茨城新聞の報道によると、ひたちなか市は4月18日、ひたちなか海浜鉄道湊線の延伸構想について、4案のうちひとつに絞ったと発表したという。現在の終点の阿字ヶ浦駅から北へ延ばし、国営ひたち海浜公園に沿う3.1kmのルートだ。終点は同公園西口付近で、中間に2駅を設ける。国営ひたち海浜公園は1年を通じて花が咲く公園として知られており、春のネモフィラ、秋のコキアはとくに有名だ。ひたちなか市は鉄道延伸による観光客の増加に期待している。

ひたちなか海浜鉄道湊線の位置と延伸ルート

ひたちなか海浜鉄道はJR常磐線勝田駅から東へ進み、那珂川河口の那珂湊駅を経由して阿字ヶ浦駅まで結ぶ路線だ。勝田~那珂湊間の開業は1914年。那珂湊からの海産物輸送と地域の発展が目的だった。10年後には漁港として栄えていた平磯を経由し、磯崎駅へ延伸した。磯崎駅付近は太平洋を望む景勝地があり、海水浴場や別荘地として開発する計画があった。1928年に現在の終点、阿字ヶ浦駅へ延伸。海水浴場として夏場はにぎわい、一時は遊園地を経営した時代もあった。

しかし、創業以来、鉄道部門はほとんど赤字だった。観光客は夏場に限られ、バスやマイカーとの競争にさらされた。そこに施設の老朽化と、運営会社の茨城交通の赤字深刻化が重なった。2005年に茨城交通は湊線廃止という苦渋の決断をする。ひたちなか市は湊線存続のために第3セクター化を決め、2008年に現在のひたちなか海浜鉄道が発足した。

赤字覚悟で発足した会社が業績を回復し、東日本大震災の被災がなければ単年度黒字決算の見通しだった。そして被災から復興し、ついに路線延伸を達成しようとしている。延伸案が実現すれば、近年のローカル線問題を考える上で、希有な成功事例になる。

地域の信頼と相互理解はローカル線の手本

ひたちなか海浜鉄道の成功は、ひたちなか市からの強力な支援と、地域の要望に応えた鉄道側の努力がある。茨城交通の廃止提案後、ひたちなか市では鉄道の重要性を地域に訴え、小中学校では公共交通に関する授業も実施した。沿線の自治会や商工会議所が結束し、「おらが湊鉄道応援団」が発足。この応援団が沿線のイベントを支え、フリーきっぷ利用者への沿線商店の割引など実施を計画。現在もひたちなか海浜鉄道の大きな支えになっている。

ひたちなか海浜鉄道も地元への貢献を第一に掲げている。地域のイベントと密接に関わるだけでなく、通学定期券を大幅割引し、最終列車を繰り下げて沿線の人々が東京や水戸への滞在できる時間を延ばした。那珂湊駅構内の朝市などのイベント実施、各種イベント列車の運行で観光誘客にも力を入れ、地域の活性化に貢献した。那珂湊駅に棲み着いた猫もアイドルになった。

ひたちなか市では鉄道の活性化と観光振興のため、2010年から期間限定で阿字ヶ浦駅と国営ひたち海浜公園間のシャトルバスを運行している。運賃は100円で、ひたちなか海浜鉄道のフリーきっぷ所持者は無料だった。このバスは形態を変えて存続し、現在も無料シャトルバスとして継続している。この実績も今回の延伸案につながっている。

ひたちなか海浜鉄道の延伸案の背景には、このような鉄道と地域の共生がある。2013年にひたちなか市長の本間源基氏が構想を発表し、市が調査費として1,000万円を予算化した。2014年の市長選挙で本間氏は再選。ひたちなか海浜鉄道の延伸を公約のひとつに掲げたこともあり、延伸計画への大きな足がかりとなった。2015年12月には国からも「官民連携による地域活性化のための基盤整備推進支援事業」として調査費の補助を受けた。

本間氏は2015年8月にひたちなか市で開催された「ローカル鉄道サミット」に登壇し、次のように語っている。

「湊線を延伸すると言ったときは、本気にしない人も多かった。市長は何を言っとるんだと。しかし最近は、いつ延伸するのか、という声のほうが多くなった」

乗客が少なく赤字にあえいでいた鉄道に、市民が期待している。

前段で、延伸が決まれば希有の例だと書いた。しかし、延伸に結びついた「ローカル鉄道と地域との共生」は希なことではない。それが本来の鉄道のあり方だ。ひたちなか海浜鉄道とひたちなか市はあるべき道を着実に進んでいる。延伸の実現が待ち遠しい。