日本人は、金融資産の多くを預貯金で保有しています。日本銀行の調査によると、2020年9月末時点での個人金融資産1,901兆円のうち、1,034兆円(約54.3%)が現金と預金です。※出典:日本銀行「2020年第3四半期の資金循環(速報)」

日本では、預貯金に対する信頼や人気が根強いです。親から「きちんと貯金をしておきなさい」と、いわれた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、預貯金にもリスクは存在するため、絶対に安心であるとは限りません。そこで今回は、預貯金の良い点と注意点を解説していきます。

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■預貯金の種類

預貯金とは、金融機関がお金を預けた人に対して、一定の利息と将来の元本の支払いを保証する金融商品です。銀行や信用金庫などが取り扱うものは「預金」、ゆうちょ銀行や農業協同組合(JAバンク)などが取り扱うものは「貯金」といいます。

また預貯金には、「流動性預貯金」と「定期性預貯金」の2種類があります。

流動性預貯金:普通預金や通常貯金など期間の定めがなく預けたお金を自由に引き出せる預貯金
定期性預貯金:定期預金や定期貯金など預入期間が定められている預貯金

なお以後の解説については、分かりやすいように流動性預貯金を普通預金、定期性預貯金を定期預金と記載しています。

■預貯金の良い点

まずは、預貯金の良い点から確認していきましょう。具体的には、以下の3点です。

・1,000万円までの元本保証がある
・定期預金は半強制的にお金を貯められる
・普通預金は自由度が高い

それぞれについて確認していきましょう。

▼1,000万円までの元本保証がある

預貯金は「預金保険制度」や「農水産業協同組合貯金保険制度」の対象です。そのため、ひとつの金融機関につき、定期預金と普通預金を合計して1,000万円までの元本とその利息が保証されます。

※一部の預貯金は除く

万が一金融機関が経営破たんし、預貯金が引き出せなくなったとしても、1,000万円までの元本と利息は保護されるのです。

株式や投資信託の方が、預貯金よりも利回りが高く、資産が殖えていきやすいです。しかし株式や投資信託には、預貯金のような元本保証制度はありません。預貯金は、ローリスク・ローリターンの金融商品であり、安全性が比較的高いといえます。

▼定期預金は半強制的にお金を貯められる

定期預金を契約する際に、預け入れる期間を1カ月以上10年以内で設定するのが一般的です。預けているお金は、満期が来るまで簡単に引き出せません。口座にあるお金の使いすぎを防げる点は、定期預金のメリットといえます。

また、毎月一定金額を満期まで積み立てる「積立定期預金」を活用すると、貯蓄が苦手な人でもお金が貯まりやすいです。例えば「5年後にマイホームを購入したい」と考えている方は、5年満期の積立定期預金で住宅購入の頭金を貯めるのも方法のひとつでしょう。

▼普通預金は自由度が高い

普通預金は、お金が必要となったタイミングで引き出したり使ったりしやすいです。例えば、洗濯機が故障して買い替えが必要になった場合、普通預金口座にお金が貯まっていると、買い替え費用をすぐに準備できます。

まとまった金額が普通預金口座にあると、病気やケガで入院・手術をした場合の医療費の支払いや、収入が減少した場合の生活費の支払いに充てることも可能です。

株式や投資信託、不動産などの投資を始める前に、想定外の支出や収入の減少に対応するための資金を、普通預金の口座に準備しておくと良いでしょう。

■預貯金の注意点

預貯金の注意点は、以下の2点です。

・金利が低い
・インフレリスクがある

ひとつずつ解説していきます。

▼金利が低い

金利とは、預貯金につく利息を計算する際に用いられる値です。金利が高いほど多くの利息がついて、残高が殖えていきます。

2021年2月現在も、日本は金融緩和政策を継続中です。そのため預貯金に適用される金利は、非常に低い値で推移しています。

ひと昔前の預貯金には、5%や6%の金利が適用されていました。預貯金の口座に預けているだけで残高が殖えていったため、資産運用をする必要はなかったのです。

しかし現在は、メガバンクの定期預金でさえ金利が0.002%であるため、預貯金の口座に預けているだけでは、残高は殖えていきません。低金利の現代において効果的に資産を形成するためには、株式や投資信託などの投資をする必要性が高いといえます。

▼インフレリスクがある

インフレリスクとは、物価が上昇することによって、金融商品の実質的な価値が下がることです。

例えば、100万円の預貯金がある場合、1,000円のボールペンを1,000本買えます。しかし5年後にボールペンが1,200円に値上がりしていると、100万円で購入できるのは約833本です。

言い換えれば、現在の100万円は、ボールペン1,000本分の価値があるのに対し、5年後には833本分の価値しかなくなっています。

日本銀行は、物価の前年比上昇率2%を目標に、金融政策を実施しています。新型コロナウイルスが猛威を振るった2020年こそ前年比±0%でしたが、2018年は+1.0%、2019年+0.5%と、物価は少しずつ上昇している状況です。

※出典:総務省統計局

一方で将来にインフレが起こると、口座残高の価値が目減りするものの、所得や金利は上昇する可能性があります。インフレの発生が、必ずしも悪いことではありません。しかし貨幣の価値は、同じではなく変わっていくものであると認識しておくことが大切です。

■まとめ

預貯金は、ひとつの金融機関につき、元本と利息を合わせて1,000万円までが保証されます。元本割れするリスクのある株式や投資信託よりも、比較的安全性が高いといえるでしょう。

しかし低金利の現在では、銀行の口座にお金を預けていても資産はあまり殖えていきません。またインフレリスクがあるため、貨幣の価値が将来も同じでない点にも注意が必要です。

預貯金も含めた金融商品には、良い面と悪い面の両方が必ず存在します。資産のすべてを、預貯金で保有するのではなく、他の金融商品や不動産などをバランス良く保有することが、資産を形成するうえでは大切なことです。