前回は日本政策金融公庫の国民生活事業と中小企業事業について説明いたしました。今回は、社債の環境変化について取り挙げます。以前の連載の第11回第27回第47回においても社債について触れましたが、あらためて情報を整理します。

社債の事例として、従来は公募債やプロ投資家向けの私募債である銀行保証付私募債が取り挙げられることがほとんどでしたが、この数年は50名未満の投資家を対象として勧誘する少人数私募債の事例が増えてきました。取引単位(券面)が1億円となるケースが多い公募債の説明は割愛し、中小企業やスタートアップが現実的に取り得る選択肢である銀行保証付私募債と少人数私募債を比較します。

制度面では社債の購入者の観点で両者に差異があり、銀行保証付私募債が内閣府令で定める適格機関投資家に限定して勧誘を行う方法で、少人数私募債が50名未満の投資家を対象として勧誘する方法です。各々をプロ私募、少人数私募と呼ぶこともあります。少人数私募債は企業と直接繋がりがある人に対して発行することが多かったことから縁故債とも呼ばれ、銀行保証付私募債とは異なり証券保管振替機構による一般債振替制度は利用せず、購入記録や取引記録を公に管理されてこなかった歴史があります。

社債発行・購入プラットフォームを運営するSiiibo証券2022年12月7日付のプレスリリースで発表したように、少人数私募債についても社債の新規発行から流通・償還までの各種手続きにおける発行企業や金融機関の作業負担を軽減しようとする動きがあり、相対取引の時代には実現できなかった券面管理作業の効率化や盗難・紛失を防止する対策が講じられて、今後の社債の取引が活性化することが期待されます。

コスト面では、銀行保証付私募債は手数料体系が複雑です。証券保管振替機構へ社債の情報を登録するために支払う新規記録手数料と、事務委託契約証書に基づいて支払う事務取扱手数料と、総額引受契約証書に基づいて支払う引受手数料と、保証委託ならびに保証契約証書に基づいて支払う保証料が存在します。元金返済は半年毎が一般的です。

銀行保証付私募債の発行コストが融資を受ける際に支払う金利よりも大きければ、企業があえて社債の形態を選択するインセンティブはなくなります。銀行保証付私募債を選択しても融資を選択しても、調達に関連する企業側のコストの総額はほぼ同水準に収斂させることが通例です。銀行保証付私募債は発行時に多くのコストを負担し、融資は全期間にわたって均等に負担するかたちになります。銀行保証付私募債は、金融機関側が収入を受け取る時期を早期化するために活用される側面があります。

少人数私募債は、銀行保証付私募債と比較して手数料体系がシンプルに設計されることが可能です。事例として、Siiibo証券株式会社が枠組みを提供している、従来型の私募債と区別するために「私募社債」と名付けた金融商品を紹介します。私募社債を発行する際に企業が支払うコストは、投資家へ支払う金利と、未償還残高に応じて証券会社へ支払う手数料になります。2021年にSiiibo証券の広報担当者へヒアリングした際は、利用シーンとして「年限が2年から3年、利率が2%から3%となるケースが多い」状況でしたが、2022年は「年限が2年から4年で3年のケースが多く、利率は6.5%の事例もある」と発展しました。

スタートアップの私募社債の利用は、ミドルからレイターステージ以降でユニットエコノミクスが健全化したタイミングが目安となります。私募社債を購入する個人投資家の像として、1口50万円で多くの企業へ分散投資したい人物もいれば、1社あたりの最低投資金額を1億円に設定している者もおり、多様性に富んでいるそうです。サービス開始から1年半以上経過して直接金融型のデットファイナンスの裾野が広がってきていると言えますし、ある信託銀行の個人営業担当者によれば「期間が定まっている金融商品は個人投資家から根強い人気を得ている」とのことなので、私募社債を発行する企業が増加しても十分に金融市場で消化されると予想されます。

私募債の発行時に企業側が負担する費用の構造についてあらためてまとめると、下表の通りとなります。

社債の環境変化に関する解説は以上です。次回は新興企業が提供しているファイナンス手段について紹介いたします。