韓国と北朝鮮は26日、鉄道協力分科会談を実施。南北鉄道の連結と北朝鮮の鉄道現代化の共同研究調査団の設立を合意した。政治的には微妙な問題であり、とくに日本と北朝鮮には政治的課題も多い。筆者も内心では思うところはある。ただ、鉄道趣味という小さな範囲で言わせてもらえれば、安心して旅ができる国が増える。それだけはうれしい。

「乗り鉄」の中には、日本国内の鉄道路線をすべて乗り潰そうという人々がいる。筆者もその1人で、現在の踏破率は95%。ここまできて、100%の次はどうするかと考え始めた。全線完乗した人の次はいろいろある。乗れなかった路線の廃線跡に向く人もいるし、「2週目」を始める人もいる。

そして「日本の次は海外へ」という人も少なくないはずだ。学生時代は「青春18きっぷ」で貧乏旅行を楽しんだ人も、日本の鉄道を乗り終わる頃には年齢も上がり、休暇は取りづらいけれどお小遣いは増える。定年を迎えれば余暇も増える。しかも近年はLCCや航空券、ホテルのネット販売もあって、海外旅行は手軽になった。

ただし、海外に行くとして「世界の鉄道全線」はさすがに寿命が足りない。せめて、なるべく多くの国の主要路線に乗ろう、などと考える。そして思い当たるのだ。

「簡単には行けない国、行けるとしても危険な国」がいかに多いか。

外務省の海外安全ホームページでは、諸外国の危険度を「レベル1」から「レベル4」まで分類し、色分けしている。EU諸国や北米は色のない国が多いけれど、安心とは言いきれないから「危険度が低い」と考えるとして、諸外国の危険度は5段階になる。

ちなみに、鉄道ファンや旅行ファンが憧れるシベリア鉄道のロシアは「レベル1」で、「十分注意してください。」となっている。マハラジャエクスプレスが走るインドも「レベル1」。一方、中国は白だった。

「レベル4」は「退避してください。渡航は止めてください。(退避勧告)」で、「レベル3」は「渡航は止めてください。(渡航中止勧告)」、「レベル2」は「不急不要の渡航は止めてください。」となっている。いずれも鉄道趣味で行くなどもってのほかという感じがする。赤で示される「レベル4」の国々は、リビアなど南アフリカ北部、シリア、アフガニスタンなど中東地域に多く、その周辺が「レベル2」以上という傾向にある。

それらの国々にも鉄道はあって、鉄道の周りには人々の暮らしがあり、日本とは違う文化、景色があるだろう。行ってみたいけれども、恐ろしくて行けない。

外務省の海外安全ホームページで、北朝鮮は何色かというと、灰色になっている。灰色はここだけ。国交のない国も色分けされているから、北朝鮮は特別だろう。危険か否かを論じる国ではないらしい。しかし行けないというわけではない。中国経由で北朝鮮に入るルートはあるようで、旅行記は出版されているし、旅行記ブログもある。写真を没収されるなど悲しい場面はあり、行動は制限されているようだけど、行ける。ただし、疑いをかけられたら生きて帰れないというリスクはありそうで、灰色は「赤以上」かもしれない。

そんな北朝鮮と韓国の鉄道が結ばれ、自由に行けるかどうかはわからないけれども、列車を往来させようという動きが出てきた。中央日報6月27日付記事「南北鉄道の連結・現代化に合意、列車で欧州に?」によると、6月26日、板門店南側の平和の家で、韓国国土交通部第2次官と北朝鮮鉄道省次官がそれぞれの国の代表として鉄道協力分科会談を実施し、鉄道の分断解消と北朝鮮側区間の現代化を推進することで一致。そのための共同調査を7月24日から始めるという。

調査対象は韓国ソウル特別区と北朝鮮の新義州特別行政区を結ぶ「京義線」と、朝鮮半島東海岸沿いの「東海線」とされている。どちらも国境付近で分断されたものの、韓国側の太陽政策によって一旦は接続され、南北関係の悪化にともない不通のままだった。

大前提として、北朝鮮側の平和化と国際制裁解除があるとして、韓国と北朝鮮の鉄道が連結した場合、その利点は両国にとどまらない。旅行者の往来はともかく、貨物列車による物流ルートの整備は、韓国と中国、欧州を結ぶラインになる。韓国はユーラシア大陸にありながら、北朝鮮によって「陸の孤島」になっていた。北朝鮮を通過できれば、中国とヨーロッパがより近くなる。

その恩恵は日本も受けるはず。現在、日本からもユーラシア大陸を経由した鉄道輸送が行われており、「船便より早くて高い」「航空便より遅くて安い」という輸送手段を提供している。そのルートは2つあって、ひとつはウラジオストクまで船便を使うTSR(Trans Siberian Railway)ルート、もうひとつは中国連雲、上海、天津まで船便を使うCLB(China Land Bridge)ルート。本当は韓国釜山港のほうが近いけれども、北朝鮮を通過できないため遠回りになっている。

もし、北朝鮮を鉄道コンテナが通過できれば、CLBルートはもっと到達時間を早くできるだろう。現在、CLBルートの日本側はおもに太平洋岸の港を利用しているけれども、日本海側の鳥取県境港からも中国、韓国、ロシア向けの船が出ている。博多港からも同様だ。境港・博多港から釜山港へ、そこから中国経由でアジア、ヨーロッパ各国へ向かうルートは、他の2ルートに変わる最重要ルートになる可能性がある。

北朝鮮と韓国の鉄道連結は、まずアジアの物流ルートに変革をもたらす。そのおまけとして、旅客列車もありうる。KTXと中国高速鉄道が相互直通運転し、北京とソウルを3時間で結ぶという試算もあるという。こう書くと、貨物にしても旅客にしても、北朝鮮は通過するだけのように見えるけれど、もちろん北朝鮮の鉄道も収入がある。北朝鮮側は国境から観光地金剛山までの鉄道は開通済みのようだから、東海線と接続すれば、日本や韓国からの交流人口も増え、経済が活性化されるはずだ。

ここから先は本当に妄想だけど、次の段階として、何度か構想されては立ち消えになった日韓トンネルも復活するかもしれない。そうなれば日本もユーラシア大陸と地続きになる。船便を解消すればISOコンテナも不要。フォークリフトで扱えるJR貨物の12フィートコンテナが世界で活躍する日が来るかも……。

良いことばかりのようで、しかし課題は山積みだ。米朝会談によって良い方向になりつつあるとしても、北朝鮮に対する国際社会からの制裁解除が最大の難関だろう。日本としても、固有の課題解決が前提。さらに、これらをクリアしたとして、北朝鮮側の鉄道施設は老朽化しており、信号システムを含めた近代化が必要になる。もうほとんど路線を再構築するレベルかもしれない。韓国側から支援したくても、「国際制裁状態では釘1本すら送れない」(中央日報)という。

遠い未来としても望むべき状態に向けて会談が始まり、調査も始まった。これは喜ばしいし、期待したい。鉄道と、鉄道がもたらす恩恵が北朝鮮とその周辺国家を豊かにし、平和と民主化へ導く。北朝鮮がその恩恵に気づいて、鉄道連結と制裁解除の手続きを推進してくれることを願う。鉄道の旅でも観光でも、人の交流があれば平和に近づく。スポーツ、鉄道、アニメやゲームなど、共通の話題で友人ができる。そんな小さな平和の積み重ねが、世界の平和につながると信じたい。