前々回、定年制度の歴史を簡単に振り返る中で、2013年に高年齢者雇用安定法が改正され、希望者全員の65歳までの継続雇用が義務化されたことをお伝えしました。これだけを聞くと、定年年齢が65歳まで延びたように思ってしまいますが、実態はそうではありません。

60歳以降の働き方の現状を知ることは、私たちの今後のライフプランを作る上でも参考になると思いますので、今回は高年齢者雇用安定法について取り上げます。

60歳以降の働き方の現状とは(画像はイメージ)

高年齢者雇用安定法とは?

2013年に改正された高年齢者雇用安定法では、65歳未満の定年を定めている事業主に対して、65歳までの雇用を確保するため、次のいずれかの雇用確保措置を導入するよう義務付けています。その措置とは、「定年年齢の引き上げ」「定年制の廃止」「継続雇用制度の導入」という3つの選択肢です。

それでは、どの雇用確保措置を導入している企業が多いのでしょう? 毎年、厚生労働省は高年齢者雇用確保措置の実施状況を集計しています。平成29年「高年齢者の雇用状況」 によると、「定年年齢の引き上げ」により雇用確保措置を講じている企業は17.1%、「定年制の廃止」措置を講じている企業が2.6%、そして「継続雇用制度の導入」により、雇用確保措置を講じる企業は80.3%となっています(※1)。

つまり、圧倒的に「継続雇用制度」を導入している企業が多く、定年年齢を延ばして65歳以上にした企業は、定年制を廃止した企業を加えたとしても、2割に満たないという状況です。もちろん定年を延ばしている企業は年々増えていますし、今後も増えていくでしょうが、その増えていくスピードが、遅々たる歩みであることは気になるところです。

※1 厚生労働省 平成29年「高年齢者の雇用状況」集計結果

継続雇用制度とは?

それでは、8割の企業が採用する「継続雇用制度」では、どのような働き方がされているのでしょう。独立行政法人 労働政策研究・研修機構が平成28年に発表した「高年齢者の雇用に関する調査」から見てみます(※2)。

まず、「継続雇用制度」の雇用形態は、有期雇用契約での嘱託や契約社員が60.7%と6割を超えています。それに対して、正社員は34.2%に過ぎません。また、契約が有期雇用の場合、1年単位で契約を結びなおすことが多いようです。

次に、仕事内容については、定年前(60歳頃)とまったく同じ仕事の場合をさせている場合が39.5%、定年前と同じ仕事をさせているが、責任の重さが変わるとの回答が40.5%となっており、合計約8割の企業では仕事内容は変わりません。

最後に賃金ですが、フルタイム勤務の場合の平均的な年収は300万円以上400万円未満が27.1%と最も多くなっています。ただし、ここでいう年収には、企業が支給する賃金・賞与のほか、企業から支給される企業年金や、在職老齢年金、高年齢雇用継続給付といった公的給付が含まれているところがミソです。

つまり企業側は、企業年金や公的給付を見込んだ上で、それでも生活費として不足する分だけを賃金・賞与とすることが可能になっています。ところが、これは働く人の側からすると、退職前と同じ仕事をしているのに賃金が下がることにつながるわけで、ショックを受けたり、納得がいかなかったりということが起こるのでしょう。

しかし、前回取り上げた日本の雇用制度の特徴から考えれば、納得いただける面もあると思います。なぜなら、日本の雇用制度では、定年前の賃金は、その時点での仕事の貢献度よりも高くもらえることになっているからです。意地の悪い言い方になってしまいますが、今までもらいすぎていた賃金が定年退職を契機にリセットされ、適正に戻っただけとも解釈できるということです。

※2 独立行政法人労働政策研究・研修機構 「高年齢者の雇用に関する調査」

今、私たちがやっておくこと

ですが、ものは考えようです。日本の雇用制度では、貢献に釣り合った賃金をもらえる時期はわずかです。大半の時期は、賃金が少なすぎるか多すぎるかのいずれかです。それは、その人に仕事の能力があるか否かを問うものではなく、仕組みとしてそうなっているに過ぎません。そのことを知っておけば、賃金が下がることに納得はできないかもしれませんが、受け止めやすくなるのではないでしょうか。

もちろん、企業が働く人の足元を見ている面もあると思いますので、働く人は企業に対して、現在の貢献度に見合った賃金を支払っているのか確認していく必要はあると思います。反対に、企業側は賃金の算定根拠を示して、働く人に納得してもらうことが必要でしょう。

また、私たちは、勤めている会社の定年が何歳なのかということと、自分の会社が採用している高年齢者の雇用確保措置の内容について確認しておくとよいと思います。

仮に、勤めている会社が「継続雇用制度」を採用していて、自身も継続雇用を希望する場合は、上記の実態を踏まえてライフプランを作ってみましょう。

※画像は本文とは関係ありません

執筆者プロフィール : 山田敬幸

一級ファイナンシャルプランニング技能士。会社員時代に、源泉徴収票の読み方がわからなかったことがきっかけでFPの勉強を始める。その後、金融商品や保険の販売を行わない独立系FPとして起業。人生の満足度を高めるためには、お金だけではなく、健康や人とのつながりも大切であるという理念のもと、現役世代の将来に向けた資産形成や生活設計に対する不安の解消に取り組んでいる。