ビジネスシーンにおいて幾度となく遭遇するであろうプレゼンテーションの機会。自身が狙ったミッションを達成するにはプレゼンの提案内容をわかりやすく相手に理解してもらう必要があるが、その際に不可欠となるのがパワーポイントのスキル。資料の見せ方を工夫すれば相手の理解度は増し、それだけ提案した内容を受け入れてもらいやすくなる。

かつてマイクロソフトでパワーポイントの事業責任者を務めた経歴を持つクロスリバーの代表取締役・越川慎司氏は現在、クライアント企業の働き方改革を支援しており、先般、企業の意思決定者へのヒアリングやAIによる資料分析をまとめた新著『科学的に正しいずるい資料作成術』(かんき出版)を上梓した。

本特集では、「パワーポイントのプロ」が5万枚以上のパワポ資料をAI分析して導き出した「必勝の資料作成術」をテーマごとに紹介していく。今回のテーマは「カラー」だ。

  • ブラックの背景色に白抜きで文字を入れることで、スライドのインパクトが強まる(出典:『科学的に正しいずるい資料作成術』/かんき出版)

    真っ黒な背景に白抜き文字で、一部をアクセントカラーの文字にすると相手の印象に残りやすい(出典:『科学的に正しいずるい資料作成術』/かんき出版)

色が少ないほうが目に優しい

――パワーポイントのスライドにはいろいろなカラーを使うことができます。色については、どのようなことを意識すべきでしょうか。

色を使う際、真っ赤などのようにどうしても彩度の高いものを選びがちです。重要な部分を赤字にしたり、下線を引いたりすることはよくあるかと思いますが、実はあまり効果的ではありません。色については、「彩度を落として使用してください」ということをお伝えしています。

パッと見たときに高彩度の色がプレゼン用の資料に入っていると、彩度の高い色に視覚が持っていかれてしまって、伝えたい部分が相手の頭に残りません。ベースカラーのインパクトが強かったり、資料内に赤字やアイコンなどが使われていたりすると、そこばかりが印象に残ってしまうんですね。

――色ばかりにプレゼンされる側の意識が向かってしまい、肝心要のプレゼン内容に関する部分が記憶に残りにくいということですね。

ええ、そうなんです。実際、高彩度のカラーが使われていたあるスライドについて、どこに意識が向かったかをヒアリングしたところ、「印象に残っているのは色だった」と回答した人が6割ほどにもなりました。そのほか、タイトルに目をやった人は1割程度で、あとはアイコンや写真でした。

そのスライドは文字量や写真、アイコンなども多用されてしまっているものだったということもありますが、スライド内で最も覚えておいてほしい2行ほどのテキストについては、ほとんど人の記憶に残っていないという状態だったのです。

「四角で囲めば読んでくれるんじゃないか」「下線を引いておけば覚えてくれているんじゃないか」などの資料の作成側が抱く妄想が、相手に伝わっていないんですよね。重要なポイントにまず目が行くように作成し、興味を持てばそこから下に視線は下がっていきます。「次にここを読ませて、最終的には補足資料をめくらせる」――。そういう目の動きを意識した選択をすることが大切です。

――それほど色のインパクトというのは大きなものなんですね。使う色の数はどのくらいにするのがよいのでしょうか。

相手に伝わることが重要なので、色を分けたほうが伝わりやすいのは間違いありません。目立たせたい所は色を変えたほうがよいと思います。色が少ないほど目に優しく疲れにくいので、3つのカラーを分けて使うのが望ましいですね。

その3つのカラーとは、文字の色と図形などに入れるベースカラー、さらに目立たせたい部分のアクセントカラーです。最低限この3つのカラーは、あったほうが効果的です。4色以上だと、目の誘導ができないということが826名の意思決定者を対象にしたヒアリングでわかっています。そのため、3色がベストですね。コーポレートカラーがある場合はその色を基準に、あとは商品の提案であればその商品をイメージさせるような色から選んでいくとよいでしょう。

――推奨されている文字の色はあるのでしょうか。

黒ではなく、限りなく黒に近いダークグレーを使うといいですね。真っ黒だとスクリーンへ投影した際に目がチカチカして見づらい場合があります。ダークグレーだと、印刷した際も投影などの場合も目に優しくて疲れにくいんです。ぜひダークグレーを使ってみてください。

印象に残る文字の色は白

――色でインパクトを持たせたい場合、どのような方法が考えられるでしょうか。

実は、印象に残る文字の色は赤でも黄色ではなく、白なんです。白抜き文字が一番頭に残ります。テレビ番組に出るテロップも、白抜き文字が非常に多くなりました。白抜き文字が最も視認率が高く、頭に残りやすいことがわかってきたことが理由です。

そう考えると、白抜き文字を生かすために、背景色はダークブルーなど暗い色のほうがよいですね。ただ、圧倒的にインパクトが強い背景色は、ブラックなんです。真っ黒な背景に白抜き文字で、一部をアクセントカラーの文字にすると、パッと頭に入ります。10秒間見てから離れると、文字の情報だけが残っているんですね。そう考えると、ベースカラーは明るい色よりも暗い色を選んだほうがよいと思います。

越川慎司

国内大手通信、外資系通信に勤務、ITベンチャーを経て、2005年にマイクロソフト米国本社に入社。のちに日本マイクロソフトで業務執行役員を務め、2017年にクロスリバーを設立。529社の働き方改革を支援し、現在は週休3日で16万人の働き方をスイッチしている。