この前、とある仕事で、『王家の紋章』の面白さについて、女たちは「世界を女が回してるって感じで快感!」と思っている、と男性ライターが書いてきた。はい、それ全然違いますから。権力のある男に好かれて、自分のせいで戦争が起こったり国が滅びたりするのは、女にとって極上の萌えだ。だけどその理由は、「世界を自分が回してる」からではない。それってすごく男目線なのである。

細かく説明をしない限り勝手にそういう発想になるということは、男には世界征服願望があるということだ。まあ確かにアレキサンダー大王だのチンギスハーンだの織田信長だのは、全員男だ。マリー・アントワネットは調子に乗って贅沢しまくったけど、世界征服は企まなかった。その母マリア・テレジアも、子どもたちを次々と外国の宮廷に送り込んだけど、自分自身が乗り込んでいって征服しようとは考えなかった。エカテリーナ2世は微妙だけど、愛人が軍人だったから本意はどうだか。

『DEATH NOTE』は、主人公ライトが、「オレは神になる」とかなんとか言い出す話だった。『神様はじめました』は、そのライトがとうとう神になった話……ではなく、一介の女子高校生が、神様になる話である。で、世界征服を狙うかというとそんなことはない。よって少女漫画における「神」は、とってもいい人扱いである。そういえば『銀の鬼』の主人公・ふぶきも、途中から突然神様称号を与えられているけど、少女漫画の神様肩書きって、主人公の処女性とか清廉潔白なことの証明的設定として使われるのだ。

巴衛は、ミカゲという自分の敬愛する土地神がいなくなって20年、廃神社になってしまった神社で、彼の帰りを待っていた。そしたら、そのミカゲから神跡を受けた少女・奈々生がやってきて、神様と神使という間柄になり、愉快に暮らしていくという話である。これがメチャクチャ面白い。

この漫画には、少女漫画の王道スパイスがドバドバとかけられている。まずは、土地神と神使の契約方法は「口づけ」なのである。つまり、奈々生と巴衛がキスをすれば、ふたりの間に土地神と神使の契約ができ、奈々生は巴衛を使役することができるようになるというのだ。「ああ、いつどうやってふたりはするんだろう」というワクワクで読者は大喜び。しかも何度か神使の再契約したりして、読者大サービスである。

そして神使の契約を結ぶと、神には絶対に逆らえない。乱暴者だったり、力があったりするものを、言葉ひとつで大人しくさせてしまうことができるというのは結構、女の小さな支配欲を刺激するらしい。

『王家の紋章』とか『銀の鬼』『花より男子』でも、乱暴者の男を、神の力やら変わり者のカリスマ性で大人しくさせている。『犬夜叉』でもかごめによる言霊縛り的な設定があった。『神様はじめました』では、神使の契約により、巴衛は奈々生の命令には大人しく従っちゃうのだ。ここらへんも読者は大喜びの運びである。

そして巴衛は毎日、奈々生のご飯を作ってくれて、掃除をしてくれて、そして命の危険があるときには鋭い爪と妖術で助けてくれる。現代版・少女漫画版のドラえもんである。耳はついてるけど。いや、ものが妖怪なだけであって、要は執事なのだ。そしてそういう男が似合う動物といったら断然、犬なのである。

犬とはどんな動物か。ご主人様には絶対服従で、恩を忘れず、危険にあったら命を助けてくれたり、介助してくれたりする(まあ、そうじゃないのもいるが……)。女は正にそういう男が欲しいのだ。

萌え対象キャラが犬系の設定というのは、「強いんだけど自分には優しくて従順な男がいいよう」という女の魂の叫びなのである。男性からは総スカンでしょうが。
<つづく>