皆さんは、2017年の確定申告から始まった「セルフメディケーション税制」についてご存知でしょうか?

日本医療政策機構が行った「2017年 日本の医療に関する世論調査」によると、「あなたは、セルフメディケーション税制について知っていますか」という問いに対して「知らない」と回答した人が55.2%、「言葉は知っているが意味はよく知らない」と回答した人が33.7%と多い一方、「内容までよく知っている」と回答した人は11.1%にとどまっています。

一方で、「セルフメディケーション税制」の内容を説明した後に、「あなたは、セルフメディケーション税制を利用したいと思いますか。」と質問したところ、「積極的に利用したい」が20.0%、「やや利用したい」が42.5%、「あまり利用したくない」が25.3%、「全く利用したくない」が12.2%と、6割以上の人は利用したいと回答しました。

よって、制度がわかれば利用したい人が多いと推測できますので、今回は「セルフメディケーション税制」について解説したいと思います。

セルフメディケーション税制とは

セルフメディケーションの元々の意味は、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と世界保健機関(WHO)において定義されています。

厚生労働省は、セルフメディケーション税制について以下のように説明しています。

■厚生労働省「セルフメディケーション税制概要について」
「健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行う個人が、平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間に、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る一定のスイッチOTC医薬品の購入の対価を支払った場合において、その年中に支払ったその対価の額の合計額が1万2千円を超えるときは、その超える部分の金額(その金額が8万8千円を超える場合には、8万8千円)について、その年分の総所得金額等から控除する」

長い文章で嫌になりますが、大雑把に言えば、「特定の市販薬を購入した金額が、年間で1万2千円を超えた場合、税金を安くします」という制度であり、年間の医療費が10万円を超えた場合に税金の負担を減らせる「医療費控除」の特例に当たります。

対象医薬品の範囲

ここで言う特定の市販薬とは「スイッチOTC医薬品」のことです(※1)。平成30年1月22日時点で1676品目が該当して、対象品目一覧は厚生労働省のウェブサイトで確認できます 。1676品目というと多いようにも感じますが、私自身が使っていた風邪薬は対象になっていませんでしたので、大抵の薬が対象になるという程ではないようです。

対象となるスイッチOTC医薬品は、売り場でも確認することができます。対象商品のパッケージには識別マーク(図1)が掲載されています。ただし、マークの表示に法的義務は無く、生産の都合等から表示されていない対象商品もあるので注意が必要です。

  • スイッチOTC医薬品 識別マーク

加えて、ドラッグストアなどのレシートには、品名に「★」や「●」などのマークを付けて、対象商品であることを示してある場合が多いです(図2)。

  • 002キャプション

また、申告者が購入したものだけではなく、生計を同じくする配偶者やその他の家族の方が購入した医薬品も対象となります。

(※1)処方箋が必要な医療用医薬品に含まれる成分を、安全性・有効性両面から鑑み、医師のもとでなくても使用することができると判断されて転用(スイッチ)した市販薬(OTC薬)

適用を受ける条件

セルフメディケーション税制の適用を受けるためには、その対象年に、「健康の維持増進及び疾病の予防への取組」を行っている必要があります。取組に該当するのは、職場や自治体の健康診断やがん検診、インフルエンザの予防接種の受診などです。また、申告者本人が健康診断などの取組を行っていればよく、仮に家族が健康診断を受診していなかった場合でも適用されます。

加えて、1年間(1月1日~12月31日)に購入したOTC医薬品の合計額が1万2千円(消費税込み)を超えている必要があります。

制度創設の背景

厚生労働省は、セルフメディケーション税制創設の目的として、「国民の自発的な健康管理や疾病予防の取組を促進すること」と「医療費の適正化」を挙げています が、その背景には、日本が超高齢社会になって国の医療費支出が増加し続けている状況があります。

つまり、「国としては財政事情が厳しく、医療費支出の増加を抑えたいので、軽度な身体の不調であれば医者には行かずに、市販薬を購入して治してください。協力してくだされば、税金をお安くします」というメッセージと読み替えることができます。

今のところ、セルフメディケーション税制は「平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間」という期間が限られた時限立法ですが、国の医療費増加を抑制する効果が上がれば、恒久化されるかもしれません。そうなれば、私たちの老後不安が減ることにもつながるでしょう。

ただ、政府の意図は別にしても、長寿化が進む現代においては、自分自身の健康に責任を持つことは、ますます重要になってくると考えます。したがって、セルフメディケーション税制を、健康管理や疾病予防に取り組むきっかけとして利用してみてはいかがでしょうか?

山田敬幸

山田敬幸

一級ファイナンシャルプランニング技能士。会社員時代に、源泉徴収票の読み方がわからなかったことがきっかけでFPの勉強を始める。その後、金融商品や保険の販売を行わない独立系FPとして起業。人生の満足度を高めるためには、お金だけではなく、健康や人とのつながりも大切であるという理念のもと、現役世代の将来に向けた資産形成や生活設計に対する不安の解消に取り組んでいる。