前々回前回と、超高齢社会において予想される変化について、経済面を中心に述べました。今回は視点を変えて、超高齢社会におけるライフモデルがどのようなものになるのか考えてみたいと思います。

3ステージモデルとは

その前に、まず現在私たちがあまり意識せずに前提としている3ステージ型の人生モデルについて述べます。3ステージ型の人生モデルとは、人生を「教育のステージ」、「仕事のステージ」、「引退のステージ」の3つに分ける考え方で、20世紀に入ってから定着したものです(※1)。言い換えれば、「学生として学んだ後、社会人として働き、最後は、仕事を引退して余生を送る」という人生モデルのことで、これが通用しなくなりそうなのです。

(※1)リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット『LIFE SHIFT - 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社) 20ページ

3ステージモデルの問題点

それでは、なぜ、3ステージ型の人生モデルは通用しなくなるのでしょう? それは、この人生モデルのままでは、超高齢社会(=長寿化)の恩恵である「人生の時間が大きく増える」ことを活かしきれないからです。

第一に、現在のモデルでは、自由に使える時間が引退後に偏ってしまいます。その時間は何をすればいいのでしょう。余生というにはあまりに長い時間になってしまい、おそらく持て余してしまう人も出てくることでしょう。自由な時間は、もっと教育や仕事のステージにも割り振る必要があります。

第二に、現在のモデルのままで、仕事のステージを延長するとなると、知識やスキルが陳腐化する可能性が高まります。現在の労働環境は、グローバル化やテクノロジーの急速な進展で、変化が激しくなっています。それにも関わらず、20代までに身につけた知識やスキルを磨きあげていくだけで対応していけるのかと問われれば心許ない気がします。ある程度まとまった時間を取って、学び直しやスキルの再取得を行うことも必要になります

第三に、現在の長時間労働やストレスの多い過酷な働き方です。現在のモデルのままでは、仮に仕事のステージを延長して70代まで働きたいと考えても、身体的・精神的に持続することは不可能に近いでしょう。リフレッシュするための休暇も定期的に必要になるはずです。

マルチステージモデルとは

そこで、3ステージ型の人生モデルに代わって、超高齢社会のライフモデルとして登場するのがマルチステージ型の人生モデルです。この人生モデルでは、例えば一生涯に2つ、もしくは3つのキャリアをもつようになります。それに伴い人生の節目や転機も新しく出現し、どのステージをどの順番で経験するという選択肢も大きく広がります。

そこでは、ステージを経る順番も、3ステージの人生の場合のように教育→仕事→引退といった順番にとらわれず、私たち一人ひとりの嗜好と状況によって決めることができます。

したがって、このモデルでは、時間を取って学び直しとスキルの再取得を行うステージを設け、仕事→教育→仕事のようなモデルを作ることも可能になります。これによって、20代までに身につけた知識やスキルが陳腐化して仕事ができないといった事態も少なくなるでしょうし、70代以降も働きやすくなるはずです。

マルチステージモデルの特徴

加えて、マルチステージ型の人生モデルの登場により、人生に新たなステージが出現します。『LIFE SHIFT』の著者であり、日本政府の人生100年時代構想会議の有識者議員でもあるリンダ・グラットン氏は、新たなステージが3つは出現すると主張しています。

1つ目は、「周囲の世界を探査し、そこになにがあり、その世界がどのように動いているか、そして自分がなにをすることを好み、なにが得意かを発見していく(※2)」エクスプローラー(探究者)というステージ、2つ目が、「自由と柔軟性を重んじて小さなビジネスを起こす(※3)」インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)というステージ、3つ目が「さまざまな仕事や活動に同時並行で携わる(※4)」ポートフォリオ・ワーカーというステージです。

また、これらの新しいステージでは、年齢の制約と無関係の側面が多いことを魅力として挙げています。3ステージの人生は、若者と中年と老人の分離を固定してきました。しかし、人生のマルチステージ化により、「年齢=ステージ」という図式が崩れていけば、異なる年齢層の人たちが同一のステージを生きるようになり、世代を越えた交友が多く生まれ、世代間の相互理解も促進されるであろうと予測しています(※5)。

(※2)リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット『LIFE SHIFT - 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)231ページ
(※3)リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット『LIFE SHIFT - 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)5ページ
(※4)リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット『LIFE SHIFT - 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)5ページ
(※5)リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット『LIFE SHIFT - 100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)31ページ

ライフモデルの移行

これまで述べてきたように、超高齢社会における恩恵を活かすためには、現在の3ステージ型の人生モデルからマルチステージ型の人生モデルへの移行が必要になります。今まで当然と思っていたライフモデルを変えることには抵抗感もあるでしょうし、勇気も必要でしょう。ただ、人類は超高齢社会を初めて経験します。ならば、それに伴いライフモデルを移行することは自然なことであり、必要なことではないでしょうか。

※画像は本文とは関係ありません。

山田敬幸

山田敬幸

一級ファイナンシャルプランニング技能士。会社員時代に、源泉徴収票の読み方がわからなかったことがきっかけでFPの勉強を始める。その後、金融商品や保険の販売を行わない独立系FPとして起業。人生の満足度を高めるためには、お金だけではなく、健康や人とのつながりも大切であるという理念のもと、現役世代の将来に向けた資産形成や生活設計に対する不安の解消に取り組んでいる。