「JR北海道の事業範囲見直しに係る関係者会議」が6月17日に開催され、JR北海道から維持困難線区に対する国の支援要請が行われた。輸送密度200人/日未満の5線区は国の支援を受けないとして廃止の方針、200人/日以上 2,000人/日未満の8線区は国に支援を要請する。ただし、JR北海道の社長会見では「5年後に存廃を検討」との発言があり、沿線自治体などが反発。後に訂正するなど混乱がみられた。

  • 6者協議では、JR北海道から維持困難線区の経営再建方針について説明されたという(写真は根室本線の普通列車)

今回の会議は「6者協議」と報じられている。6者とはJR北海道、国土交通省、北海道、北海道市長会、北海道町村会、JR貨物をさす。6者協議では、JR北海道から経営再建方針について説明された。その資料はJR北海道のウェブサイトに公開されている。

北海道新聞の6月18日付の記事「深川 - 留萌などJR5区間に国の支援なし 6者協議 社長、8区間存廃にも言及」によると、JR北海道が2016年に「単独で維持することが難しい」と挙げた13線区のうち、5線区は国の支援を求めない、つまり鉄道を維持しないという。これで廃止・バス転換という方向性が定まった。残り8線区は「国の支援を要望し、収支が改善しなければ、将来の廃線も含めて検討する考え」と報じられた。

6者協議で国の支援を求めないとされた路線と現況
石勝線夕張支線 新夕張~夕張間 バス転換で合意
日高線 鵡川~様似間 災害不通区間あり、沿線自治体と存廃協議中
根室本線 富良野~新得間 災害不通区間あり、復旧未着手。輸送密度200人/日未満
札沼線 北海道医療大学~新十津川間 輸送密度200人/日未満
留萌本線 深川~留萌間 輸送密度200人/日未満

このうち、札沼線については6月18日に月形町長が廃止容認を正式に表明し、他の沿線自治体も容認していることから、廃線は確定的となった。留萌本線については5月に「留萌市議会留萌線対策会議」が設置され、存続可能性を探っている。北海道新聞6月18日付「留萌線、国の支援要望しない方針 留萌市長『厳しい』 道北自治体、JRに反発」では、6月18日に留萌市議会留萌線対策会議が開催され、留萌市長の戸惑いが報じられた。また、8線区の存廃検討について、沿線自治体の反発があるという記述もある。

「8線区は将来に存廃も検討」という発言に対して、北海道知事は2017年に道がまとめた「将来を見据えた北海道の鉄道網のあり方について」の趣旨と異なるとして、「真意を確認したい」と反発。JR北海道社長は6月20日に知事と会談し訂正、陳謝するという展開となった。謝罪の前提が「私の真意が伝わらず、誤解を与える報道につながり」となっており、北海道新聞はそのまま報じた。まるで報道の方法に問題があったかのような言葉で、北海道新聞としては矜持を保ちたかったとみえる。

日本経済新聞の6月19日付の記事「JR北、国支援に5線区盛らず6者協議で表明」によると、「収支が改善しなければ、将来の廃線も含めて検討する考え」については、6月17日の会議の席上ではなく、会議終了後、JR北海道社長の会見での発言だったようだ。「存廃を検討」発言については、日本経済新聞も「5年程度をめどに定期的に検証を行っていく(6月19日)」「8線区も収支が改善しなければ廃線も含めて検討するとした発言(6月20日)」と報じており、発言はあったとみられる。

6者協議で国の支援を求め、5年ごとに見直しと発言された路線
宗谷本線 名寄~稚内間 輸送密度200人/日以上 2,000人/日未満、年間赤字25億円
根室本線 滝川~富良野間 輸送密度200人/日以上 2,000人/日未満、年間赤字12億円
富良野線 富良野~旭川間 輸送密度200人/日以上 2,000人/日未満、年間赤字10億円
根室本線 釧路~根室間 輸送密度200人/日以上 2,000人/日未満、年間赤字11億円
室蘭本線 沼ノ端~岩見沢間 輸送密度200人/日以上 2,000人/日未満、年間赤字11億円
日高本線 苫小牧~鵡川間 輸送密度200人/日以上 2,000人/日未満、年間赤字4億円
石北本線 新旭川~網走間 輸送密度200人/日以上 2,000人/日未満、年間赤字36億円

2017年に道がまとめた「将来を見据えた北海道の鉄道網のあり方について」では、具体的な路線名は挙げられていない。ただし「札幌圏と中核都市を結ぶ路線は維持されるべき」として、石北本線の北見を中核都市に挙げている。「広域観光ルートを形成する路線」は大きな役割があるとして、宗谷本線、釧網本線、石北本線、根室本線を示唆している。「国境周辺地域や北方領土隣接地域の路線」には宗谷本線と根室本線(釧路~根室間)が該当する。「広域物流ルートを形成する路線」には室蘭本線(沼ノ端~岩見沢間)の貨物列車12本の運行を指摘している。

JR北海道が公開した説明資料では、「5年後の見直し」や「存廃を検討」の文言はない。実際の会議で言及があったか否かは不明ながら、少なくとも出席者から北海道知事には伝えられていないし、国土交通大臣は「道の方針を尊重する」と語っている。つまり、存廃の検討はまだ議題にないという認識だろう。

しかし、この展開はJR北海道社長にとっては気の毒だと思う。自社単独で維持できない事業について、地域や国の支援を乞う立場で、その状況を永遠に続けてほしいとは言いにくい。国税から支援を受け続けるためには、財務省に対して経営改善の成果を見せる必要もある。5年単位で経営状況を確認し、事業の進退を決めるなんて、ビジネスでは当然のことだ。むしろ5年ではぬるいともいえる。

スピード経営なら1年、地域の要請、公共交通の責任を加味したとして「5年の見直し」という考えだろう。発言のタイミングは間違ってしまったかもしれないが、地域の協力、支援の枠組みができなければ、いずれ存廃の検討という段階は来る。これは沿線自治体も受け止める必要がある。

支援については「北海道新幹線が札幌延伸開業する2030年まで」と区切りをつけている。北海道新幹線については、国やJR貨物に対し、青函トンネル内の高速走行、東京~札幌間の所要時間4時間半実現を求めている。しかし、それが実現したとして、JR北海道の経営を一気に黒字にするほどの利益があるかどうか。新函館北斗駅まで開業した現状で、事業の枠組みとしてはJR東日本の負担割合を大きくしてあるとはいえ、JR北海道としては赤字。札幌延伸の効果で経営改善が達成しているかどうかは未知数だ。

そのとき、経営環境が変わっていなければ、やはり「次の一手」を打つ必要がある。JR北海道社長が北海道知事に陳謝したところで、厳しい現実は変わらない。北海道には今回の発言の背景にあるJR北海道の立場と厳しさを共有してほしい。