熊本県の第三セクター鉄道、くま川鉄道が「令和2年7月豪雨」で甚大な被害を受けた。その状況について、同社取締役社長の永江友二氏がオンラインイベントで語った。橋りょう流出に加え、保有する気動車5両も浸水したが、うち1両のエンジンが起動したという。
ドワンゴによる「ニコニコネット超会議2020夏」(8月9~16日開催)の企画として、8月10日に「超鉄道サミット@ニコニコネット超会議2020夏」が放送された。スタジオでは、鉄道好きタレントの吉川正洋さん(ダーリンハニー)、ホリプロマネージャーの南田裕介氏らが出演した。
■「もっとも困っている会社」くま川鉄道の被災状況は
この「超鉄道サミット」に、鉄道会社11社が電子会議システムを通じて参加。「臨時参加」のくま川鉄道も加え、全12社となった。鉄道会社が1社ずつ紹介され、その会社の話題をみんなで盛り上げていく。クイズコーナーや休憩を挟みつつ、6時間を超えるボリュームとなった。
おもな話題は、新型コロナウイルス禍が続く中、それぞれの鉄道会社をどのように盛り上げていくか。イベント開始から約1時間50分が経過したところで、全線不通という「もっとも困っている会社」として、くま川鉄道が登場した。
永江社長は最初にくま川鉄道の被災状況を説明。線路施設関係では、球磨川第4橋りょうが流出したほか、前後約1kmも甚大な被害を受けたとのこと。他の区間は比較的軽微にとどまっているようだ。人吉市は街ごと水に浸かってしまったそうで、空撮写真も紹介された。
くま川鉄道は全車両が水に浸かっただけでなく、本社や検修庫も浸水。社員総出で、2日間かけて泥をかき出したという。社員のうち7名は自宅も被害を受け、天井まで水に浸かってしまったことから、会社が片付いた後、別の社員も手伝いに行ったとのこと。社員はその後、有形文化財を持っている旅館などを中心に、街の被害の対処にあたった。
■圧縮空気SLの“達人”もくま川鉄道を支援
車両の被害について、旅客用の気動車KT-500形は全5両とも床下機器が水没し、エンジンに水と泥が混入したと説明。製造会社もすぐにはサポートできないという状況だったが、心強い応援があった。若桜鉄道の谷口剛史氏だ。「時間が経てば錆が発生して手遅れになるかもしれない。応急処置をしましょう」と申し出た。
谷口氏はSLファンの間で、「圧縮空気を使って蒸気機関車を動かす技術者」として知られる。若桜鉄道で蒸気機関車C12形を走らせ、真岡鐵道の「SLキューロク館」など各地で技術指導も行っている。鳥取県が制定した「鳥取輝(き)らり マイ☆スター」の認定第1号となった人物でもある。
若狭鉄道の社長が背中を押し、谷口氏は車に発電機を積み、鳥取県若桜町から熊本県人吉市までやって来た。5日間の車両整備を経て、「KT-503」のエンジン起動に成功。人吉温泉駅構内で動かすことができた。エンジン音が響いたとき、くま川鉄道の社員たちは鳥肌が立つほど感動したという。
「超鉄道サミット」では、その谷口氏も若桜鉄道代表として参加していた。谷口氏によると、「1両だけ電子機器が水没していない車両が動いた」とのこと。くま川鉄道の永江社長は、「一歩前進、西村から西(人吉温泉~肥後西村間)は被害が少ないので、そこから復旧させたい」と語った。
■くま川鉄道を応援するクラウドファンディングも
続いて、くま川鉄道を応援するクラウドファンディングサイトが紹介された。イベントに参加する鉄道会社でくま川鉄道への支援を話し合う中、くま川鉄道のサポーターである杉山聡さん・江利子さん夫妻が発案したという。発起人は「くま川鉄道×杉山夫妻×超会議に参加される鉄道会社一同」とし、名義は「netchotetsudo」。イベントでは杉山さん夫妻も登場し、声を詰まらせながら挨拶する姿に、永江社長が涙を拭う場面もあった。
クラウドファンディングサイト「GoodMorning」内でファンドが設立され、手数料、リターン(謝礼品)制作費用はドワンゴが負担。支援単位は1口5,000円。謝礼品としてオリジナル「鉄カード」が制作され、「鉄カード」の発案者である明知鉄道の伊藤温子氏がデザインも担当する。伊藤氏も「超鉄道サミット」に参加しており、「支援した人も楽しめる、ここでしか手に入らないカードとして、災害に遭った橋の図案にした」とコメントした。
くま川鉄道のグッズを販売するネットショップも問い合わせが多い。しかし、「郵便局など輸送機関も被災しているため発送できない」状況だという。そこで、えちごトキめき鉄道をはじめとする21の鉄道会社・鉄道関連会社により、自社の駅または自社サイトで「くま川鉄道復旧祈念きっぷセット」が販売されることになった。硬券きっぷ印刷で有名な関東交通印刷は、「被災支援企画きっぷセット」を販売。硬券による「新鶴羽駅からおかどめ幸福駅」行と全14駅の硬券入場券が含まれ、制作費用は関東交通印刷が負担する。
永江社長の話によれば、被災後すぐに国から「全面的な支援をしたい」と連絡があり、国と県からバス代替について支援を受けているという。くまがわ鉄道は850人の高校生が通学で利用しており、7月20日から大型バスによる代替輸送が始まった。「いろんな方からアドバイスをいただいており、市町村からも復旧に向けて話し合っていただけると思う」と永江社長。くま川鉄道を応援する寄せ書きの色紙も画面に登場し、「勇気づけられた」と語った。三陸鉄道など過去に被災した経験のある鉄道を挙げ、その復活も励みにしていきたいとのことだった。
8月10日に放送された「超鉄道サミット@ニコニコネット超会議2020夏」は現在もアーカイブ配信中。クラウドファンディングは8月31日まで実施予定となっている。