本州の岡山県、四国の香川県を結ぶ瀬戸大橋が開通30周年を迎えた。鉄道道路併用橋とあって、鉄道側と道路側で式典や記念行事が開催され、多くのメディアが報じた。

瀬戸大橋の開通は1988年4月10日。その約1カ月前、3月13日に青函トンネルも開通している。この2つのプロジェクトの完成で、北海道・本州・四国・九州の線路がつながった。このとき、JRがダイヤ改正でアピールしたキャッチフレーズは「レールが結ぶ、一本列島。」だった。当時、広告業界に関心を持っていた筆者は、「いいコピーだなあ」と感心した。同時に、とうとう宇高連絡船に乗れなかったとがっかりもした。

  • 開通30周年を迎えた瀬戸大橋(写真はイメージ)

瀬戸大橋の開通前、鉄道で四国に向かうためには宇高連絡船と仁堀連絡船を経由した。宇高連絡船は岡山県の宇野駅と、香川県の高松駅を結んだ。2つの駅の1文字目を取って「宇高連絡船」だった。仁堀連絡船は広島駅の仁方駅近くの仁方港、愛媛県の堀江駅近くにあった堀江港を発着した。どちらも青函連絡船と同じ鉄道連絡船だった。鉄道扱いの航路だから、乗船には国鉄の乗車券が必要で、もちろん「青春18きっぷ」でも乗れた。

仁堀連絡船は赤字のため1982年に廃止され、宇高連絡船は瀬戸大橋開業時に一部を除いて廃止された。東京駅からの寝台特急「瀬戸」は、宇高連絡船時代に宇野駅発着で連絡船に接続していた。瀬戸大橋線の開業後は瀬戸大橋を渡って高松駅発着となり、現在の「サンライズ瀬戸」となった。岡山駅から四国各方面へ特急列車が運行され、松山方面が「しおかぜ」、高知方面が「南風」、高松・徳島方面が「うずしお」となった。

廃止された宇高連絡船を補完する意味で、普通乗車券で利用できる快速「マリンライナー」も設定された。2003年からJR四国の5000系、JR西日本の223系5000番台が導入されている。高松方先頭車は2階建て車両で、2階はグリーン車。運転席付近に展望席が設けられている。この展望席に乗ると、瀬戸大橋の構造がよくわかり、興味深い。複線の線路が橋の中央部に設置され、両側が空いている様子がわかる。

じつはこの空間も合わせて、瀬戸大橋には複線を2つ、計4本の線路を敷設できる構造になっている。もったいないことに、開通から30年間ずっと使われなかった設備だ。何のためかといえば、四国横断新幹線用に確保されている。もともと東側に在来線用の複線を敷き、西側に新幹線規格の複線を敷く予定だった。「四国横断新幹線が開通するまで、在来線が片側ばかり使ってはよろしくない」という理由で、暫定的に中央の2本を在来線の複線として使用している。

四国横断新幹線は岡山から高松市に至るルートとして、1973年に基本計画が策定され、瀬戸大橋はその計画に沿って新幹線規格に対応した。しかし新幹線の建設については、国が整備計画を策定して整備新幹線に格上げし、国・地方自治体・JRの合意と財源の確保、環境事前影響評価などの手続きなどが必要となる。四国横断新幹線はまだ整備新幹線に格上げされていない。30年間も瀬戸大橋には線路用地が空いたままだ。もったいない。

同様に"もったいない橋"がもうひとつある。兵庫県の淡路島と徳島県の鳴門町を結ぶ大鳴門橋だ。こちらは瀬戸大橋より3年も早く、1985年6月に開通した。瀬戸大橋と同様、上階が高速道路用、下階が鉄道用になっている。道路部分だけ開通し、鉄道部分は33年間も使われていない。この鉄道部分は四国新幹線用に確保された設備だった。

  • 大鳴門橋。線路になるはずの一部分は遊歩道と展望台に転用されている

四国新幹線も四国横断新幹線と同様に基本計画に入っている。起点は大阪で、徳島・高松・松山を経由して、さらに海を渡って大分市に至る。こちらも整備新幹線にはなっていない。しかも、淡路島と本州を結ぶ明石海峡大橋は道路専用の橋になってしまった。四国新幹線の着手にめどが立たず、建設費を節約するためであった。四国新幹線は、近畿圏と結ぶハシゴを外された形となってしまった。このままでは大鳴門橋の鉄道部分は永遠に使われないかもしれない。

ただし、四国新幹線には新たな動きがある。2017年7月に「四国新幹線整備促進期成会」が結成された。四国各県や経済界などと連携した組織で、東京で四国選出国会議員など約600名による決起集会が開催され、与党幹事長など政府関係者に要望活動を行った。北陸新幹線や北海道新幹線が開業し、長崎新幹線(九州新幹線西九州ルート)も着工される中で、四国が取り残された格好になっているという背景もあるようだ。

この動きの基盤にある新幹線整備構想は、岡山から新幹線を分岐し、瀬戸大橋を経由して四国4県を結ぶ。新大阪と松山の所要時間は1時間38分となり、現在の3時間半より112分の短縮、新大阪と高知は1時間31分で104分の短縮。徳島は1時間35分で78分の短縮、高松は1時間15分で29分の短縮となる。概算事業費は1.57兆円、経済波及効果は年間169億円、費用便益比は1.03となる。費用便益比は1以上で「妥当」と評価される。

対岸の大分県も独自調査結果を実施し、2018年4月3日に「豊予海峡トンネルを新幹線の単線で建設した場合にもっとも費用対効果が高い」と発表した。これは四国新幹線の基本計画と合致する。大分県にとっては、四国新幹線が整備された場合、関門海峡経由より豊予海峡経由のほうが、近畿経済圏からの所要時間が短くなる。

四国新幹線整備促進期成会は瀬戸大橋を基軸とする。明石海峡大橋を鉄道が通れないという実情に即した内容となっている。このままでは大鳴門橋の鉄道設備は取り残される。しかし、こちらにも未来に向けた計画として、紀淡海峡トンネル構想がある。和歌山県和歌山市の加太港と、兵庫県洲本市の由良港を結ぶルートで、現在の和歌山県と徳島県は南海フェリーで結ばれているけれども、紀淡海峡トンネルと大鳴門橋を結べば新たな鉄道ルートになる。

こちらは費用対効果の点で課題が多く、実現までの道のりは遠そうだ。ただし、新幹線にこだわらなければ、実現の可能性は高くなるかもしれない。加太までは南海電鉄が通じていて、在来線の高規格線路で敷設するという構想もあるようだ。関西空港線のように、阪和線を分岐延伸して、南海電鉄と共用してもいいと思う。在来線規格で敷設すれば、四国側も既存の駅に乗り入れられるから、新幹線ほどの大規模な投資にならない。

南海電鉄、阪和線といえば、難波と北梅田、新大阪を結ぶ「なにわ筋線」が実現の見通しとなった。2037年にはリニア中央新幹線も大阪に到達する。近畿と四国を強く結びつけるため、せっかく作った鉄道橋が活用されることを期待したい。

※写真はイメージ。本文とは関係ありません。