前回、定年制度の歴史を簡単に振り返りながら、平均寿命が40年延びる間に、定年退職年齢は10年間しか延長されなかったことをお伝えしました。では、なぜ寿命の延長に併せて、定年退職年齢は延長できなかったのでしょう? それは、定年制度が、日本的雇用制度の要である終身雇用と大きく関わっているからだと考えます。

定年制度とは何か?(画像はイメージ)

終身雇用とは

皆さんご存知のことと思いますが、終身雇用といっても文字通り「一生涯」雇ってもらえるというわけではありません。あくまで「定年まで」の雇用という意味です。また、終身雇用は1年契約などの期間の定めのある契約ではなく、(定年までは)期間を定めることのない雇用契約であり、長期に亘って安定した雇用関係が維持されることを期待できるものでもあります。

定年制度とは

定年制度は終身雇用のゴールとなっていて、企業はそこまでの雇用を保障していますが、定年になれば年齢だけを理由に強制的に退職させることができるという制度になっています。働く側から見れば定年までは正当な理由がない限り解雇はされないという雇用保障を与えられています。

しかし、裏を返せば、定年になるとどんなに仕事を続けたいといっても退職させられてしまう強制退職制度であるともいえます。つまり、「定年制度は定年までの雇用保障と一体の制度」となっているわけです(※1)。

したがって、長寿社会に対応して定年制度を廃止しようとすると、定年までの雇用保障もなくなってしまうことになりますので、定年制度自体を廃止することは難しいのが現状です。

※1 清家篤『雇用再生 持続可能な働き方を考える』(NHK出版) 108ページ

定年制度の特徴

続いて、定年制度の特徴について取り上げます。第1の特徴は、定年制度が、企業にとって貴重な雇用調整の手段となっていることです。例えば、業績不振に陥り従業員を減らす必要が出てきたとします。そういうときに日本の企業がまず行うことは、従業員をリストラすることではなく、定年で辞める人数よりも少ない人数しか新規に採用しないという方法です。定年で20人辞めるのでしたら、新規採用を例えば15人にします。すると、結果的に5人減らしたのと同じになるというわけです。あらかじめ定年になる人数は分かっているため、企業にとっては使いやすい雇用調整手段となります。

第2の特徴は、定年制度が、長期で見たときに会社に対する貢献度と賃金をバランスさせるものとしても存在していることです。雇用期間の最初(20代)は、訓練期間として貢献度よりも高い賃金の期間があります。その後働き盛りのとき(30代、40代)に、今度は貢献度よりも安い賃金で働いてもらうことによって、企業は訓練期間の投資コストを回収します。その後もしばらく貢献度よりも安い賃金で働き続けてもらい、いわば企業に「貯金」をしてもらって中高年(50代以降)になったときにそれを少しずつ返していきます。そして最終的に、退職金も含めて、貢献度と賃金をバランスさせています(※2)。

第3の特徴として、定年制度は、企業が長期勤続を促進するために取り入れているという面もあります。定年までその会社に勤めていれば多額の退職金を払いますが、定年前に自己都合で辞めた場合には、定年時よりもずっと少ない退職金しかもらえないという仕組みになっていることが多いからです。

※2 清家篤『雇用再生 持続可能な働き方を考える』(NHK出版) 113-114ページ

定年制度は当たり前ではない

現在、私たちは定年退職を当たり前の制度として受け止めていますが、それは決して普遍的な制度ではありません。かつての日本では、働く人の大多数は農家や自ら商店を営んでいる自営業者とその家族でした。彼らに定年はありませんでした。引退の時期は自ら決めていたはずです。サラリーマンが多数派となったのは高度経済成長期が始まった頃からですので、歴史的に見れば、定年退職はそれ以降に普及した新しい制度といえます。

また、アメリカでは、1967年に「雇用における年齢差別禁止法」で、40歳以上の労働者について、採用、解雇、賃金、労働条件その他雇用のすべての面において、年齢を理由とする使用者の差別行為が禁止されています。よって定年制は、「同一の仕事能力を持っているにも関わらず、年齢だけの理由で解雇することは年齢による差別」という理由で禁止です。

定年制度は終身雇用と大きく関わっているため、長寿社会になったからといって簡単には変わらないでしょう。しかし、先に述べたように普遍的な制度というわけでもありません。皆さんが自分のライフプランを作るにあたっては、定年制度がライフプランに与えている影響についても意識してみると良いと思います。

※画像は本文とは関係ありません

執筆者プロフィール : 山田敬幸

一級ファイナンシャルプランニング技能士。会社員時代に、源泉徴収票の読み方がわからなかったことがきっかけでFPの勉強を始める。その後、金融商品や保険の販売を行わない独立系FPとして起業。人生の満足度を高めるためには、お金だけではなく、健康や人とのつながりも大切であるという理念のもと、現役世代の将来に向けた資産形成や生活設計に対する不安の解消に取り組んでいる。