海外にいると、日本の姿が違って見えてくる。日本食、カルチャー、トレンド、価値観……世界各地の目線から見える“ニッポンの今”とは? 現地在住ライターが、海外から“逆照射”される日本の面白さをお届けする連載、第15回のテーマは、「台湾ファミマの自由過ぎる広告戦略」。
セブンイレブン約7,100店、ファミリーマート約4,400店。これは台湾におけるコンビニエンスストア(以下「コンビニ」)の店舗数だ。台湾のコンビニは全部で約1万4,000店。セブンイレブンとファミリーマートが、そのうちの約8割を占めている。この2社は、台湾系の「ハイライフ」(約1,600店舗)と韓国系の「OKマート」(約800店舗)とともに「4大コンビニ」と言われているが、上位2社とそれ以外との店舗数の差は圧倒的だ。
台湾のコンビニ密度は非常に高く、店舗数の伸びも著しい。台湾経済部の統計によると、2010年には9,538店だったコンビニの店舗数は、2025年8月には1万4,236店になり、15年間で49%増となった。これは台湾の人々にコンビニという業態が広く受け入れられている証左でもある。
台湾におけるコンビニ2強の一角、ファミリーマート(以下「台湾ファミマ」)は、オリジナル商品の認知度とユニークな広告戦略で知られている。1988年に設立され、今年で38年目を迎える台湾ファミマ。独自進化を続けるそのローカライズ戦略を取材した。
■本格志向・健康志向で大ヒット
台湾ファミマのペットボトルのお茶には、茶葉が入っている。日本では見ないスタイルだ。
茶葉は創業1862年の老舗茶商「王徳傳(ワンダーチュアン)茶荘」のもの。日本人が台湾土産に買って帰ることも多い人気ブランドだ。
この「茶葉入りペットボトル」の開発には、どのような苦労があったのか。商品部の張淵傑(ジャン・イェンジエ)課長に話を聞いた。
「弊社の茶葉入りペットボトルは、高圧加工という製法を採用しています。これは、食品を容器に封入したまま水中で高い圧力をかけ、微生物を非加熱で殺菌・不活化する技術です。茶葉は熱を加えられると苦味やえぐみが出やすいのですが、このシリーズは茶葉を加熱しないので、素材の風味、色、栄養素を保持しながら長期保存することが可能です」
同様の製法を採用しているものには台湾ファミマのプライベートブランド商品として販売されている「ハチミツウォーター」がある。ハチミツウォーターの原材料は水とハチミツのみ。無添加や低添加の食品が対象となる「慈悅(ズーユエ)クリーンラベル認証」を取得している。
台湾の小売業界において、台湾ファミマがこの認証の普及に果たした功績は大きい。2018年、消費者が求めているのは無添加や添加物の少ない食品だと分析した台湾ファミマは、イギリス発祥であり台湾では慈悅國際股份有限公司が認証機関となっている「慈悅クリーンラベル認証」を取得。さらに、サプライチェーンの風上・風下にあたる企業にも積極的に取得を勧めて回った。
8年が経過し、いまでは健康に気を遣う消費者は、商品購入の際にクリーンラベル認証の有無を確認するほどになった。食の安全に対する消費者の意識変化をいち早くキャッチし、「安心・安全」をわかりやすい形で消費者に示したことが、今日の台湾ファミマの成長につながっている。
■スイーツ分野でも存在感
台湾ファミマの店内では「焼き芋」も売られている。これは日本のコンビニのヒット商品を採用したものだ。店舗の専用オーブンで石焼きにしており、ねっとりとした甘さが特徴。甘いもの好きな台湾人の嗜好に合ったこの商品は2010年の発売以来人気で、2,200万本の販売実績があるヒット商品になっている。
そして台湾の消費者に広く愛されているのがソフトクリーム。台湾ファミマはこのソフトクリームで「スイーツがおいしいコンビニ」というポジションを確立した。台湾ファミマの約5割(2,200店舗)でソフトクリームが販売されている。フレーバーには、バニラなどのスタンダードなものと、季節限定品がある。
季節限定フレーバーはほぼ毎月変わるため、ファンの間では「今月はどんなものが出るのかな」と話題になることが多い。「パクチー味」などエッジのきいたフレーバーが発売されることもあり、そんな時は怖いもの知らずのファンが我先にとトライしている。
■セブンを巻き込んだ“7月11日戦争”
台湾ファミマはユニークな広告で話題を作り出すのが非常にうまい。たとえばここ数年、台湾ファミマは毎年「7月11日」を祝っている。セブンイレブン(以下「セブン」)ではない。台湾ファミマが、だ。
台湾ファミマ広報部によると、7月11日は「マーケティング担当の誕生日」……らしい。2023年から3年連続で、「7月11日の誕生日」を記念した割引キャンペーンなどを実施している。
2023年、1年目はセブンから何の反応もなかったが、ネットでは「ファミマが7月11日を祝ってる?!」と話題になった。
2年目、台湾ファミマは本社の近くにある店舗に「隣の席の同僚、誕生日おめでとう」という垂れ幕を掲げた。この年もセブンからは何の反応もなかったが、台湾メディアがニュースとして取り上げた。
台湾ではファミマは「全家(=家族みんな)」という。2025年、ついにセブンが「『家族みんな』で祝っているよ」と掲げた。すると台湾ファミマは、「←お隣にも『ファミマの人』見っけ! ファミマのマーケティング担当も7月11日が誕生日だよ」と応戦。
さらにセブン・ファミマに次ぐ台湾3番手のコンビニである「ハイライフ」も、SNSで「僕たち、仲間外れで寂しいな」と参戦してきた。ちなみにこのキャンペーン、台湾ファミマはセブンとは一切打ち合わせをしておらず、「阿吽の呼吸」で実現したものらしい。このように「誰も傷つけずに話題を生む」広告戦略が、台湾ファミマは非常に長けている。
ブームの波に乗るのもうまい。近年、台湾では「偽日本語」が流行っている。「りしれ供さ小」(りしれごんさしゃお:台湾語で「おまえ何言ってんだよ」という意味)のように、台湾語を、漢字とひらがなで表現するのだ。台湾ファミマはこの流行を広告戦略に取り入れた。
ファミマ自身を広告媒体として他社に売り出すという戦略にも力を入れている。2023年からは、台湾に事務所を有している静岡県の台湾事務所と連携し、台湾ファミマの店舗に静岡県のキャラクターラッピングを施したり、店舗のデジタルサイネージで静岡県の動画を流したりしている。台湾ファミマと静岡県がSNSやプレスリリースで相互にこの取組をPRすることで、静岡県と台湾ファミマの双方の認知度向上につながっている。
離島も含む台湾全土に4400店舗を有するという、圧倒的な規模感。これは、台湾の人たちに広く存在をアピールしたい企業や団体にとって、非常に魅力的な資源だ。
ファミマという日本発祥のコンビニが台湾に根付き、愛され、次々と独自の進化を遂げている。次はどんなヒット商品が出てくるのか、楽しみに待ちたい。












