走行中の列車全体を、順光で、顔と側面がおよそ7:3になるように鮮明に撮る「編成写真」は、すべての鉄道撮影の基本になる。直線、カーブ、あおり、俯瞰などいくつかのスタイルがあり、技術も奥深いものがあるが、まずは"超基本"となる直線区間での撮影について、真島満秀写真事務所所属のフォトグラファー・助川康史さんにうかがった。

撮影地選びから撮影は始まっている

「編成写真を撮りたい! 」と思ったら、最初に何をしたらいいのだろうか。助川さんに聞くと、ロケハンの話から始まった。「まず、撮りたい列車が通過する時間帯に順光で日の当たる区間はどこなのか考え、撮影地を絞っていきます。出かける前に、地図からの情報や方角を頼りに考えていくのです。下の写真の場合は苫小牧の近くで、日本標準時の明石からはかなり東ですから、太陽の南中時刻に20分ほどの"時差"があるということまで考えています」。太陽が南中する正しい時刻を知るために助川さんが利用しているのが「国立天文台」のモバイルサイト。全国主要地点の日の出、日の入り、日南中時などを知ることができる。

北海道の室蘭本線を走る寝台特急カシオペア。通常は機関車の直後にロビーカーが付くが、写真は代わりに電源車が付いた珍しい姿

カメラを構える前に、このように"考える"段階からもう撮影は始まっているといえる。それでも、実際の光の状態は行ってみなければわからないので、できれば前日に下見をするのが理想的とのこと。そして、あらかじめ決めておいた区間に到着した後は、線路沿いを移動しながら、背景に家などが入らないところを探していくのだという。しかし、仮に建物等があったとしても、列車で隠れたり、撮影時に自分がしゃがんで隠れるのであれば問題にはならないのだそう。

こうして撮影地が決まったら、いよいよ三脚を立て、構図を決めていく。上で掲載したカシオペアの写真は、135mm(35mm判フイルムカメラ)を選んだとのこと。「7、8両を越えるような長編成が寸詰まりにならないのは、このくらいの中望遠です」。

構図といえば、皆さんは電化路線の線路際には必ずあるポールが気になってくるのではないだろうか。これをどう処理すればいいのか聞いてみると、「列車の進行方向側に(上の写真の場合は右側)、程よい空間をつくることです。ここにポールが入ると、写真に伸びやかさがなくなってしまいます」とスラスラと答えてくれた。これはよい編成写真のお約束なのだろう。

シャッタースピードは1/500より速く

構図が決まったら、次はシャッタースピードだ。その決め方について、助川さんは次のように語る。「列車の速度と、レンズの長さ(焦点距離)から考えます。例えば100km/hで走る列車は、1000分の1秒で約3cm進みます。自分が決めた構図の中で、列車の動きが何cm分なら"流れて見えない"かは、レンズの長さによって違ってきますよね」。流れて見えないとは、"止まって見える"ということ。速く走っているものを"止める"シャッタースピードを考える必要があると助川さんは言っているのだ。

う~ん、なんだか難しい話になってきた。初心者でも撮りやすいよう、カメラまかせにする方法はないだろうか。助川さんは「鉄道写真は、マニュアルじゃないと」と、苦笑しながらも、「カメラに頼りたければ、"シャッタースピード優先オート"で、1/500よりも速いシャッタースピードを、コンパクトデジカメの場合は"スポーツモード"を選んで下さいね」と、ニッコリ。

撮影地選び1つとっても時間をかけて考え、探して、また考える。しかし、撮影はほんの一瞬。今回の取材で、「それがプロの時間の使い方なのだ」と痛感したのだった。

編成写真、構図の失敗例
筆者撮影。列車そのものはきれいに収まっているが、ポールが邪魔。列車の全容を写して満足するだけでなく、走っている列車の伸びやかさを写し込むことにもこだわりたい。