JR東日本は9月3日の社長会見にて、2021年春のダイヤ改正で、おもに東京100km圏の各路線で終電時刻を繰上げなどを行うと発表した。終着時刻の目安を午前1時までとし、おおむね30分程度の繰上げとする。現在、午前1時以降に運転される路線は山手線、京浜東北線、中央線快速、中央線・総武線各駅停車、東海道線、宇都宮線など。各路線とも下り列車が多く、1本から数本が該当する。

  • JR九州は2021年春のダイヤ改正で、福岡都市圏の在来線を減便する方針だという

西日本新聞の8月27日付の記事「JR九州が福岡都市圏減便へ 来春ダイヤ コロナで在宅、需要減る」によると、8月26日に行われたJR九州の定例社長会見にて、来春のダイヤ改正で福岡都市圏の在来線を減便する方針を明らかにしたという。対象路線や区間は今後の需要を見極めながら決めるとしている。新型コロナウイルス感染症の感染防止を背景に、在宅勤務や大学のオンライン授業が普及しており、通勤通学需要が減っているとのこと。

JR西日本も8月26日に定例社長会見を実施し、その内容を公式サイトで公開している。基本的な考え方として、2021年春のダイヤ改正で、近畿エリアの主要線区を対象に終電を10~30分程度繰り上げる。これで約50本の列車を削減すると説明している。

JR東日本は7月30日の決算発表記者会見で、終電の繰上げに言及していた。時事ドットコムニュース「 JR 東日本、終電繰り上げ検討 新型コロナで利用客減」によると、山手線も含め、終電時間を見直す考えを示したという。

JR東海はJR東日本・JR西日本の終電繰上げの方針に理解を示しつつ、自社の路線では否定的だ。SankeiBizの8月27日付「JR東海社長、変動制運賃の導入を否定『需要コントロールできず』」にて、会見の中で、「利用者に不便な形で終電を繰り上げられると当社も困る」という趣旨の発言をしたと報じられている。東京圏・大阪圏の終電を繰り上げると、その終電に乗り換えられない東海道新幹線の乗客が減るからだろう。

東京~大阪間では、航空便が20時台で終了するため、21時以降に出発する東海道新幹線に根強い人気がある。JR西日本社長はJR東海社長の発言を踏まえたようで、終電を繰り上げても東京発の東海道新幹線最終列車との接続は可能な限り確保したいと述べた。

JR九州は減便の理由として、「利用者の減少と回復見通しの不透明感」を挙げる。これに対し、JR西日本・JR東日本は利用者減少を踏まえつつも、「保守時間の延長」をおもな理由に挙げている。とくにJR西日本の線路保守作業員の環境は厳しく、約10年間で23%も減少した。作業時間を増やし、労働環境の改善が急務となっている。

ただし、減便は乗客数の減少があってこその決断といえる。夜間は乗客数が少ない上に、保守時間も確保できるから減らしやすい。しかし、本音としては日中も減らしたいはず。「終電を減らしたい」という観測気球を上げて、理解が得られそうなら日中も減便となりそうだ。

■鉄道の需要はどこまで回復できるか?

JRグループのダイヤ改正は毎年春に行われる。その情報は前年の9月くらいから報道され始める。過去には寝台特急の廃止などが「JR関係者の話」として漏れ伝わってきた。一説には意図的なリーク、世論の反応を知る観測気球という見方もある。

今回はリーク情報ではなく、社長会見で減便の意向が伝えられた。それだけ鉄道事業者にとって通勤通学の需要減は深刻ということだろう。「なるべく早く手を打ちたい」という気持ちと、「慎重に需要回復の推移を見守りたい」という気持ちがせめぎ合っている。いまのところ、去年までのような通勤通学の混雑は戻らないだろうという予測が主流になっている。旅行についても同様ではないか。

こればかりは、人類が新型コロナウイルス感染症を克服できるか、あるいはどのように共存していくか、という生活様式にかかっている。特効薬についてはいくつかの候補が臨床試験中で、最も有効な薬が承認されるまでは、新型コロナウイルス感染症と共存する社会「ニューノーマル」で生活することになる。鉄道事業者側ではコントロールできない。

参考までに、日本経済新聞の8月17日付の記事「コロナ前GDP回復、『24年』最多 民間エコノミスト予測」によると、金融・証券会社などで調査研究に従事する22人の専門家にアンケートを実施したところ、景気回復は見出しの通り、2024年までかかるとの回答が最も多く、継いで2022年、2023年、2025年の順だったという。筆者は「この時期までに景気回復させなければならない」という専門家たちの意思だと感じた。

特効薬がなくても、ワクチンが間に合わなくても、これ以上は人々の活動を抑制できない。万全な発症対策を整えた上で、生活を元に戻す。となれば、2024年までに列車は昨年の水準で運行できる状態に対応する必要がある。列車の減便だけであれば、現在保有する列車を休ませるだけで、再稼働できれば元通り。いまはまだ後戻りできる状態にある。2021年3月のダイヤ改正は、まだ後戻りできる状態での減便策が示されると思う。

その元通りにできる状態をいつまで維持できるか。しかし、通勤通学需要が回復しないとなると、設備更新の抑制が始まるだろう。いままで混雑率を低くするための施策は停止。減便が進めば開かずの踏切は解消されるが、立体交差事業は安全の問題なので事業継続。ただし、輸送力増強のための複線化、複々線化、駅の改良は先送りになるだろう。たとえば、通勤客が減っているにもかかわらず、莫大な費用をかけてターミナル駅の線路を増やすという工事は難しくなる。

新型車両の製造などにも影響しそうだ。運行本数を維持しつつ、車両編成は短くする(減車)。車両編成はそのままにして、運行本数を減らす(減便)。減車か減便か、どちらにするか。鉄道事業者や路線によって判断が分かれる。どちらにも対応できるように、分割・併結を容易にできる車両が開発されるかもしれない。

  • 鉄道事業者の需要減が続けば、新型車両の製造などに影響を及ぼす可能性も(写真は横須賀線・総武快速線に投入予定のE235系)

ダイヤ改正の公式発表は例年、12月20日前後に行われるから、それまでは報道が頼り。ニュースサイトを閲覧する楽しみでもある。しかし残念ながら、鉄道ファンをわくわくさせるような前向きな情報は少ないかもしれない。

いや、こんなときだからこそ、「ニューノーマル」を反映した新しい観光列車、快適な通勤電車が登場すると期待しよう。どんな困難でも前向きにとらえていきたい。