JR東日本の善処が裏目に出たのか。東京から中信地区の速達化のため、2019年3月のダイヤ改正で中央本線の特急「あずさ」を高速化する。しかし、停車駅の見直しを伴うことから、通過する駅のある自治体が反発している。

  • ダイヤ改正後の特急「あずさ」の停車駅に異議あり!?

長野県の地域紙、信濃毎日新聞の電子版「信毎Web」に掲載された1月8日付の記事「“あずさ”減 JRに見送り要請 諏訪地方・塩尻・木曽地方の自治体」によると、諏訪地方6市町村と塩尻市、木曽地方6町村、東筑摩郡南部2村などが「あずさ」の停車駅減少に反対し、JR東日本長野支社に対して「ダイヤ改正見送りなどを求める請願書」を提出したという。「事前に協議もなく改正を決定し公表した」などと批判している。

日本経済新聞電子版の1月11日付の記事「長野知事、中央線ダイヤ改正でJR東に苦言」によれば、長野県知事が定例記者会見で「東京都内区間の複々線化など抜本的な部分に取り組むことなしに停車駅数が減らされてスピードアップするというのは、我々の期待する方向ではない」と語ったという。要望書には37団体が加わったとも報じられている。かなりの規模のように感じる。

特急「あずさ」の停車が減る駅は、下諏訪駅の12本減が最も大きく、富士見駅が7本減、塩尻駅が5本減、岡谷駅が4本減、上諏訪駅が2本減と続く。これにより、塩尻市、岡谷市、諏訪市、下諏訪町、富士見町が影響を受ける。岡谷駅から中央本線辰野方面と飯田線、塩尻駅から中央本線名古屋方面も乗換え可能で、それらの沿線も東京へ速達できる列車が減ることになる。37団体は自治体や商工会議所なども含めた数字だろう。

「あずさ」の停車駅削減については山梨県でも反発がある。テレビ山梨などによると、昨年12月19日、山梨県がJR東日本八王子支社に対し、ダイヤ改正の見直しを求める県知事名の要望書を提出したとのこと。ダイヤ改正で「あずさ」がすべて塩山駅、山梨市駅、石和温泉駅を通過するためだ。翌日には、これら3駅が所在する甲州市、山梨市、笛吹市がJR東日本の本社へ要望書を提出した。現在、それぞれの駅で1日6~10本の「あずさ」が停車している。

これらの抗議に近い要望に対し、JR東日本側は「速達性を優先したダイヤ改正」「ビジネス客からの要望」について理解を求めたという。ダイヤの見直しはなさそうな気配だ。

  • 「あずさ」の停車駅。沿線自治体が通過見直しを求めた駅を赤丸で示した。参考までに北陸新幹線(緑)、中央新幹線(オレンジ)も示している(国土地理院地図を加工)

JR東日本のダイヤ改正では、中央本線において特急「あずさ」「かいじ」をすべて新型車両のE353系に統一し、サービスを改善する。あわせて松本方面へ向かう「あずさ」、甲府駅・竜王駅止まりの「かいじ」の役割を明確にする。速達タイプの「あずさ」も設定され、現行の「スーパーあずさ」は列車愛称名が廃止される。

中央本線の特急列車に関して、今回のダイヤ改正は首都圏と中信地区のスピードアップがJR東日本の意図するところだろう。ゆえに長野県側からの反発は残念なことだった。

長野県は南北に長く、長野市などの北信地域、松本市などの中信地域、伊那・木曽などの南信地域に生活圏が分かれている。このうち、北信地域では北陸新幹線が通り、南信地域では飯田市にリニア中央新幹線の長野県駅が設置予定となっている。そうなると、中信地区の核となる松本駅が、長野県で最も東京から時間的に遠い主要駅となってしまう。そこで「あずさ」のスピードアップが求められたわけだ。

しかし、「あずさ」に使用されるE353系は、客室をはじめとする設備は向上したけれど、性能面では前任のE351系で不評とされた車体傾斜システムの改良などにとどまった。車両の性能が向上できないなら、停車駅の見直しでスピードアップを実現させるしかない。

  • 単線区間(赤)が「あずさ」のボトルネックとなっている(国土地理院地図を加工)

それとは別に、現在は単線のままとなっている上諏訪駅付近から岡谷駅までの区間を複線化することも、中信地区のスピードアップの「特効薬」となりうる。本誌連載「列車ダイヤを楽しもう」の第57回「E353系も走る中央東線、『スーパーあずさ』高速化の課題は?」でも紹介していたように、単線区間の上諏訪駅、下諏訪駅で特急列車同士のすれ違いが行われている。

下諏訪駅への停車に関して、「利用客が多いから」というより「長時間停車せざるをえないため、便宜上の客扱いを行っていた」と考えることもできる。時刻表では通過扱いとなっている列車も運転停車している場合があり、通過する場合も分岐器などで速度制限を受ける。長野県知事は都内の混雑区間である中央快速線を複々線化すべきと発言しているけれども、お膝元の長野県内で複々線化を実施したほうが効果的かもしれない。

JR東日本は収支を勘案してコストの低い「停車駅の見直し案」を支持しているわけで、複線化には地元自治体の支援が必要になる。長野県は中央本線高速化計画のために、JR東日本と資金面も含めた協力体制を作るべき。そうすれば停車駅を削減しなくても、現在よりスピードアップできるはずだ。

一方、山梨県側の反発に対しては「かいじ」の増発が良さそうだ。甲府行の「かいじ」、松本行の「あずさ」を明確にしたほうがわかりやすいだろう。JR東日本としては、山梨県内で降りてしまう客が「あずさ」に乗ってしまうと、長野県内へ向かう客が指定券を取りづらくなる。山梨県から長野県にかけての区間で「あずさ」の空席が残ってしまう。

新ダイヤでは一部列車を除き、日中時間帯の下り「あずさ」は新宿駅を毎時0分発、下り「かいじ」は新宿駅を毎時30分発。どちらもおおむね1時間に1本の運転となる。もし「かいじ」の増発が難しければ、「あずさ」を基本編成、「かいじ」を付属編成として運転してみてはどうか。新ダイヤでは「かいじ」のうち上下各2本において、新たに登場する特急「富士回遊」と新宿~大月間で併結運転を行う。

「富士回遊」をつながない「あずさ」に「かいじ」を大月駅まで連結し、その後、「あずさ」を先行、「かいじ」で後追いでも良い。その連結・解結の作業時間が「あずさ」を遅くしないように、「あずさ」の甲府駅通過で対応しても良いと思う。

ただし、この手間をかけてまで「かいじ」に需要があるか。その見極めが必要だ。数字をきちんと説明して、新ダイヤでも十分という説明ができれば、地元も納得できるはず。長野県の自治体が反発した「事前に協議もなく改正を決定し公表した」は、国鉄時代からの伝統かもしれないけれど、そろそろ改めて十分な説明と協議を実施すべきだろう。

昨年3月のダイヤ改正では、JR九州の大幅減便に沿線自治体が反発した。事前の協議がきちんとできていれば、こじれることもなかったような気がする。鉄道施設の建設費用は高額だ。今後、設備を改良したい場合は、赤字でも黒字でも自治体の支援は必要になる。鉄道と自治体は便利さと利益を受ける共同体だ。事後の反発で消耗するより、事前の協議を経て、すっきりとダイヤ改正を迎えてほしい。