ビジネスシーンにおいて幾度となく遭遇するであろうプレゼンテーションの機会。自身が狙ったミッションを達成するにはプレゼンの提案内容をわかりやすく相手に理解してもらう必要があるが、その際に不可欠となるのがパワーポイントのスキル。資料の見せ方を工夫すれば相手の理解度は増し、それだけ提案した内容を受け入れてもらいやすくなる。

かつてマイクロソフトでパワーポイントの事業責任者を務めた経歴を持つクロスリバーの代表取締役・越川慎司氏は現在、クライアント企業の働き方改革を支援しており、先般、企業の意思決定者へのヒアリングやAIによる資料分析をまとめた新著『科学的に正しいずるい資料作成術』(かんき出版)を上梓した。

本特集では、「パワーポイントのプロ」が5万枚以上のパワポ資料をAI分析して導き出した「必勝の資料作成術」をテーマごとに紹介していく。初回のテーマは「文字」だ。

  • クロスリバーの代表取締役・越川慎司氏

    クロスリバーの代表取締役・越川慎司氏

実際に人を動かした資料を書籍にまとめた

――資料作成術の本を書こうと思ったきっかけは、どのようなことだったんでしょうか。

もともとパワーポイントの責任者でしたので、どうやって活用されているか実情を知りたかったんです。あと、私自身にも責任があると感じていたんですね。というのも、長時間労働を是正しなければいかない中で、残念ながらパワーポイントやエクセル、ワードがむしろ長時間労働を生んでいるという実情があります。どうやったら効率と効果を高められるか、実証実験と行動実験によってビジネスパーソンの無駄な時間を省きたかったというのが狙いです。

――具体的にどのように「データ」を蓄積されたのでしょうか。

弊社が抱える16万3,000ものクライアント企業および弊社主催のパワーポイント講座を受けた1万2,000人に協力してもらい、パワーポイント資料を5万枚集めました。それとは別に826人の意思決定者へのヒアリングも実践し、集めた資料を「人を動かした成功資料」と「人を動かすことができなかった失敗資料」に分けました。そのうえで、成功資料を4社のAIで分析し、法則を導き出しました。

そこで得られた法則によって「実際に提案成約率が上がるのか」「作業時間が短くなるのか」を見極めるべく、約4,500人に2カ月間にわたり実証実験しました。その結果、94%の人に効果が見られたので一定以上の再現性があると考えております。

――94%はかなり高い数字ですね!

ええ。「伝える資料」ではなく、「伝わる資料」にしたことが成功の秘訣です。例えば、1スライドの文字量が多いと相手が読めずに興味が失せることから、1スライド105文字以内にすると視認性と腹落ち感を高めることがわかっています。

情報量を少なくして重要な点に絞る

――「1スライド105文字以内」となると内容もシンプルにわかりやすくする努力が必要になりますね。なぜ、105文字なんでしょうか。

資料を作るにあたって、まず目的を明確にしなければいけません。その目的は「資料を作ること」ではなくて「相手を思い通りに動かすこと」なのです。そのためにはどうすればいいか。実際に全国826名の意思決定者にヒアリングをかけたところ、人を動かす資料にするためには「脳を疲れさせない」ということがポイントになることがわかりました。

7割以上の方が資料がわかりやすいかどうかを最初の10秒間で判断されています。そのため、情報量を少なくして重要な点に絞ることが求められます。そこから導きだしたのが、最大105文字なんですね。パソコンなら1画面、スマホならば3スクロールくらいです。

――読む相手の脳の動きを意識した資料作りが必要ということですね。使用するフォントなどもお勧めはあるのでしょうか。

私たちを情報を収集する際、その約7割を「目」から得ています。そのため、プレゼンの資料には「目を疲れさせない文字」が求められます。

フォントで言えば、日本語はMeiryo UI、英字はSegoe UIを推奨していますね。文字の視認率として、これが良いと指摘されたものがこのフォントです。Macならばヒラギノ角ゴシックです。これらのフォントが人が動きやすいフォントです。

フォントのサイズも、クライアント向けであれば24ポイント以上とお伝えしています。これも4,500人の実証実験で効果が得られています。一方で社内向けの資料の場合は、記録に残すことや網羅性も重要になるため18ポイント以上をお勧めしています。

戦略やストーリーを作ったうえで清書

――スライドに文字を入れていく際、やってはいけないNG行為はあるのでしょうか?

「頭の中の台本をプレゼンの資料に落とさない」ということですね。説明する内容をすべて資料にしてしまうと、ただ資料を読めばいいだけになってしまいますし、逆にクライアントや上司らに対して「この資料を読め」と負担をかけることになり、失礼にあたります。自分でしゃべる台本は頭の中に入れ、提案される側の脳に刻み込んでおきたい重要な部分だけを資料にするようにしましょう。

――提案する相手のことをきちんと把握したうえで資料を作成するのが大事だということですね。

そうですね。いきなりパソコンを立ち上げて資料作成するのではなく、「この人はこうやったら契約をもらえるのではないか」「この人の属性は何なのか」などと、戦略やストーリーを作ったうえで、清書をパワーポイントにするようにしないと、すごく膨大な作成時間になってしまいます。頭の中にあるものをすべて入れてしまう「伝える資料」を作るのはとても楽ですが、「伝わる資料」にするためには、しゃべる内容は資料に入れないことが大切なのです。

越川慎司

国内大手通信、外資系通信に勤務、ITベンチャーを経て、2005年にマイクロソフト米国本社に入社。のちに日本マイクロソフトで業務執行役員を務め、2017年にクロスリバーを設立。529社の働き方改革を支援し、現在は週休3日で16万人の働き方をスイッチしている。