ビジネスシーンにおいて幾度となく遭遇するであろうプレゼンテーションの機会。自身が狙ったミッションを達成するにはプレゼンの提案内容をわかりやすく相手に理解してもらう必要があるが、その際に不可欠となるのがパワーポイントのスキル。資料の見せ方を工夫すれば相手の理解度は増し、それだけ提案した内容を受け入れてもらいやすくなる。

かつてマイクロソフトでパワーポイントの事業責任者を務めた経歴を持つクロスリバーの代表取締役・越川慎司氏は現在、クライアント企業の働き方改革を支援しており、先般、企業の意思決定者へのヒアリングやAIによる資料分析をまとめた新著『科学的に正しいずるい資料作成術』(かんき出版)を上梓した。

本特集では、「パワーポイントのプロ」が5万枚以上のパワポ資料をAI分析して導き出した「必勝の資料作成術」をテーマごとに紹介していく。今回のテーマは「画像」だ。

  • 画像を使って感性に訴えよう(出典:『科学的に正しいずるい資料作成術』/かんき出版)

画像は5スライドに1枚くらいの頻度で

――パワーポイントのスライドには写真やイラスト、アイコンなどを入れられますが、こういった装飾はどのような意図で使うのがよいでしょうか。

目線を誘導するには、色よりもアイコンのような装飾のほうが効果があります。人は画像やアイコンがあると、それがどの文字に対応しているのかを探します。そのため、目にとまりやすいのです。

ただ、アイコンなどがたくさんあると、どのアイコンがどの文字を示しているのかがわらなくなってしまいます。多くのスライドで4つ以上のアイコンが使われているケースがありましたが、パッと見で理解できるようなものにするためには、最大で3つまでに抑えたほうが目線を誘導しやすいのです。

また、文字で説明するよりは、画像があったほうがわかりやすい場合もあります。プレゼンでの説明が長くなると集中力も途切れますので、スライド5枚に1枚くらいの頻度で画像を入れるとわかりやすくなります。「伝えたいことが伝わる画像がまずあって、その後に文字を入れる」という作業になります。

AIによって分析してみたところ、画像が入った資料は入っていない資料よりも3倍以上も「人を動かす」ことに成功していたのです。ただし、画像ばかりの資料と適度に画像が入った資料だと、適度に画像が入った資料のほうが契約をもらえていたことから、単に多く使えばいいというわけでもないようです。

経営者には画像が特に効果的?

――プレゼンを提案する相手によって、画像の掲出頻度は変えた方がいいのでしょうか。

経営者は感情で物事を決める傾向があるのですが、そういう方々は画像や動画に大きなインパクトを持つことが多かったですね。なので、スライド3~4枚に1枚くらいの頻度で画像を入れた資料が効果がありました。その他の方々は飽きないように5枚に1枚くらい画像を入れておくとよいでしょう。動画や画像をそれくらいの頻度で入れておくと効果が高いということが、826人の意思決定者へのヒアリングおよび4,500人以上への実証実験でわかっています。

――経営者の方には画像が効果的というのは面白いですね。

ヒアリングの中でとてもよくわかったのは、投資対効果などの論理やロジックよりも、ほとんど感情や感覚で決めてしまう経営者が非常に多いことでした。そのような人の感情や感覚を動かすためにはどうすればいいかを考えると、文字いっぱいに「投資対効果が何%」などと示すよりも、「あなたの会社が儲かるためには●●が必要です」というイメージを頭に思い込ませることです。そのためには、文字よりも画像や動画のほうが効果的でしたね。

――画像とは別に動画も資料に入れられると思いますが、資料に動画を入れるとどのような効果が見込めるのでしょうか。

動画は五感が刺激されて印象に残りやすいです。人は情報を得る際、その約7割を視覚から、約2割を聴覚から得ていると言われています。動画は視覚と聴覚の両方を刺激するので、何日たっても記憶に残ります。動画が最も聞き手の脳に残りやすいので、記憶に残したい部分で活用するといった戦略を立てるのもいいでしょう。

ただし、多数の動画を使ったプレゼンは、動画自体は覚えていても「中身はなんだっけ?」となるケースが結構多かったんですね。インパクトが大きすぎるので、動画は1本に絞ったほうがよいですね。説明資料の中で最も記憶に残りやすいのは2枚目のスライドと最後のスライドなんですが、その前後に動画を入れるとより聞く側の頭に入りやすいでしょう。

――その他にも、意識を持ってこさせるために有用なテクニックはありますか?

バイアスという心のかたよりをうまく使ったものに「ツァイガルニク効果」というものがあります。CMなどで「続きはウェブで」というものをご覧になったことがあるかと思いますが、それがまさに「ツァイガルニク効果」です。

「たくさんの文字やグラフなどをすべてを目にしてほしい」とプレゼンする側は思うかもしれませんが、それらの情報をすべてスライドに詰め込んでも聞く側の頭には入りきりません。__そのような際は情報を絞り、アイコンなどで視覚誘導をして、「続きは補足資料へ」とつなぐと、時間があるときに読んでもらえます。このように設計したあるスライドでは、78%の人が補足資料に目を通してもらえていました。

既にこまかな数字などを綿密に書き出したスライドを作ってしまっている場合、その中から重要なポイントだけ抜き出してもう1枚のスライドを作成し、「詳しくはこちらへ」からオリジナルの詳細な資料へと誘導すると効率的かつ効果的です。その構成にしたほうが、実際に成約率も上がっています。このようなバイアスを使ったテクニックは効果が高いですね。

越川慎司

国内大手通信、外資系通信に勤務、ITベンチャーを経て、2005年にマイクロソフト米国本社に入社。のちに日本マイクロソフトで業務執行役員を務め、2017年にクロスリバーを設立。529社の働き方改革を支援し、現在は週休3日で16万人の働き方をスイッチしている。