谷線「築地」駅4番出口の側にある

ささやかな店構えながら随所に「ならでは」を光らせるところは、さすが舌の肥えた築地利用客を相手にしてきているだけある。バランスのとれた飽きのこない一杯だった。

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。