本誌連載「鉄道トリビア」で紹介したこともある山手線唯一の踏切「第二中里踏切」が廃止されそうだ。建設業界紙「建設通信新聞」の公式ブログが9月12日に公開した「【第二中里踏切】山手線で唯一の踏切を改良へ JRと北区が検討会設置」によると、JR東日本と北区が「第二中里踏切改良検討会」を設置したという。

  • 山手線唯一の踏切「第二中里踏切」

北区の公式サイトを見ると、9月14日に開催された北区区議会建設委員会の報告事項として、「第二中里踏切の改良検討について 」という項目がある。内容は示されていないけれども、検討会の設置について周知されたと思われる。

山手線唯一の踏切は、趣味的には面白いけれど、「開かずの踏切」はやはり不便。2016年には電車と人の接触事故も起きていた。産経ニュース2016年6月19日付「山手線唯一の踏切で事故 一時全線運転見合わせ」によると、内回り電車と近くに住む男性が接触し、けがをしたという。男性は遮断機と警報機が作動した踏切に立ち入ったようだ。

第二中里踏切は駒込~田端間にある。狭い踏切でありながら車は一方通行ではなく、車同士のすれ違いは譲り合いが必要になる。電車は混雑時に2分30秒間隔で走っており、遅延が発生すると電車の間隔が詰まるため、「開かずの踏切」になってしまう。

2011年6月に紹介した本誌連載「鉄道トリビア」第104回「山手線には1カ所だけ踏切がある」で踏切を撮影した際、車の通行が少ないと感じた。しかし、ここは山手線で隔てられた田端地区と中里地区を結ぶ3つの車道のひとつ。西側のガードは3mの高さ制限があり、東側の跨線橋に大型車が集中する。そうなると、第二中里踏切は乗用車と小型車の抜け道にもなっていて、それなりに渋滞する時間帯もあるという。

国土交通省は交通事故の防止と交通の円滑化を目的として、2016年に「踏切道改良促進法」を改正した。同法はもともと、改良すべき踏切の指定と改良の期限を定めるための法律だった。2016年の改正はさらに踏み込んで、深刻な問題のある踏切について国土交通大臣が指定し、自治体や鉄道会社に対し、5年間の期限(2020年)までに着手するよう促すことができる。国土交通大臣は第1グループとして、2016年4月に全国58カ所の踏切を指定。続いて2017年1月に529カ所を指定した。この第2グループに第二中里踏切も含まれた。

第二中里踏切は、この場所の東側にあった道路橋を南側に移転する形で設置された。かつて鉄道は切通しを走り、道路は橋を渡っていた。しかし、山手線と山手貨物線を立体交差させられるように、山手線側の線路を高くしたため、道路橋を取り壊す必要があった。それでは人と車の通行が不便という理由で、この場所に踏切が作られた。道路と鉄道の立体交差を解消し、平面交差の踏切を作るという珍しい経緯だった。

建設通信新聞公式ブログによると、現在検討されている踏切改良案は「立体交差化」「歩道拡幅など構造改良」「歩行者などの立体横断施設の設置」「保安設備の整備」となっている。このうち「立体交差化」を除く「歩道拡幅など構造改良」「歩行者などの立体横断施設の設置」「保安設備の整備」が採用された場合、改良された踏切が残る。今年度中に調査設計協定を結び、2020年度に改良計画をまとめる予定となっている。

「鉄道トリビア」第104回でも指摘したように、線路の下に道路を通す場合は、さらに低い位置にある山手貨物線よりも下にする必要がある。道路側を高架化するためには前後の勾配部分の復員が足りず、用地買収も必要になりそうだ。現状の用地のままだと1車線の両側に歩道となり、車は一方通行路になる可能性が高い。

  • 補助92号線の跨線橋整備がカギとなるか(国土地理院地図を加工)

しかし、地図で少し視野を広げると、東側に広い道路を作り、線路をまたぐ橋を作る気配がある。線路の田端側で広い道路が途切れており、中里側の自転車駐輪場と公園は道路予定地のようだ。東京都によると、この道路は「補助92号線」とされ、北区西ヶ原1丁目から台東区下谷1丁目を結ぶ都市計画道路とのこと。このうち、台東区区間は見直しとなっており、西ヶ原~西日暮里の計画が進んでいる。航空写真を見ると、少しずつ拡幅工事が進んでいる。

補助92号線が山手線をまたぐと自動車の迂回路になる。この道路と絡めて第二中里踏切の車道部分を廃止するという考え方もあるだろう。歩行者の通行のみとなる場合は踏切を廃止し、スロープ付き歩道橋という案も出そうだ。

JR東日本は踏切を解消したいだろう。読売新聞8月13日付「山手線や東北新幹線、自動運転検討…運転士不足」にて、山手線などで「無人自動運転」の検討を始めたと報道されている。電車の自動運転はゆりかもめなど新交通システムを中心に採用されているけれど、いまのところ採用路線は既存交通と立体交差している路線に限られる。山手線で唯一の踏切がなくなれば、山手線の無人運転実現へ一歩前進となることは間違いない。