オープンカフェのテラス席コンプレックス

私は昔から「オープンカフェ」と相性が悪い。

まだ地方にいた大学時代。友達と一緒に東京へ遊びに行った。いろんなガイドブックを見ておしゃれスポットを探して、目的地を決めていった。その中に今はなき、原宿のオープンカフェAがあった。

友達と私は初めての東京。精一杯おしゃれして、Aに行った。フランスのカフェをそのまま持ってきたようなおしゃれな店づくり。テラス席では、金髪の外国人が新聞を見たり、おしゃべりを楽しんだりしながら優雅にお茶を飲んでいる。

「す、すげー。さすが東京。外国人多い! 」。少々気後れしながらカフェに入る。背の高いモデルのようなギャルソンが席へと案内してくれた。案内された先は、外国人が座っているオープンテラスではなく、店の奥の奥、オープンカフェにもかかわらず日の光が当たらなさそうなトイレに近い暗い場所だった。その瞬間、友人と2人で思った。

「……せっかくの東京、テラス席でエスプレッソ飲みたかったな」。

一生懸命おしゃれしてきた東京。2人してがっかりした。店内には色々空いている席があるというのに。よりにもよってトイレの近く。次第に落胆は怒りへと変わっていった。

「田舎モンやからってバカにして」。

おそらく友人もそう思っていたに違いない。お冷やのグラスを持った手がワナワナと震えていたからだ。それからというもの、この負の記憶を払拭しようと、まずは地元にオープンしたフレンチオープンカフェのアルバイト募集に応募した。すると、あっさりと面接で落とされた。今でも私は思っている。「私が美人じゃなくて、背が低いから面接を落とされた」と。……すべて被害妄想なのかもしれない。でも、なんだかんだとやっぱりオープンカフェと私はあまり相性がよろしくないのだ。

それから私はこの業界に入り、一緒にワナワナしていた友人は当時調理師学校に通っていて、その後フランスで修行をし、今は某都市にあるフレンチの名店で料理人として働いている。

私は仕事柄、オープンカフェの取材もある。店側は、「当店はお客様を選んでオープンテラス席へとご案内しております」とは言わないが、私がそのカフェのオーナーの場合。ボロボロのジャージを着たお客と、ピシッとしたスーツを着たイケメンビジネスマンだったら、後者をテラス席に案内するだろう。

カフェという、ある程度"雰囲気"を売り物にする業態である以上、そういう結論を導き出すのは自然なことだと思う。そんな風に経営者目線では考えられるのだが、やはり、過去の負の体験は忘れることができないのだ。故に異常なまでにオープンカフェのテラス席にはこだわる。

大阪のオープンカフェで遭遇した衝撃カップル

大学を卒業して上京した私は、仕事の合間にオープンカフェにもしばしば立ち寄るようになった。案内されるのはテラス席。「やった、勝った」。コンプレックスの塊のように思われるかもしれないが、それでもよかった。テラス席に座れれば。そんな折、関西出張が入り、仕事の合間に大阪のオープンカフェに立ち寄った。案内されたのはテラス席。その瞬間、心の中でガッツポーズをし、そして、故郷(関西出身)に錦を飾った気がした。

その店でお茶を楽しんだ後、トイレに行ったのだが。オープンカフェにもかかわらず日のあたらなそうなトイレの近くに(あ、なんかデジャヴ)、異質な雰囲気を放つカップルが座っていた。女性はヒョウ柄onヒョウ柄な目がチカチカするようなファッション。男性は金色のぶっといネックレス&ブレスレット、ダブルのジャケット。お約束のセカンドバッグがテーブルにのっている。その中年カップルの何が異質って、おしゃれなカフェの中で湯気が出そうなくらいイチャイチャしているのだ。ヒョウ柄女の顔を金色男が両手で包み、「愛してるでぇ」などとささやいている。ギョッとするような光景だ。

するとその女性、「1時間にするぅ? それとも2時間?? 」と顔に似合わない甘ったるい声で話している。気分が悪くなった私はそのまま目的の場所へと直行したが、出てきてもまだ愛のささやきは続いている。「ホントに1時間でええのぉ? 」と女性。カラオケにでも行くのだろうと思っていたのだが、あまりの気持ち悪さに店を出ることにした。彼らに罪はないのだろうが、どうせなら見目麗しいカップルのそういうシーンを見たかった。と、思うのはきっと私だけではないだろう。

会計を済ませて店を出ようとすると、それより早く店を出る件のカップル。目の前をホカホカーと湯気を出して歩くイチャイチャ中年カップル。右に曲がる。そして、左に曲がる。望まずして彼らと行く先が同じである。ウンザリしながら後を歩いていると、急に彼らが立ち止まった。

「ホンマに1時間でええんやんな? 」という女性の声がするや否や、彼らはそこで姿を消した。なんだか気になって駆け足で彼らがいた場所に行くと、「1時間3,000円 2時間5,000円 宿泊1万2,000円」と表記されたホテルの前だった。

私の認識によると、そういう類のホテルの最短時間は2時間だ。しかし、さすが大阪! 1時間制があるとは!! そんな大阪のたくましい商魂に感心しつつ、さっきのオープンカフェの代金を足せば2時間利用できたろうに……と思ったりもする筆者なのであった。

イラスト: こざき亜衣