10月19日に開催された、超電導リニアL0系改良型試験車の試乗会に参加した。本誌でも当日の様子を詳しく伝えている。筆者からは、「2度目の試乗体験者」として感想を述べたい。最初の試乗は2015年8月15日だから、それから5年2カ月ほど経過している。

  • 山梨県リニア見学センター「どきどきリニア館」から試験走行を見学できる。改良型試験車は、この方向から見て奥のほうに連結されている

5年前の記憶は薄れ、現在との比較は難しいものの、それでもはっきりとした改良点があった。それは「着地ショック」だ。5年前の試乗では、減速してタイヤ走行に移るとき、「ドシン」という着地感があった。それは旅客機の着陸とよく似た感覚だ。今回も着地感はあったが、衝撃は小さい。

■5年間でリニア新幹線は「着陸上手」になっていた

旅客機の着陸では、ほとんどショックがない「ソフトランディング」と、お尻をたたきつけられるようなショックを感じる「ハードランディング」がある。5年前のリニア車両はハードランディングだった。「なるほど、浮上走行するリニア車両は地を這う飛行機のようなもの。着地は着陸と同じ感覚だな」と。それはそれで納得した。

しかし、今回の試乗ではソフトランディングだった。飛行機の逆噴射のような強い減速感はあるものの、ショックは小さい。

10月19日の試乗会で、筆者は先に新型(改良型試験車)、後で旧型(従来のL0系)に乗るグループだった。新型だからショックが小さくなったかもしれない、と思ったら、旧型でも同様だった。トンネルの多い区間だから、「雨のせいで滑ってソフトランディングになった」ではなさそうだ。新型でも旧型でも着陸ショックが小さくなった。

つまり、車両だけでなく、5年間で運転制御系もかなり進化したようだ。リニア実験線は世界最高速度を記録し、すれ違い試験も無事終了。有料試乗会という形で「有人実験」も安全に実施してきた。リニア新幹線は究極の進化を遂げた技術だと思っていたが、さらに進化していた。

今回の試乗会では、新型車両である改良型試験車の説明が中心で、車両以外の説明がなかった。説明すれば、「新型車両のお披露目」という意味合いが薄れると考えたかもしれない。

ソフトランディングを実現できた理由は、車両の電気系統をガスタービン発電機の搭載ではなく、非接触集電に切り替えたことで、編成全体が軽くなったせいだろうか。片側だけ新型車両にしたことで、全体的な空気抵抗が変わったか。車両以外の進化について、もっと知りたくなった。

ちなみに、飛行機の場合はソフトランディングが良いとされている。衝撃が小さければ、乗客と乗務員の負担が減るだけでなく、飛行機機材への影響も小さくなるからだ。ただし、ハードランディングが必ずしも駄目ではないらしい。滑走路が短い場合、悪天候などでランディング距離を短くしたい場合はハードランディングになるという。

  • 改良型試験車の窓は熱線吸収タイプのガラスを採用。旧型は透明ガラスで遮光スクリーンが付いていたが、新型にはスクリーンがない。構造を簡略化し、軽量化しているという

リニア中央新幹線も、滑走距離の関係でソフトランディングとハードランディングを使い分けるかもしれない。しかし、飛行機と同じで、乗客にとっても機器にとってもソフトランディングが良いはず。磁気の浮力の弱め方、車輪のサスペンションなど改良が進むはずだ。

■だからこそ気になる座り心地

着地については高評価だったが、その分、気になるところもあった。着席した状態で、減速時に腰ごと前方に滑りそうになる。航空機内では、乗客はシートベルトを着用しているから、腰がしっかり支えられている。リニアの座席にはシートベルトがないから、当然、減速時の動揺が大きくなる。

ハードランディングでは下向きの力が強いから、座席と尻の摩擦が大きくなる。しかしソフトランディングは下向きのGが弱く、その分、進行方向へ働く慣性の力が強めに出るのではないか。

ただし、これは座席の改良で解決しそうだ。この減速時において、じつは旧型車両の座席の乗り心地が良かった。新型の座席も座面は改良されているというが、やや固めで、表面も滑りやすいように感じた。旧型の座面は比較的柔らかいようで、お尻が前後方向に動きにくかった。もっとも、それは素材の摩擦か、経年によって弾力が失われたかせいかもしれない。

短い乗車時間の中で、座り心地を優先するか、疲れにくさを優先するか。座面の固さや形状についてはさまざまな考え方がある。新型車両の座席は、単体で考えれば現状が適切かもしれない。しかし、車体の挙動と合わせて考えると改良の余地がある。もっとも、そういう部分の検証こそ試作車の役目で、今後の試験走行によってさらに改良されていくに違いない。

新型車両のシートは良い点のほうが多い。たとえば座席下に空間を設け、手荷物を置けるようにしている。このサイズは航空機の機内持ち込み手荷物の基準をクリアするという。通勤でもそうだが、短時間の乗車だと荷棚は使われないし、重いものを頭より高く持ち上げようとすると、体は不安定になる。リニア新幹線の加減速と乗車時間を考えれば、荷棚はなくしてもいいくらいだ。

  • 座面下は機内持ち込み手荷物を置ける空間ができた。小田急ロマンスカーGSEなど、座席下スペースを拡大する車両は増えている。インバウンドを意識しているようだ

もうひとつ、座席間の肘掛けも にやりとさせられた。中央に山を作り、左右の境界線になっている。どちらが使うかで気を使う肘掛けも、これなら両側の人が使える。いますぐにでも新幹線に採用してほしい。

  • 肘掛けは魚の背びれのように盛り上がり、境界を作った。これはいますぐにでも全列車で採用してほしい

テーブルは旧型の背面テーブルに対し、新型は座席の外側の肘掛けから引き出すサイドテーブルになった。乗車時間が短いから、弁当やPCを開くほどの設備はいらない。飲み物やスマホを置く程度で十分という判断だろう。しかし、ここはデブとしてひとこと言わせていただくと、サイドテーブルは腹がつかえて使いにくい(笑)。サイドテーブルを否定しないが、背面テーブルも継続してほしい。どちらか、ではなく、両方。それがサービスというものだ。

  • 肘掛けのサイドテーブルは、引き出し、格納、使用時ともお腹の大きい人にはつらいんですけど(笑)

サイドテーブルのある肘掛けはフレームがむき出しで、指を挟まないか心配になる。車両の境目の貫通路が狭く、人同士のすれ違いに接触を伴うし、壁や天井のパネル部分も隅のほうで留め具の頭が見えている。

これらはあくまで試作車の仕様だ。まさかこのまま営業用にはならないと思う。すぐにでも営業に使えるように見えて、やはり新型も旧型も「試作車」。開業までの間に、L0系はもっと進化するはずだ。開発者の方々に心からエールを送りたい。