10月1日にゆいレール(沖縄都市モノレール)が首里駅からてだこ浦西駅まで延伸開業した。今後しばらくは全線完乗をめざす「乗り鉄」諸氏が沖縄へ向かうだろう。次のターゲットは横浜市北部。今年11月30日に相鉄・JR直通線が開業する。

  • 富山駅停留場を発車する富山地方鉄道「レトロ電車」(写真:マイナビニュース)

    富山駅停留場を発車する富山地方鉄道「レトロ電車」(7022号)

その次の新規開業は富山県富山市になった。10月1日、富山市、富山地方鉄道、富山ライトレールは共同で、路面電車の南北接続を2020年3月21日に実施すると正式発表した。全線完乗タイトル保持者にとってはちょうど良いペースかもしれない。

ここでいう「南北接続」とは、富山ライトレール富山港線の軌道を富山駅直下に延伸し、先に開業した富山地方鉄道市内電車(富山軌道線)の富山駅停留場に接続する事業をさす。運行開始に先駆けて、2020年2月22日に富山地方鉄道は富山ライトレールを吸収合併する。つまり、南北の路線は同じ会社になる。

南北接続後の運賃については、現在の運賃と同じ210円が富山地鉄市内電車と富山港線の全区間で適用される予定となった。現在、市内電車と富山港線を乗り継いだ場合、それぞれ210円ずつ、合計420円かかっていたから、実質的には半額値下げとなる。ポートラム(富山港線)とフィーダーバスの乗継割引が継続されると、かなり広範囲を210円で移動できるようになる。富山地方鉄道のICカード乗車券「えこまいか」と、富山ライトレールのIC乗車券「パスカ」は南北接続までにシステムの統合作業を実施し、そのまま使用できるという。

定期券は1カ月7,950円の予定。現在、富山地方鉄道の定期券は1カ月8,280円だから、利用可能区間が増えたにもかかわらず330円の値下げとなる。富山ライトレールは現在の定期運賃が1カ月7,440円なので、510円の値上げになるけれど、市内電車が走る富山駅南側のエリアも利用できるから、かなりお得だと感じられるだろう。

こうした価格設定の背景には、富山市がマイカーからマイレールへモーダルシフトを進めたいという意向があるとみられる。

運行計画は富山港線の運行本数を維持し、岩瀬浜駅始発の全列車を富山地鉄市内電車の区間へ直通させる。朝の通勤通学時間帯は1時間あたり6本で、うち3本が南富山駅前行、3本が大学前行に。日中は1時間あたり4本運転され、南富山駅前行・大学前行が1本ずつ、残り2本は環状線に直通する。富山地方鉄道は「セントラム」こと9000形に加え、「サントラム」ことT100形が増備されている。直通運転は富山ライトレールの「ポートラム」ことTLR0600形と、富山地方鉄道のLRVが起用されると思われる。

  • 2020年3月21日以降の富山市路面電車運行系統

富山地鉄市内電車はこれら直通運転の電車だけでなく、既存の運行系統も維持する。1系統(富山駅~南富山駅前間)・3系統(環状線)に富山駅折返し便を残すほか、2系統(大学前~南富山駅前間)も富山駅でスイッチバックを行う。正確な運行ダイヤと運賃は国への届出や認可申請を経て決定される。時刻表は1月下旬に発表予定となっている。

なお、中日新聞が2019年8月7日付の記事「南北接続当日運賃無料に 富山路面電車開業イベント委」で伝えたように、3月21日の運賃無料を検討中だという。チューリップテレビは8月6日、「開業記念イベントとして、3月20日に発車式と開通式が富山駅で行われるほか、21日に富山市のオーバードホールで2000人を招待した式典を開催、富山大学、岩瀬エリア、南富山駅など沿線6か所で、市民参加型のイベントが行われる」と報じている。

路面電車の南北接続は沿線の人々の利便性が高まる一方、鉄道趣味としても興味深い。注目は富山港線に富山地鉄市内電車の旧型車両が入線するか。7000形や近代型の8000形が富山ライトレール区間に入ったら、LRT整備区間で旧型の路面電車が運行されるという「ミスマッチ感」が楽しいだろう。

当連載第171回「富山地方鉄道・富山ライトレール合併、富山港線が77年ぶり地鉄に」で紹介したように、富山港線は1941~1943年に富山地方鉄道の路線だった時代がある。7000形は1957(昭和32)年に製造されたため、富山港線の入線実績はない。もし7000形が富山港線に入線したら、「幻の富山地方鉄道富山港線」が実現する。定期運行ができなくても、貸切運行やイベント列車として走らせてほしい。とくに「レトロ電車」7022号が富山港線を走行する様子を見てみたい。

ちなみに、富山市の次の新規開業予定は、順調に進めば宇都宮市となる。2022年3月、宇都宮ライトレール(宇都宮LRT)のJR宇都宮駅東口~本田技研北門間14.6kmが開業する予定だ。他にも20路線以上が整備中となっており、構想段階の路線も多い。完乗系「乗り鉄」の旅に終わりはないのかもしれない。