• 体操しようよ

――劇中の設定は初期の段階から決まっていたんですね。

だいたいそうですね。なんとか初稿が上がりましたが、そこからはやっぱり「映画化実現」の壁が大きく立ちはだかりました。これまでご一緒した映画業界の人達に読んで貰ったのですが、「オリジナルだよね……?」と難色を示す人がほとんどで。原作がない場合は、主演を誰が務めるのかによって、そのあたりの反応は変わってきます。さて、どうしよう……そう思っていた頃に放送されていたのが『真田丸』でした。再ブレイクした草刈(正雄)さんは一躍時の人になって、ドラマ自体もすばらしいものでした。「出てくれないかな」とは思っても、きっと大手が動いているに違いない。ただ『体脂肪計タニタの社員食堂』の社長役で出てもらった縁があるので、『真田丸』が終わった頃に台本をお渡ししました。

――まさかの縁!

返事も早かったですよ。翌日にマネージャーさんからご連絡いただいて、「草刈が読んで、面白いと言っています」と。草刈さんは脚本を一番大切にする方なので、そうやって評価をしていただけたことが「これはいけるかもしれない!」という自信にも繋がりました。中身をもっと面白くしたいと思って、共同脚本で和田清人さんに入ってもらってブラッシュアップしていたので、そのおかげでもありました。それから去年の夏頃から菊地健雄監督、プロダクションのポリゴンマジック、配給の東急レクリエーションという具体的な部分が決まっていきました。

  • 体操しようよ
  • 体操しようよ

――草刈さんの存在は大きいですね。どのあたりが気に入られたんですか?

草刈さんは超二枚目で「永遠のハンサム」。かっこいい役をたくさんやってこられた方で、最近はコミカルな役もありますが、今回の「道太郎」という役はパッとしないというか、どちらかというと不器用で平凡な男。そういう役が珍しいから、やってみたいと思ってくださったんじゃないかなと。監督と草刈さんのかっこよさをどう崩していくか話し合いました。冴えない男・道太郎は物語を通して徐々に変わっていきます。「60を過ぎても変わることができる」ということが一人でも多くの人に伝わればいいなと思います。

名盤『PLEASE』への思い

――主題歌はRCサクセションの「体操しようよ」。映画のタイトルと全く同じですが、どちらが最初に決まったんですか?

僕は学生時代から清志郎さんの大ファンなんですが、当時から今でも清志郎さんの歌声が頭の中にずっとあって。ラジオ体操を題材にした映画を作ろうと思ったときに、当然この曲が浮かびましたがあくまで仮タイトルでした。定年後に新しい仲間ができていく話なので、「新しい友だち」「人生は60から」とかメモ帳にはたくさんタイトル案を書いていました。『南極料理人』もそうですが、やっぱり映画のタイトルってすごく重要なんですよね。『体操しようよ』からは父と娘のドラマ性は連想できないし……今でもこれでいいのかなという不安はあります(笑)。

  • 体操しようよ

――いえいえ(笑)。とても良いタイトルだと思います。RCサクセションの「体操しようよ」は、シングルカットされてない曲で、ライブでもあまり歌われなかった曲らしいですね。

そうですそうです。主題歌にするのか挿入歌にするのか、そのあたりのことは決めないまま、台本を書きながらこの曲を聴いていました。歌詞を読んでも、ラジオ体操のことを表現しているのか、全く分からないんですよね。でも、昔からこの曲が大好きで。アルバム『PLEASE』裏面の最後の曲で、その他にも「トランジスタ・ラジオ」とか名曲揃いなので、RCファンの間では『RHAPSODY』と並んで人気のアルバムだと思います。ただ「体操しようよ」はファンでもあまり知られてない曲じゃないでしょうか。

――いつごろ聴いてたんですか?

大学生の頃です。今でも35年前の思い出が蘇ってきます。

  • 春藤忠温

――まさかその曲を主題歌に映画を作ることになるなんて、当時の春藤青年は想像もしなかったでしょうね。

大学生の自分が知るとびっくりするでしょうね(笑)!

『ラストエンペラー』と『カメラを止めるな!』の興奮

――それでは最後に。あらためて、オリジナル脚本の『体操しようよ』は、なぜ映画化できたと思いますか?

映画化に重要なのは企画と脚本。そして、ビジネスの面で考えると、「どう宣伝できるか」も同じぐらい重要です。

今年の11月1日、ラジオ体操が制定90周年を迎えました。1928年にかんぽ生命の前身となる逓信省簡易保険局が放送を開始しました。90周年という節目はニュース性がありますし、「健康」や「定年後」に関係する企業から協賛してもらえるのではとか、そういった狙いもありました。実際、かんぽ生命さんが特別協賛、タニタさんと長谷工シニアホールディングスさんが協賛をしてくれています。2年前になぜ自分で脚本を書こうと決断したのか。そうしないと90周年記念の映画化に間に合わなくなるというのも、理由の1つでした。

体操しようよ

『カメラを止めるな!』は前代未聞でした。空前絶後というか、これからあんなことはもう二度とないかもしれません。狙ってできるようなことではありませんが、理想ではあると思います。『ラストエンペラー』が公開された初日、今はなくなりましたが新宿のミラノ座で周りを取り囲むぐらい行列ができていて、「映画ってすごい」と興奮したのを思い出します。その一方で、宣伝部ではお客さんが入らない映画がどれだけ悲しいことなのか、何度も経験してきています。出資者にも悪いし、劇場の売店の方だって寂しそうにしているわけですよ。だからこそ、一人でも多くのお客さんに見てもらいたいという気持ちは強い。芸術性も大事ですが「商業映画」ですから、自分の主張が形になればいいというものでは決してないんですよね。

『体操しようよ』は、最初に自分一人が思っていたよりも豊かで素晴らしい映画になったと思います。思いついたのは僕ですが、映画はやっぱり監督のものです。菊地監督が良い作品にしてくださいました。そして、草刈さんが主演を引き受けてくださったから、木村文乃さん、和久井映見さん、きたろうさん、渡辺大知さん、小松政夫さん……豪華キャストが集まってくださいました。映画って不思議ですよね。オリジナル作品なんて、もとは何もない。小さな種からたくさんの方の協力があって少しずつ大きくなり、こうして1つの作品にすることができました。

(C)2018『体操しようよ』製作委員会