相模鉄道は西谷駅から羽沢横浜国大駅を経てJR東海道貨物線に合流する新線の開業にともない、2019年11月30日からJR東日本との相互直通運転を開始する。おもな運転系統は海老名~新宿間で、1日あたり46往復(上下計92本)。朝ラッシュのピークとなる時間帯に毎時4本、その他の時間帯に毎時2~3本の列車が走る。

  • 相鉄・JR直通線の開業に向け、相模鉄道の新型車両12000系が試運転を行う(写真:マイナビニュース)

    相模鉄道の新型車両12000系による相鉄・JR直通線の試運転。開業後、さらなるネットワーク拡充は図られるか?

すでに相鉄・JR東日本は相互直通運転で使用する車両を双方へ送り込んで試運転を行っており、思わぬところで見慣れない車両を見て、驚いた向きもあるだろう。

横浜を拠点とする相鉄にとって、東京都心へ直通する今回のプロジェクトは「悲願」とも言えるもの。相鉄・JR直通線の開業後、2022年度下期に相鉄・東急直通線も開業予定となっている。西谷駅・羽沢横浜国大駅からの相鉄新横浜線と、新横浜(仮称)駅で接続し、日吉駅へ向かう東急新横浜線が完成することで、相鉄線から東急東横線・目黒線方面へ相互直通運転も始まる。

  • 相鉄線内では現在、都心直通に向けたPR活動が盛んに行われている

これにより、相鉄は東海道新幹線の新横浜駅と直結し、さらに東京都心方面へつながる第2のルートを手に入れることになる。他社と相互直通運転を行わず、横浜市と神奈川県央部を結ぶだけの鉄道だった相鉄が、広大なネットワークを持つ鉄道へと変貌する。まさに社運を賭けた大事業である。

■都心の貨物列車は複雑なルートを走る

以前、本誌で筆者が執筆した記事「JR東日本、大汐線・新金線など都心の貨物線を『財産』にできるか」にて、国鉄時代から東京とその周辺に張り巡らされてきた貨物線を活用し、湘南新宿ラインをはじめとする旅客列車の運転系統の拡大を図ってきたことを紹介した。さらに、休止中となっている「大汐線」の浜松町~東京貨物ターミナル間を復活させ、東京貨物ターミナル~東京国際空港(羽田空港)間に線路を新設する空港アクセス鉄道整備を計画していることも述べた。

東京貨物ターミナル駅は首都圏の貨物輸送の拠点となる駅。いまはこの駅を起点として、東海道・山陽本線方面へ向かう貨物列車が毎日、多数運転されている。将来、ここを羽田空港行の旅客列車が行き交う日もそう遠くないと思われる。

  • 品川区内の埋立地に設置された東京貨物ターミナル駅。東京モノレールの流通センター駅が近い

  • 東京貨物ターミナル駅を発車した貨物列車。これから多摩川の先まで長大トンネルを通る

では、貨物列車はどのようなルートを走っているだろうか。首都圏における通勤列車の運転本数の多さは言うまでもないところ。国鉄時代から「客貨分離」を図るため、東京近郊で貨物線が建設されてきた。現在もその路線網を活用し、貨物列車は旅客列車と異なるルートを走ることが多い。なお、貨物線と言っても、線路などの設備を所有しているのはJR東日本で、JR貨物はそれを賃借して列車を走らせている関係である。

東京貨物ターミナル駅を発車した列車は、まず東京都中央卸売市場大田市場の付近から地下へ入り、京浜運河をくぐり、さらには東京国際空港(羽田空港)をかすめる形の長大トンネルを走る。多摩川もくぐって再び地上に顔を出し、京急大師線小島新田駅の近く、川崎市川崎区塩浜にある川崎貨物駅に達する。この区間は1973(昭和48)年、東京貨物ターミナル駅の開業と同時に完成している。

さらに進むと、南武線・鶴見線の浜川崎駅へ抜け、ここで急カーブを切って南武線の支線(尻手~浜川崎間)に合流する。八丁畷駅付近で東海道本線にようやく近づき、再び急カーブで東海道本線に沿うようにルートを変える。しばらく走って横浜市内に入ると、京浜東北線・鶴見線の鶴見駅を通過。ここから先は小田原駅まで、基本的に貨物専用となっている線路を進む。

  • 八丁畷駅付近を走り抜ける貨物列車。左へカーブし、旅客線の東海道本線に沿って鶴見方面へ向かう

この貨物列車のルートに、鶴見駅で合流してくる貨物線もある。武蔵野線から新鶴見信号場(新川崎駅付近)を経て鶴見駅に達するルートである。

■相鉄線から羽田空港方面の線路がつながる

じつはこの新鶴見信号場から鶴見駅(旅客用のホームはない)を通過し、横浜羽沢駅に至る区間こそ、相鉄・JR直通線の列車が運転されるルートなのだ。旅客駅として新設される羽沢横浜国大駅は、貨物駅である横浜羽沢駅のそばにある。

つまり、東京貨物ターミナル駅発着の貨物列車と、相鉄・JR直通線の旅客列車は鶴見駅から横浜羽沢駅・羽沢横浜国大駅付近にかけて同じ線路を共用することになる。物理的には東京貨物ターミナル駅から相鉄線内への直通も可能になるのだ。これを活用しない手はないと思うのだが、どうだろうか。

  • 試運転で鶴見駅を通過するE233系。この付近で東京貨物ターミナル駅からの線路と合流する。なお、相鉄・JR直通線の開業後、JR東日本からは埼京線のカラーリングを施したE233系が相鉄線へ乗り入れる

相鉄やJR東日本の計画として公表されているわけではないが、東京貨物ターミナル~羽田空港間のアクセス路線が完成、開業した暁には、相鉄線内から羽田空港方面への直通列車の設定も考えられる状況が、11月30日の相鉄・JR直通線開業以降に生まれることになる。今後の協議次第ではあるものの、相鉄は都心直通ルートだけでなく、JR東日本の貨物線ネットワークを活用することも不可能ではなくなる。

実現に向けては、浜川崎駅から川崎新町駅まで2.1kmの区間が単線であること、貨物列車や相鉄線横浜方面の列車との兼ね合いによるダイヤ編成上の問題、さらに配線上、東京貨物ターミナル駅で折返し運転が必要となりそうであることなど、多少のネックは生じると思われる。しかし相鉄にしてみれば、羽田空港アクセスへの参入は将来的に非常に魅力的なプランではなかろうか。

JR東日本の構想では、羽田空港アクセス線(仮称)は東京都心方面や千葉方面への直通列車の運転が考えられているが、神奈川県側への列車は含まれていない。もし相鉄線と直通できれば、大和・海老名といった神奈川県央部の都市から東京国際空港(羽田空港)への鉄道アクセスが劇的に改善されるであろう。需要見込み次第ではあるのだが、相鉄・JR東日本の双方にとって「悪い話ではない」と思われる。