東京2020オリンピック競技大会では、史上最多となる33競技339種目の開催が予定されている。本連載では、イラストを交えながら各競技の見どころとルールをご紹介。第1回目となる今回は「水泳」にフォーカスする。「競泳」「飛込」「水球」「アーティスティックスイミング」といった4つの種別を、以下にそれぞれ紹介していこう。

「競泳」 - 水の抵抗を極限まで減らす技術と加速のパワー

一定の距離を決められた泳法(自由形・背泳ぎ・バタフライ・平泳ぎ)で泳いでタイムを競う「競泳」。リオデジャネイロ2016大会では、個人種目とリレー種目を合わせ、男女で32種目が行われた。東京2020大会では、800m自由形(男子)、1500m自由形(女子)、4×100mメドレーリレー(混合)の3種目が新たに加わり、種目数は35となる。

それぞれの泳法はもちろん、スタートの飛び込みから水中動作、ターンに至る一連の加速、水の抵抗を極力受けないためのテクニックも重要である。

北京2008大会から正式種目に採用された「10kmマラソンスイミング」のみ、海や川、湖など、プール以外で競技が行われる(オープンウォータースイミングとも呼ばれる)。

タイムが拮抗する世界最高峰の舞台で戦う選手たちは、泳力、体力の向上に加え、キックのタイミング、腕の向きなどを微妙にチェックし、細かい技術を磨き上げる。さらに、どのようにペースを配分するかという戦術も注目のポイントとなる。

例えば、予選では前半から飛ばして圧倒的なタイムで決勝に進んだ選手が、決勝ではあえて前半はペースを抑えて余力を残しておき、後半にスパートをかけるなどの作戦も、見どころの一つとなる。

1人で4泳法を泳ぐ個人メドレーには、高い総合力が求められる。選手によって得意種目が異なるため、泳法が変わるたびに順位の変動が見られることもある。抜きつ抜かれつのスリリングなレース展開は見応え十分だ。個人メドレーは、バタフライ〜背泳ぎ〜平泳ぎ〜自由形の順番で泳ぐ。

リレー種目では、前の泳者がタッチする瞬間と、次の泳者の足がスタート台から離れるまでの「引き継ぎ」の時間をどう縮めるかが重要になる。メンバーの合計タイムが上位であっても引き継ぎ次第では順位を落とすことがあり、また、引き継ぎ時にフライングをしてチームが失格することもある。

メドレーリレーは個人メドレーとは異なり、背泳ぎ~平泳ぎ〜バタフライ〜自由形の順番で泳ぐ。各泳法のトップ選手らでチームが組まれ、オールスター対抗戦のような華やかな盛り上がりを見せるのもこの種目だ。

新種目の4×100mメドレーリレー(混合)は、男女2人ずつの4人でチームを組むが、どの泳法を男女どちらが泳ぐかはチームが自由に決められる。男子と女子が同時に泳ぐこともあり、大きな順位変動や逆転があり得る。

「飛込」 - 2秒の演技が起こす大逆転劇は、まばたきすら許されない

「飛込」では、ジュラルミンでできた3メートルの飛板を使い、反発力を利用して演技を行う「飛板飛込」と、10メートル高さの台から飛び込む「高飛込」の2種類が行われる。

演技は、踏切の方向と宙返りの方向、演技に捻りを加えたもの、逆立ちからスタートするものがある。採点は、伸型、蝦型(えびがた)、抱型という3種類の回転の型を組み合わせた演技の美しさや入水時の水しぶきの少なさなどを見る。これに加え、シンクロナイズドダイビングは、2人でどれだけ演技が同調(シンクロ)しているかも採点される。

飛込の魅力は、演技がスタートして2秒弱で勝負が決まる「一瞬の美」にある。5種類の踏切の方法と、前後の回転の方向に加えた捻りに、回転時の身体の形を組み合わせて演技を行い、その美しさとダイナミックさが採点される。入水時の水しぶきをどれだけ抑えられるかも採点基準のひとつだ。採点は10点満点からの減点法で行われる。

入水は見た目にも分かりやすい。オリンピックの決勝で戦う世界のトップ選手たちは、ほとんど水しぶきを上げない。特に、全くしぶきが上がらず、ぼこぼこと泡が水面に見えるだけの「リップ・クリーン・エントリー」と呼ばれる入水は美しく、最も得点が高い。

以前、3m飛板飛込では、踏切から入水までの回転が1回転半から2回転半が基本であった。近年では、飛板をしならせてその反発力を使って高く飛び上がることにより、3回転半から4回転半も回転するダイナミックな演技がメインになってきた。

近年の世界トップクラスの選手を見ると、力を発揮し始めているのは背が高く手足の長い選手である。特に男子は手足が長いと空中での回転が大きくなり、演技がダイナミックかつ美しく見えるのだ。

高飛込では台の反発力を得られないため、飛び上がることよりも、いかに入水までに素早く小さく回転することができるかがポイントになる。そのため、高飛込の上位には、背が小さく瞬発力の高い選手が多い。

飛板飛込、高飛込ともに男子は6回、女子は5回演技を行い、その合計点数を競う。最後の演技の直前までリードを許していたとしても、最後の演技で逆転することもできる、1試合の順位変動が激しい種目だ。

事実、北京2008大会の高飛込では、5本目まで地元中国の選手がリードしていたが、最後の6本目でオーストラリアの選手が逆転してオリンピック史に残る劇的な優勝を飾った。演技は一瞬で決まるのに対し、勝負は最後の最後まで分からない。そうしたスリリングな魅力が飛込には詰まっているのである。

「水球」 - 鋼の肉体がぶつかり合う水中の格闘技

水深2メートル以上のプール内につくられた縦30メートル横20メートルのコートで、2チームがボールをゴールに投げ入れ合って得点を競う水中の球技「水球」。

ゴールキーパーを含めた1チーム7人の選手たちは、試合中一度も底に脚をつけずにプレーする。攻撃開始から30秒以内にシュートまで持ち込まなければならないというルールがあり、それを過ぎると攻撃権は相手に移る。試合時間は4ピリオド制(1ピリオドは8分間)。プールで行われる唯一の球技種目だ。

1860年代のイギリスで「ボールを決められた水上のポイントまで運び合うゲーム」として始まり、そのあまりの荒々しさから危険を防ぐためにルールが制定され、スポーツとしての水球が確立したとされている。オリンピックでは、男子はパリ1900大会から、女子はシドニー2000大会から行われている。

鍛え上げられた大きな体がプール内を縦横無尽に行き交い、激しくぶつかり合う。審判から見えにくい水中では、相手をつかみ、蹴り上げるといったプレーも少なくない。ボールを持っていない選手に対してこれを行うとファウルになるが、ボールを持っている選手に対しては、荒々しいコンタクトが許されている。この激しさから「水中の格闘技」と称され、さらにスピーディーなゲーム性を兼ね備えたスポーツでもあり、ゴール前を固めるゾーンディフェンスや、素早いカウンターアタックなど多彩な戦術も魅力の一つだ。

ゴールキーパー以外の選手は、ボールを片手で扱うことが定められている。1チーム7人であることや、手を使ってボールをゴールに投げ入れること、選手交代の回数が自由であることから、ルールはハンドボールに似ているともいわれる。ゴール前、選手たちが軽々とボールを扱い、華麗なパスワークでディフェンスのフォーメーションを崩す場面などは、目を見張るものがある。

水球はファウルが多いことも特徴の一つで、それが得点を左右する重要なポイントにもなる。ファウルは、オーディナリーファウルとパーソナルファウルの2種類があり、前者は軽微な反則と見なされ攻撃権は移らない。一方、パーソナルファウルをした選手は自軍ゴール横にある「退水ゾーン」で20秒間の待機が命じられる。その場合は相手チームよりも1人少ない状態でのディフェンスを強いられるため、失点につながりやすい。

選手はプールの底に足をつけず、身体を水中で垂直に維持しながらプレーする。それを可能にするのが、巻き足と手の平の動作で生まれる「揚力」だ。相手のディフェンスを超えてシュートを打つときは、体をコントロールし、浮力をつくる「スカーリング技術」を合わせることで、瞬間的に上半身を思い切り高く水上に持ち上げる。

片手でボールをつかんだ状態でジャンプし、全身の力を利用して打つシュートは、男子では時速70キロメートル程度、女子は時速50キロメートルを超える。この豪快なシーンも水球の大きな見どころのひとつだ。

「アーティスティックスイミング」 - マーメイド達の一糸乱れぬ競演が、観客を虜にする

音楽に合わせてプールの中でさまざまな動き・演技を行い、技の完成度や同調性、演技構成、さらには芸術性や表現力を競う「アーティスティックスイミング」。オリンピックでは女子のみで実施される。2分20~50秒の曲に、決まった8つの動きを入れるテクニカルルーティンと、3〜4分の曲の中で自由に演技するフリールーティンが行われる。

美しい装飾を施した特殊な水着を着け、水に濡れても落ちないメイクを施し、水が鼻に入らないようにノーズクリップを着用(しなくてもよい)し、水の中で舞う選手たち。同調性、難易度、技術、そして演技構成などが採点され、順位が決まる。

アーティスティックスイミングがオリンピックで正式種目として採用されたのは、ロサンゼルス1984大会から。その30年あまりの歴史のなかで、幾度となく競技規則やルールの変更が行われてきた。

当初はソロ(1人)とデュエット(2人)の2種目が行われていたが、アトランタ1996大会では、チーム(8人)のみが行われた。その後、シドニー2000大会でデュエットが復活。それ以降はデュエットとチームの2種目が行われている。プールは水深3メートル、20メートル×25メートル以上という決まりがある。

採点は、1組5~7人の審判員が2組で行う。テクニカルルーティンでは、1組が完遂度を採点し、もう1組は構成、音楽の使い方、同調性、難易度、プレゼンテーションを採点する。主に規定の技の完遂度が高く、うまく同調しているかどうかが採点基準となる。

フリールーティンでは、1組が完遂度、同調性、難易度を採点し、もう1組は構成、音楽の解釈、同調性、プレゼンテーションを採点する。演技時間は長く構成は自由だが、そこには高い表現力と芸術性が必要となり、ある意味テクニカルルーティンよりも難しい。

テクニカルルーティンもフリールーティンも、それぞれの国・地域が思い思いのデザインの水着を身につけ、民族性に富んだ構成・音楽で演技をするため、チームごとに個性的な美しさがある。

選手たちは手で水をかき体の位置を保ったり推進力を得たりするスカーリングという技術と、それを脚で行うエッグビーターキック(巻き足)などの技術を駆使することによって、身体を水面から大きく出す演技を行う。その瞬間の力はかなり強く、腰まで水面に出すこともできる。また、水中で逆さまになって下半身だけを水面から出す演技も行う。脚技もアーティスティックスイミングでは非常に重要な技術だ。

顔が水中に沈んでいる時間が長く、もちろんその間は呼吸を行うことはできない。息を止めた状態で、ときには30秒以上の脚技を繰り出す選手もいる。

だが、技が激しいだけでは演技が雑に見えてしまい、減点対象になることもある。激しさのなかに、丁寧さや細やかな同調性が伴っていないと高得点を得ることが難しくなった。リフトのダイナミックさのみならず、指先、つま先まで意識を行き渡らせた繊細な演技と同調性こそが、今後のアーティスティックスイミングにおける重要な要素になっていくことだろう。

イラスト:けん

出典:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会