ここ10年くらいで、急速に広まった“推し活"という概念。自分の“推し"を応援し、さらに“推し"を応援するために行う行動を楽しむ様子を“推し活"と呼びます。毎日の生活に彩りを与え、日々の仕事や勉強のモチベーションを上げたり、ストレス発散にもなるのが、“推し活"なのです。
とは言え、そこまで応援できる“推し"には、なかなか出会えないという人も多いもの。そんなに人におすすめなのが、「自分自身を推す」という“セルフ推し活"です。
今回は、「セルフ推し活」を始めたイラストレーター・漫画家のワダシノブ氏の著書『セルフ推し活BOOK 自分=推しとして過ごすアイデア36』(ワニブックス)よりセルフ推し活を始めたきっかけについてお届けします。
はじめに
「推しがいないなら自分を推せばいいのでは?」
「わたし自身を推す」という考えは、わたしが推している、とあるK–POPグループの活動休止をきっかけに生まれた。
本書のテーマは「自分を推すこと」なので、わたし自身が自己肯定感の高い人のように思われるかもしれない。でも、実際は「わたしなんかにセルフケアはもったいない」と思ってしまう、自己肯定感が低めの人間。そこから今の「推し」に出会い、推し活をするようになって、どのように自分と向き合ってきたのか。
少しわたしの話をすると、昭和生まれの地方育ち、就職氷河期世代ど真ん中だ。女の多い家で育ったからか、男性目線からすると素直さやかわいげがないと見なされ、何かと生意気だと言われる子どもだった。今のように多様性を受け入れられる時代ではなく、一重で背高のっぽだったわたしは外見をいじられ、学校帰りに近所の子から見た目をからかわれることもあった。大人に相談しても「怒らないで、そんなこと気にしないの」と言われるような、今思えばひどくしんどい価値観が当たり前な環境だった。自尊感情の低さはここから始まったと思う。
幼少期からマンガやアニメが好きだったが、周りにバカにされるので言えない時代。地方の週末といえば、キャンプやスノーボードというアウトドアな娯楽が主流。しかし、わたしはそれらに興味を持てなかった。SNSもない時代だったのでオタクの友だちはもちろんゼロ。狭い地方のコミュニティで、美人でもなく、社交性も低い十代、二十代を過ごした。好きなものや特技を自由に表現して自分が思い描く理想の姿に近づきたいけど、周りの目を必要以上に気にして上手く表現できず自己否定をしていた。三十代に突入すると、イタリア人の夫と結婚、出産、イタリアへの移住、専業主婦という転機がやってきたが、それは自意識を別の方向へこじらせていった。
移住先のイタリアでは言葉もままならず、生まれたばかりの子どもと過ごす日々。無収入の劣等感から母親業に専念しようと思ったけど、わたしの理想像が「家族が最優先、自分は後」。自分でも、昭和すぎる古い母親像! とツッコんでしまいたくなるが、当時は本気でそう思っていた。手先は器用なタイプなので何かと手間をかけて、食事の支度や裁縫、DIY……と家事に時間が溶けていった。自分のためにお金や時間を使うことができなくなり、美容院にも行かずにセルフカットをしたり、服を買わなくなっていった結果、見た目はどんどんとボロボロに。それに比例するように自分が嫌いになっていった。「わたしはわたしのままでいい」と思えず、自尊感情はゼロに近づいていった。
この状況をなんとかしようと、自分を取り戻すために必死にできることを探した結果、イラストの仕事を始めることができた。そして、仕事にちょっと光が見えてきた頃に出会ったのが、人生で初めてできた「推し」だった。それは世界的に大人気のとあるK–POPボーイズグループ。
パンデミックが起こる直前、なんとなく見始めた動画で、推しにハマッた。メロディやビジュアル、メンバーの雰囲気……気づけば夢中になっていた。メンバー同士の絆に癒やされ、プロとしての厳しさに背筋が伸びる。アジア人差別を肌で感じてメンタルがきつかったステイホーム期間中、同じアジア人として世界で活躍する彼らの姿は、異国で闘うわたしにとって大きな励みになっていた。
「推しが頑張っているのだから、わたしも頑張ろう」
わたしは彼らの輝きを心の支えにするようになっていた。だけど、その「熱狂」がブーメランとなって返ってきた。推しは活動を休止する前に公式YouTubeで「ワールドワイドなスターゆえに、長年世界中からの重圧やハードなスケジュールに耐えていたが、限界に達してしまった」というようなことを話していた。その話を聞き、自分でも知らぬ間に、推しを理想の存在として祭り上げ、娯楽として消費して、夢や希望を託すようになっていたことに気がついた。それは、結構ショックだった。
そのうちに活動休止になり、ある日のことだった。いつものようにSNSに載せる中年女性の絵を描いていたら、ふと思いついた「わたしを推す」という言葉。
「推し活をしているの」
「へえ〜。誰を推しているの?」
「わたし」
たったそれだけのセリフだけど、なんだかいいなと思ってSNSにアップしたら想像以上の反響があった。
そうか。いつも誰かを推すことばかり考えていたけど、自分を推せばいいんだ。誰かに夢や希望を託すのではなく、自分で自分を信じて期待する。自分をケアして、機嫌を取っていく。推すエネルギーを、ほんの少しだけ自分に向ける。そんなことを考えたわたしが、自分を推すために考えて行動したことを書いた本。あなたにあなたを推す力が湧いてきますように。
ワダシノブ:広島県生まれ、イタリア在住のイラストレーター・漫画家。ステイホーム期間中に人生で初めて「推し」と出会った。イタリア人の夫、2人の子どもと暮らしている。



