「頭痛くらいで病院に行くほどではない」「市販薬で何とかなる」――そう考えながら、頭痛を我慢している人は少なくありません。製薬会社のファイザーが2026年に行った調査では、片頭痛の症状があっても「市販薬や我慢で何とか勤務できる」と考える人が約75%いる一方、そのうち約74%が実際には仕事への悪影響を抱えていたことが分かっています。
頭痛専門医の五十嵐久佳医師は、「片頭痛は“ただの頭痛”ではなく、生活や人生に大きな影響を及ぼす神経疾患」と話します。片頭痛の患者が抱えやすい誤解や、周囲に理解されにくい苦しさについて聞きました。
「頭痛くらい」で受診を我慢してしまう人は多い
――「頭痛くらいで病院に行くほどではない」と考える方は多いですが、先生の診療現場では、どのような理由で受診を我慢している人が多いのでしょうか。
五十嵐先生:頭痛があることが当たり前と思って生活している、市販薬を飲めばとりあえず何とかなる、頭痛はだれにでもあることだし、受診してもよいのか、と思っている人がとても多いと思います。
また、片頭痛は神経疾患の1つであり、治療により症状が改善し、よりよい生活ができる、という情報が届いていないこともあります。どこを受診してよいのかわからない、という人もいます。
一方、受診したのに頭部CTやMRIの検査を受け、「何も問題ありません」と言われたことにより、その後の通院をあきらめてしまった、という残念なケースもあります。
PMSや“体質”と思い込み、長年我慢しているケースも
――片頭痛の患者さんに多い“誤解”や、“もっと早く受診していれば…”と感じるケースがあれば教えてください。
五十嵐先生:女性の場合、月経前から月経中に片頭痛が起こることが多いのですが、月経前症候群(PMS)や月経痛の一部、と思ってあきらめている人がいます。
外来を受診なさる患者さんを年代別にみると男性も女性も40代が最も多く、次が30代、50代と続きます。多くの患者さんは10代で片頭痛を発症していますので、何年もの間、頭痛で生活に支障をきたしていることになります。
片頭痛がいつ起こるか不安を抱えて生活し、本当はしたかった仕事、なりたかった職業をあきらめた人もいます。
また、市販薬で対処し、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛:MOH)になってしまっている人もいます。MOHとは、片頭痛や緊張型頭痛などの頭痛もちの人が痛み止めを飲みすぎることにより、もともとの頭痛が悪化したり、新しいタイプの頭痛が起こった状態を示します。月に15日以上の頭痛がある人の半分以上はMOHで、多くは片頭痛を持っている人です。MOHになってしまうと生活への支障がさらに大きくなりますし、症状が改善するのに時間がかかりますので、もっと早く受診してくだされば、と思います。
片頭痛に多い特徴とは
――「片頭痛を疑った方がいい」という特徴があれば教えてください。
五十嵐先生:繰り返す頭痛をお持ちの方々の多くは、緊張型頭痛か片頭痛です。
片頭痛発作は、
①片側の痛み
②ずきんずきんと脈打つ痛み
③かなりつらい痛み
④動くと痛みが増悪する、または動くのを避ける
の4つの症状のうち少なくとも2項目を満たし、そのような痛みが4~72時間続きます。
また、頭痛の時に
①吐き気や嘔吐
②光と音を煩わしく感じる
のうち少なくとも1項目を伴います。
片頭痛といっても両側が痛む人は40%ほどいますし、締め付けられるような痛みの人もいます。片頭痛と診断するための最も重要な症状は、つらい痛みでじっとしているほうが楽、光と音が煩わしく、ひどくなると吐き気がする、ということです。
注意が必要なのは肩こりや首の痛みを伴う場合も多いので、緊張型頭痛と誤診されてしまうことがあることです。
痛みだけではない――片頭痛に伴うさまざまな症状
――「痛みそのもの」以外に、片頭痛の方が困りやすい症状や特徴はありますか。
五十嵐先生:片頭痛というのは痛みだけではありません。頭痛の前に肩や首が凝ってきたり、生あくびが出る、空腹感を感じる、イライラする、手足がむくむ、などの予兆がみられる人がいます。
また光・音・臭いに敏感になり、吐き気がしたり吐いたりします。発作中は考えがまとまりにくくなったりしますし、頭痛が改善してもだるさ・疲労感が残ることがあります。また、閃輝暗点がある人は車の運転などに支障をきたします。
昇進を諦めた人も――片頭痛が仕事や家庭に及ぼす影響
――片頭痛は、仕事や家事、育児など日常生活にどのような影響を与えやすいのでしょうか。
五十嵐先生:様々な影響があります。片頭痛があるために昇進をあきらめたり、本来したい仕事を引き受けることを躊躇する人がいます。また、周囲に迷惑をかけるのではないかと無理をして仕事をする人も多いです。一方、無理をして仕事をしても仕事がはかどらず、労働生産性も低下します。
実際、ファイザーの調査では、片頭痛の症状があっても「市販薬や我慢で何とか勤務できる」と考える人が約75%いる一方、そのうち約74%が実際には仕事への悪影響を抱えていました。
家庭ではパートナーとの関係に影響を及ぼしたり、子どもたちとの時間が犠牲になる人もいます。また、片頭痛発作が起こると車を運転できないため、子どものお迎えができなくて困る、という方もいます。頭痛があると食事の支度が困難になりますが、子どもたちに食事をさせるために無理をしてしまう、という人もいます。
「頭痛くらいで…」と理解されにくい苦しさ
――周囲から理解されにくいことで、患者さんが苦しんでいる点があれば教えてください。
五十嵐先生:周りからさぼっていると思われたり、「頭痛くらい市販薬を飲めば大丈夫でしょう」と言われたりします。生活管理が悪いからだ、と言われることもありますし、ご本人も頭痛が起こるのは私自身のせいだ、と思ってしまう人もいます。
また、職場の眩しすぎる照明や空調などで片頭痛が誘発されることがあってもなかなか言い出せません。痛みは周りの人に理解してもらいにくいため、自分の殻に閉じこもってしまうことがあります。
実際、ファイザーの調査でも、仕事の場面で約84%が「周囲に症状を言えなかった」「症状を隠した」「理解してもらえなかった」のいずれかを経験していました。
「20歳からやり直したい」と話す患者も
――受診によって、「もっと早く相談すればよかった」と患者さんが感じることには、どのようなものがありますか。
五十嵐先生:患者さんは長い間、片頭痛で困っています。月に5日片頭痛があれば、1年間では60日となります。
また発作がない時にも不安感、活力や集中力の低下、何となくすっきりしないなど、様々な症状があり、生活に影響を及ぼしています。
治療により頭痛が改善した人は、「もう一度、20歳のときからやり直したい」という人もいます。漫画家を目指していたけれど片頭痛のためにあきらめた、でも、もう一度目指してみたい、と言われた患者さんもいらっしゃいます。
また、友人に旅行に誘われても片頭痛に対する不安から断っていたけれど、今は心配なく旅行に行けます、という患者さん、いつも痛み止めを持ち歩いていたのに今は平気になりました、とおっしゃる患者さんも多いです。片頭痛に対する不安から解放される人が大勢いらっしゃいます。
後編では片頭痛の治療についてお伺いします。
