東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンス! そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「マラソン」。競技解説は井上穣さんです。

  • 「マラソン」の魅力とは?

マラソンの特徴

オリンピックの第1回アテネ大会(1896年)から公式種目として採用されたマラソン。そのルーツは紀元前450年にまで遡ります。「マラトンの戦い」に勝利したギリシャ軍の兵士が、ギリシャのアッティカ半島のマラトンからアテネまで走り、その勝利を伝えたことがマラソンの由来と言われています。

当初、オリンピックでのマラソンの距離は40km前後と曖昧でしたが、第4回ロンドンオリンピックの際に、イギリス王女アレキサンドラが「スタートを城の前、ゴールを競技場の目の前で見たい」と言ったことから、距離を調整して42.195kmとなった逸話はあまりにも有名です。

マラソンは42.195kmをいかに速く走るかを競うというシンプルな競技ではありますが、緻密なコースどり、相手との駆け引き、給水の正確さ、コンディショニング調整など勝利に関わる要素が多数あり、片ときも目が離せません。

マラソンを観戦するときのポイント

東京2020では、女子が8月2日、男子が8月9日と炎天下で行われます。過酷な暑さで体力が消耗する中、男女ともにケニア、エチオピアなどのアフリカ勢にどこまで食らいつけるかがポイント。日本人選手がホームの利を活かし、世界トップ選手たちのスピードの揺さぶりに動揺せず、食らいつけばメダルも狙えるでしょう。

前述したように、東京2020での最大の課題は"酷暑"対策。その暑さを考慮してマラソン開始時間が午前6時に変更されたものの、過去の大会と比べてもトップクラスの暑さになるのは必至。まさに「暑さを制するものはマラソンを制する」展開となりそうです。

また、過去3大会のメダリスト9人を見ると、男子では7人、女子では5人がアフリカ勢。そのレース展開の特徴はスピードと駆け引きです。レース序盤や終盤以外は一定ペースを保ちながら走るのがマラソンの通説ではありますが、近年のマラソンにおけるアフリカ勢のペースはそうとは言えません。1kmのペースが4~5秒も異なり、目まぐるしく先頭が入れ替わる激しいレース展開も見どころとなりそうです。

東京2020に向けてのチームジャパンの展望

日本人男子では、日本記録(2時間5分50秒)を持つ大迫傑選手が最有力。アメリカのナイキ・オレゴン・プロジェクトに練習拠点を移し、世界最高峰といわれるトレーニング環境に身を置くことでタイムを着々と縮めています。かかとから着地するヒールストライク走法が主流の中、大迫選手が磨いたのは、つま先から接地するフォアフット走法。もも裏のハムストリングスや大臀筋、腸腰筋が発達し、骨盤の前傾が無理なく保てる姿勢を獲得した彼の美しいフォームは、マラソンファンに限らず必見です。

また、16年ぶりに日本記録を更新(2時間6分11秒)した設楽悠太選手も有力。東京オリンピックを見据えた練習方法の変更で、今年7月に行われたゴールドコーストマラソンで優勝し、調子も上向きです。

日本女子マラソンにおいては、1992年のバルセロナオリンピックから4大会連続でメダルを獲得し、04年に野口みずき選手がアテネオリンピックで日本記録を樹立して以来、記録が更新されておらず、日本人選手の復調が期待されています。東京2020の日本代表を決めるマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)には8人が出場権を獲得していますが、突出した選手はいないため、誰がその権利を勝ち取るかのは最後までわかりません。MGCに出場する8人のうち、4人が愛知の高校出身者、3人が関西の高校出身者。愛知勢と関西勢の戦いとして代表選考会を観戦するのも楽しみの一つ。

東京2020のマラソンで最も注目すべき選手は、何と言っても、前回リオオリンピックの男子マラソン金メダリスト、エリウド・キプチョゲ選手です。2018年9月のベルリンマラソンで世界新記録となる2時間1分39秒をたたき出し、東京2020では史上初の2時間切りが見られるかもしれません。

遠山健太からの運動子育てアドバイス

昨今のランニングはブームではなく文化として根付いてきたと実感しています。我が家では長男が6歳のとき、地元で開催された親子マラソンイベント(4km)に参加しました。球技と比べて、長い距離をただ「走り続ける」という極めて単調なスポーツではありましたが、一緒に走ってゴールした瞬間の達成感はとても思い出深いものに! このようなイベントは年々増えていますので、家族の楽しみとして参加することもよいですし、お子さんと一緒に近所をジョギングすることからスタートするのもよいでしょう。将来、子どもがどのスポーツを選択するにせよ、マラソンで培われる全身持久力は必要になると思います。

競技解説:井上穣

adidas Functional Training教育トレーナー、JARTA認定トレーナー(SSrank)、ゼットSKLZスペシャリストトレーナー。周南市保育協会トレーニングアドバイザー。一般の方からプロ選手まで幅広く指導。Jリーガー、競艇、競輪、格闘技、陸上、ソフトボール、アメリカンフットボール。福岡リゾート&スポーツ専門学校非常勤講師。執筆記事は[こちら](http://free-trainer.net/)。

ナビゲーター:遠山 健太

リトルアスリートクラブ代表。トップアスリートのトレーニングに携わる一方で、ジュニアアスリートの発掘・育成や、子どもの運動教室「リトルアスリートクラブ」のプログラム開発・運営など、子どもの運動能力を育むことに熱心に取り組む。自身、2児の父であり、子どもとともにめぐった公園での運動や子育て経験を生かし、パークマイスター(公園遊びに詳しく、子どもの発育を考えて指導ができるスポーツトレーナー)としても活動している。著書は『スポーツ子育て論』(アスキー新書)、『運動できる子、できない子は6歳までに決まる!』(PHP研究所)、『ママだからできる運動神経がどんどんよくなる子育ての本』(学研プラス)など多数。