覇者の称号を勝ち取れ

紀元前708年、古代オリンピックでは、あらゆる競技能力に秀でた競技者を決めるため、「五種競技」が考えられた。これは、陸上4種目とレスリングの合計5種目を行い、順位を競うというものである。この競技にちなんで近代オリンピックで行われているのは、男子の10種競技と女子の7種競技。

どちらも短距離、中・長距離、跳躍、投てきという陸上競技の全ての要素においてトップクラスの実力を持った選手同士が戦い、究極のオールラウンダーを決める。そのため、10種競技の勝者は「キング・オブ・アスリート」、7種競技の勝者は「クイーン・オブ・アスリート」と呼ばれる。

男子の10種競技と女子の7種競技は、ともに2日間かけて戦われる。競技日程は以下の通り。

■10種競技(男子)
・1日目:100m、走幅跳、砲丸投、走高跳、400m
・2日目:110mハードル、円盤投、棒高跳、やり投、1,500m
■7種競技(女子)
・1日目:100mハードル、走高跳、砲丸投、200m
・2日目:走幅跳、やり投、800m

短距離、中・長距離、跳躍、投てきという陸上競技の全ての要素が入るが、それぞれに使う筋肉やトレーニング方法が異なり、種目によっては相反する身体能力が必要となるため、全てにおいてトップの成績を収めるのは至難の業だ。

そもそも2日間にわたって最高のパフォーマンスを維持することは難しい。そこで、選手は自分の得手不得手に応じて、投てきの試技の回数を少なめにして次の種目に集中したり、不得手な種目で力を抑えて体力を温存したりするなど、戦略的に競技を進めていく。

最も注目すべきは、最後に行われる中・長距離。10種競技の1,500m、7種競技の800mだ。最終順位が決まるというだけでなく、2日間の過酷な戦いのフィナーレを飾る種目になるからである。

2日間、厳しい戦いを繰り広げた選手たちの間には、いつのまにかライバルを超えた連帯感が生まれる。そのため最終レースのフィニッシュでは、選手同士で手をつないだり、笑顔で抱き合ったり、肩を組んでウイニングランをしたりと、感動的なシーンが見られる。

勝者も敗者もなくお互いに健闘を讃え合う選手たち。スタジアムの観客からは大きな拍手と歓声が沸き起こる。競技場全体が感動に包まれるのが、10種競技、7種競技のフィナーレなのだ。

イラスト:けん

出典:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会