前回の「麦の城」に引き続き、今回も大森である。最寄りは京急本線「大森海岸」駅で、徒歩2分ほどの距離にある「甲斐そば」。JRの大森駅からも歩いて10分もかからないくらいのところだ。路面には大きなのぼりが垂れ下がっている。そちらによれば、「高級生そばを使用したこだわりの茹で立て蕎麦」「大森名物」とまでうたっており、自信にみなぎっている。

「春菊そば」(税込400円)はボリュームも見た目も満足の一品

上品な生そばを少し辛めのつゆで

入口は階段を上がって中二階。自動ドアから入ると右手に券売機。そばのラインナップはシンプルに天ぷらや月見、わかめなど。それに丼メニューがいくつかある。目立っていたのは、「甲斐そば名物」の「春菊そば」(税込400円)。せっかくなのでこちらを注文。店内は正面が厨房、それを囲むようにカウンター席。手前側に2人がけテーブル席がいくつか。着席のみで、立ち食いスペースはない。

蕎麦は注文を受けてから茹で上げるとのことなので、多少(と言っても2~3分だが)待つ。その間に春菊に思いを馳せた。鍋の具材なんて春菊だけでも成立すると思うほど、筆者は春菊が本当に大好きなのだ。数年前に覚えた、生の春菊を使ったサラダレシピは今もお気に入りだ。

ただ、その季節感の強い名前のせいで、なんとなく期間限定野菜(もちろん旬はあるのだけれど)として見られることが多い。こちらは毎月食べたいのに……。その点、立ち食いそばは、春菊を天ぷらにしてコンスタントに提供してくれる幸せな場所だ、なんて思っていたら到着。

丼からはみ出すほどのジャンボ春菊天。緑がとても美しく、歯ざわりもサクサクでバツグン。かみしめると鼻に抜けていく芳醇な春菊だ。自信を持っている麺もさすが。あっさり上品な生そばが、少し辛めのつゆとうまくバランスを保っており、実に丁寧な仕事がうかがえる。

「大森名物」の看板を下げた「麦の城」へはJR大森駅から徒歩10分圏内

決して派手な立地でも目立つ外観でもない当店だが、安く、間違いないものを食べさせてくれる。"看板に偽りなし"であった。

※記事中の情報は2016年6月取材時のもの

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。