ニューノーマル時代にどうキャリアを築いていくか。そのヒントを探るべく、すでに自分らしい働き方を見つけて歩み始めている4人の女性たちに、今、それぞれが抱いているキャリア観について話を伺いました。

最後となる今回は、エスノグラファーとして社会のさまざまな側面を調査してきた神谷俊さんに4人のキャリアスタンスに関して解説してもらいます。

  • ニューノーマル時代のキャリアの築き方は?

「人生100年時代」のキャリア

超高齢社会が到来し、私たちの人生はこれまでの時代の先人よりも長いものになっていきます。「人生100年時代」の到来です。今後、人生には幾つもの変化が訪れます。

例えば、育児や介護による負担の増加、あるいは加齢による身体能力の低下など、訪れる変化と向き合いながら、その時の自分で勝負できるキャリアを主体的に作り出していく姿勢が必要でしょう。今回取材した4人の女性たちが、まさにそれを実践しています。

このようなアプローチは、学術的には「プロティアン・キャリア」と言われる考え方に非常に類似しています。アメリカの心理学者ダグラス・ホールの提唱したキャリアの考え方ですね。

このキャリア観の主な特徴は、
(1)自分の興味関心や満足感を軸に動くこと(金銭的な報酬や地位を目的にしていない)
(2)市場や社会に合わせて柔軟に学習すること
です。

これは今回の4人にも見られる特徴。そこで、「プロティアン・キャリア」のポイントを踏まえつつ、女性たちのケースを解説していきたいと思います。

  • 左から、印度カリー子さん、松田裕美さん、穐山茉由さん、西山敦子さん 提供:世界文化社

小さなアクションから始める

まず、4人の共通の特徴として、全員がアマチュアからキャリアを始めているという点があります。彼女たちは、知識や技術があったから歩み出したのではないということ。充分な「資源」がない状態だったにもかかわらず、それぞれの歩みを進めたという点に注目すべきでしょう。

何も持っていない状態から、なぜ、新たなキャリアを始めることができたのか。それは、純粋な好奇心や興味に駆られているということ。そして、「小さなアクション」から始めているということです。特に、この小さなアクションに注目すべきで、「行動した」ことが重要なポイントだと思います。

キャリアは「始めること」が大切

印度カリー子さんの場合、スパイスセットを友人にプレゼントした体験から世界が徐々に広がっていきました。穐山茉由さんは、未経験者対象のワークショップに参加するところから始まっています。松田裕美さんは自宅で教室を開きましたし、西山敦子さんは、アイデアを周囲に相談するところから始めています。

取っ掛かりは、いわゆる「趣味」「自己啓発」「雑談」だったかもしれませんが、その一歩は、次の歩みへとつながり、やがて社会から注目されるほどのインパクトを生みだすまでに成長していきました。

これらのケースから学び取れるのは、小さなアクションでも良いから、始めることの重要性。最初から「すごく好き」じゃなくても、興味や関心を持った事柄に対して、今の自分ができる範囲で行動を起こすことが大切なのかもしれません。些細な興味でも、小さなアクションから始めることが重要なのでしょう。

他者の存在がキャリアを作る

2つ目は「他者」の存在。皆さんそれぞれが初期の段階で「友達」「生徒」「上司」「取引先」と関わっていますよね。彼女たちのアイデアやアクションに対して、反応を示してくれる人が周囲にいるという点が重要なポイントです。

プロティアン・キャリアにおいても、「反応学習(response learning)」が重要とされています。自分がやろうとしていることについて、社会がどのように評価するのか、どのようなアプローチであればフィットするのかを学んでいくプロセスです。

自分の好きなことを、自分の価値観だけで進めていくだけではビジネスキャリアは作れません。他者に投げかけて反応を観察し、その反応から試行錯誤を重ねていく。そういうステップが必要です。そのステップを進める中で、自分のプランが洗練されていきます。また「他者を喜ばせたい」という気持ちが醸成され、推進力がさらに高まっていくのでしょう。

  • 4人が紹介された書籍『彼女がたどり着いた、愛すべき仕事 これが私の生きる道!』(世界文化社)

キャリアは進むからできる

人は新たなキャリアを始めようとすると、ついつい腰が重くなってしまうところがあります。これまで歩んできたキャリアを「離れる」ことを意識し、「新しい自分」が始まるものと思ってしまうからです。

未経験や無知の状態で大胆に動くことは「リスク」であると想起してしまいがちで、例えば、学生は「授業を受け勉強してからテストを受ける」、会社員は「研修やOJTを経てから仕事を進める」のがセオリーとされています。

あらかじめ専門知識や技能を修得し、そして次の行動を起こすべきだという通念が、私たちの新たなキャリアの始まりを抑制している側面も考えられます。

4人のケースは、「今の自分のままでも始められる」ことを教えてくれ、小さなアクションでも良いし、ビジネスプランはなくてもいいかもしれない。まずは行動を起こすことが重要なのかもしれません。

興味はあるけどまだそこまで気持ちが高まっていないことがあるならば「小さなアクション」から始めてみることも良いでしょう。


やりたいと思っていても、手つかずのことについて検索したり、興味あるテーマに関連するオンラインイベントに参加してみたり、また、行動した後で、感想や意見をブログにアップするのも良いきっかけ。些細なアクションと、そこから発生する社会とのちょっとした関わりが、あなたのキャリアを広げることにつながるようです。