今回の一杯は、池尻の「ホーチャン」から。一風変わったこの店名だが、実は「ホーチャン」は池尻に2店あり、ひとつは玉川通り沿いの「駅前店」。この日訪れたのはもう一軒の方で、東急田園都市線「池尻大橋」駅からは5分ほど歩いたところにある。駅前店は当店の姉妹店のようなのだが、いつ前を通っても営業時間内になかなかお目にかかれず、この日も10時半頃でまだ開店前だった。

  • 池尻大橋「ホーチャン」で、家庭の温かみある「カレーそば」でほっこり

    「カレーそば」(530円)

昔懐かしい定食屋の風情が漂う店内

「ホーチャン」は厳密にいえば立ち食いそば店ではなく、町の定食屋、といった風合いの店で、厨房と向き合って長いカウンター、奥にテーブル席もある。そばうどんはもちろんあるが、他にもカレーやフライ、丼などから焼き魚、ハムエッグ、しらすおろしや納豆など一品料理も各種取り揃えられている。ショーケースや電子レンジこそないものの、この手の飲食店は貴重だ。しかも渋谷からも程近い池尻で、ありがたい。

前述の通り、時計は10時半。朝食営業もやっているようだが、このタイミングはちょうどアイドルタイムというところだろうか、のれんをくぐると大将が客席カウンターでタバコを吸いながら厨房の女将さん? らしき方と談笑中。「え、何? ああ、お客か」という視線が突き刺さるが、その手のは毎度のことなのでもう慣れた。店内はテレビもラジオもついておらず、静かである。

壁にはメニューの短冊板。セルフの水を汲みながら、思案。そばうどんのラインナップとしては、きつねやたぬき、わかめ、かき揚げなど至ってオーソドックスな中、「カレーそば」(530円)は他店では比較的見かけないかなと思い、これにした。

家庭の優しい味わいが魅力のカレーそば

そばをゆで、雪平鍋でカレーを温めているようだ。客なしワンオペで3~4分はかかったので、このあたりも立ち食いそばとは別物と考えていただいてよい。代金は適当にカウンターに置いておいたら、完成と同時に会計が行われた。

カレーそば、カレーライスと違って色のコントラストがないため、見た目よく写真に撮るのが難しい。ルウは家庭の優しい味。小さく切られた肉やにんじん、たまねぎが入っており、そばツユで溶いているのか、サラッとしていながらスパイシーさはほとんどなく、コクだけが残っている。ダシの風味もあまりなく、蕎麦粉少なめのうどんに近い茹で麺はボリュームたっぷり。ガツガツすすって満腹の一杯だ。

  • 東急田園都市線「池尻大橋」駅からは5分ほど歩いたところにある「ホーチャン」

しかし、カレーライスで白米を食べ切ってルウを残す人はあまりいないと思うが、カレーそばはルウとツユの境目が曖昧でどこまで飲み干すべきかが難しい。あと一口、もう一口、最後の一口としているうちに全て飲み干してしまった。ごちそうさまでした。

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に銭湯を紹介する同人誌『東京銭湯』『三重銭湯』『尼崎銭湯』などをこれまでに制作。