東京2020はさまざまなスポーツをお子さんとともに楽しめるまたとないチャンスです。そこで、子どもの運動能力向上に詳しいスポーツトレーナー・遠山健太が各競技に精通した専門家とともにナビゲート! 全33競技の特徴や魅力を知って、今から東京2020を楽しみましょう。今回は「レスリング フリースタイル(女子)」! 競技解説はレスリング競技歴12年、競技指導歴6年の桃さんです。
女子フリースタイルの特徴
レスリングにはフリースタイルとグレコローマンスタイルという2つのスタイルが存在しますが、女子はフリースタイルのみです。全身を駆使して戦うフリースタイルは、タックル中心に相手を倒しねじ伏せることを目指します。バリエーション豊富な寝技の攻防、女子特有の体の柔らかさや、しなやかな技も見逃せません。
女子レスリングの歴史は浅く、1970年代後半から1980年代前半にフランスや北欧で始まりました。1983年に国際レスリング連盟/FILA(現UnitedWorldWrestling=UWW)が女子レスリング部門を認定し、1985年1月には、フランスのクレルモンフェランで初のFILA認定女子国際大会「ロジャークーロン大会」が開催されました。2004年アテネ五輪から正式種目となり、東京2020で5大会目となります。
五輪で実施される階級は、女子レスリングが導入された2004年から2012年までの3大会は4階級でしたが、2016年リオデジャネイロ五輪から、50㎏級、53㎏級、57㎏級、62㎏級、68㎏級、76㎏級の6階級に増えました。東京2020もこの区分で行われることが決まっています。
日本女子レスリングが、これまでに五輪で獲得したメダル数は金11、銀3、銅2の計16個。他国を引き離しており、世界最強女子軍団として挑む東京五輪も期待がかかります。
そんな日本女子レスリングの強さの秘密を少しお話しましょう。それが合宿所です。日本女子レスリング代表合宿拠点、通称「虎の穴」は、上越新幹線の越後湯沢駅から車で約30分。途中からS字カーブの細い一本道をたどった先にあります。廃校となった小学校を改修し、1991年から日本代表女子の合宿拠点となりました。今でこそ、冷暖房も整っていますが、最初は蛇口から茶色い水が流れてきたり、電波塔がなく、携帯電話の電波も拾えませんでした。
コンビニに行くにも車が必要な立地で、夜になれば周辺は真っ暗。選手は朝から夜まで練習以外にすることがない環境です。霊長類最強女子と呼ばれた吉田沙保里元選手でさえ、「最初は厳しい練習で足はガタガタになったし、よく吐いた。『帰りたい』ともよく思った」と振り返ります。しかし一方で、「体一つあれば稽古できるのがレスリング。ここなら何も考えずに集中してやれる。逃げるか、逃げないかは、試合で勝てるか、勝てないかにつながっている。実際、ここで頑張った選手が勝ち残っている」と強調。
また、協会関係者は、「最近は選手がやりやすい環境が整う施設が増えたが、ここには、厳しい環境を耐え抜き、五輪を制す選手を生み出す良さがある。それをわかってもらえれば」と訴えます。近年は、吉田元選手や伊調 馨選手ら、一流選手を生み出した"過酷な生活環境"を学ぼうと、JOCの視察で陸上やスキーなど約15競技の強化担当者が集まるなど、他競技も注目しています。
女子フリースタイルを観戦するときのポイント
女子レスリングフリースタイルを観戦するときのポイントを2つご紹介しましょう。
①タックル無くして勝利なし!
前述したように、フリースタイルは素早いタックルとバリエーション豊富な寝技が攻撃の中心となります。なかでも、日本選手が得意とする「高速タックル」に注目してください。五輪三連覇を成し遂げた吉田沙保里元選手が得意とし、日本女子レスラーに受け継がれる戦い方で、歴代金メダリストが「勝利の方程式」として磨きをかけてきた大技です。組み手争いの中から一瞬の隙を逃さずに鋭いタックルで足をつかみ取り、相手の後ろに回りポイントを重ねながら寝技に繋げていきます。スピード感あふれる展開に目が離せません。
②1秒で勝ち!?
レスリングには、相手の両肩を同時に1秒間マットにつけると勝ちとなる「フォール」が存在します。これは、柔道でいう「一本」と同じです。
ポイントが負けている選手が試合終盤で相手を「フォール」して大逆転することもあり、試合が終わるまで一瞬の気も抜けません。
東京2020でのチームジャパンの展望
①カウンターアタックでメダル量産!
2016年リオデジャネイロ五輪では、6階級中4階級で金メダルを獲得するなど、選手層の厚さは世界一ともいわれた日本の女子レスリング。しかし、2018年アジア大会では金メダルゼロ、2019年世界選手権大会でも金メダルは1個にとどまり、世界最強女子軍団の影を落としています。その原因は、外国勢が日本選手の徹底的な研究を行っているから。今は、インターネットを通じて試合の映像が世界中どこでも見られる時代、外国勢が日本の選手の戦術や癖を徹底的に研究し、入念に対策を立てているのです。
苦戦を強いられた2019年の世界選手権を受けて、日本レスリング協会強化本部は「カウンターアタックに磨きをかける」という方針を打ち出しました。高速タックルだけでは東京2020での金メダル獲得は厳しいという危機感からです。
カウンターアタックとは、相手からの攻撃に対して返し技で攻勢に転じ、ポイントを奪う戦い方で、五輪4連覇の伊調馨選手が得意とした技でもあります。「カウンターアタックと高速タックル」を武器に、地元開催で史上最多のメダル獲得に大きな期待がかかります。
②最軽量級、五輪枠獲得なるか
日本女子レスリングの最軽量級は、過去4大会で銀、金、金、金と、すべての五輪でメダルを獲得し、五輪出場権もすべて前年の世界選手権で獲得してきました。けれど、今回、初めて世界選手権で出場権を逃してしまったのです。
東京2020への出場権をつかむには、2020年3月に予定されていたアジア大会で2位以上の成績が必要とされていました。この大会が開催されていれば、これまでの日本の成績を考えると2位以上は確実でした。しかし、世界的なコロナウィルス感染拡大の影響でアジア大会が延期になっています。今後、無事、東京2020枠を確保し、5大会連続のメダル獲得を目指すことができるのでしょうか?
遠山健太からの運動子育てアドバイス
以前に勤めていた施設で、女子レスリング代表のサーキットトレーニングのサポートを担当したことがあります。レスリングは試合中は瞬発系の動きが多く、また終始動きっぱなしなので、パワー系のサーキットを多くトレーニングに取り入れていました。さすがにこのようなトレーニングをそのまま子どもに取り入れると、楽しさの部分が薄れて大変だと思うのですが、いろんな運動遊びを組み合わせることによって似たような効果が得られるのではないかと思っています。例えば、スポーツ・エンタテインメント番組「SASUKE」のようなコースを子どもと作って、タイムを競うことなどは、たくさんの運動の種類が一度に体験できるので、体作りにとても役立ちます。オリジナルのコースを作ってぜひ親子でチャレンジしてみましょう。