血圧は常に変化しています。例えば便秘の時にトイレでいきむと血圧は急上昇することがありますし、排尿後には血圧が少し低下する傾向があります。今回は、そのような血圧変動について解説します。
■上と下、高い低い……血圧の基本をおさらい
血圧とは、血液が動脈の中を流れる際に血管の壁にかかる圧力のことです。よく「上の血圧」「下の血圧」と言いますが、専門的にはそれぞれ「収縮期血圧」「拡張期血圧」と呼びます。
心臓が収縮して血液を送り出し、動脈の壁に最も強い圧力がかかった時点の血圧が収縮期血圧(上の血圧)、収縮した心臓が拡張に移り、動脈の壁にかかる圧力が最も弱くなった時点の血圧が拡張期血圧(下の血圧)です。
成人では、収縮期血圧/拡張期血圧が140/90mmHg以上だと高血圧と診断されます。ただしこの値は医療機関で測定した値であり、ご家庭で測定した場合は135/85mmHg以上が高血圧です。医療機関では緊張により血圧がやや高くなりやすいため、診断基準に5mmHgの差が設けられています。
このように高血圧の診断基準自体が血圧の変動を考慮していることからも、血圧は変化しやすい検査値であることが分かります。
血圧を変動させる要因は?
血圧を変動させる要因は精神的緊張だけではありません。実に多くの事柄が関係しています。
・血圧を高める要因:冬季や急な温度変化(寒さ、熱い入浴)、起床直後から日中、激しい運動、塩分過剰摂取、睡眠不足、短時間の大量飲酒(一気飲み)、排便時のいきみ
・血圧を下げる要因:夏季、食後、睡眠中、ぬるめの入浴、少量の飲酒、排尿
■トイレでの血圧変動、そのメカニズム
排便時のいきみで血圧が上がるのは、胸部内圧(胸の中の圧力)が高まることや、冬季の寒暖差で血管が収縮することが関係しています。
一方、排尿後に血圧が下がるのは、膀胱に尿がたまっている状態では交感神経(からだの機能を活発化させる自律神経)が優位になり、排尿によって副交感神経(からだの機能を落ち着かせる自律神経)が優位に切り替わるためです。
■「血圧の変動」は何が危険なのか
かつては血圧変動は正しい測定を妨げる“ノイズ”と考えられていました。しかし家庭血圧計や連続測定の普及により、血圧変動の大きさ自体が血圧の高さとは独立したリスク因子であることが明らかになっています。
「独立したリスク因子」……つまり、血圧が高いことの影響を除いてもなお、変動の大きさが健康を蝕むということです。
特に注意が必要なのは、高血圧の人、動脈硬化が進んでいる人、高齢の方です。排便時の急な血圧上昇が脳卒中の引き金になることもあるとされています。
早朝高血圧や夜間の血圧低下不十分もリスク
血圧は夜間睡眠中は昼間より10~20%低下し、起床が近づくと上昇します。この早朝の急激な上昇(早朝高血圧)は脳卒中や心筋梗塞のリスク因子です。また、本来は低下するはずの夜間血圧が下がらないこともリスクとされています。
■血圧変動を抑えるための対策
排便時にいきまないといけない人は、便秘改善を心がけましょう。よく知られているように、食物繊維を多めに摂り、適切な水分摂取と運動を続けてください。それでも便秘が治らない場合は、医療機関を受診して便秘治療を受けましょう。
冬の血圧上昇に対しては、暖房が有効です。可能ならトイレや浴室も含めて温め、できるだけ寒暖差が生じないようにしてください。また、冬季の寒さだけでなく、夏季の暑さが夜間の血圧を上げる(夜なのに下がらない)ように働くこともあるので、やはり快適な室温を保つことが勧められます。
■まず、血圧を測ってみよう
血圧変動への対策の第一歩は、自分の血圧を把握することです。
家庭血圧での高血圧の診断基準は135/85mmHg以上。もしこれを超えていたら高血圧に該当します。その場合は治療で血圧をコントロールしたうえで、変動にも注意を払いましょう。
血圧コントロールの目安は家庭血圧で125/75mmHg未満、医療機関での測定値では130/80mmHg未満です。
最後に生活の中での血圧変動に関して、循環器科の専門医に聞いてみました。
血圧は、常に一定ではなく、私たちの日常生活の中で大きく変動します。例えば、トイレでいきむと血圧が急激に上昇したり、排尿後には一時的に低下することがあります。これらは一見些細な変化に見えるかもしれませんが、高血圧の方や動脈硬化が進んでいる方にとっては、脳卒中や心筋梗塞など重大な病気を引き起こすリスクにもつながります。とくに冬場は、寒暖差や便秘によるいきみが重なって危険性が高まるため注意が必要です。
診察室では正常でも、家庭での血圧が高い「隠れ高血圧(仮面高血圧)」もあります。自宅で朝・晩に測定し、記録をつけることで変動の傾向を把握できます。便秘の改善、室温の調整、水分補給など、日常のちょっとした配慮が将来の大きな病気を防ぐ鍵となります。まずは「測ること」から始めてみましょう。

