前回は2020年度の資金調達環境について、創業ファイナンスに焦点を当てて解説いたしました。今回は2020年の資金調達環境について、新型コロナ対応融資の状況をまとめます。

経済産業省のWebサイト『新型コロナウイルス感染症関連』にて紹介されている資金繰り支援策は、政府系金融機関が提供するものと、民間金融機関が提供するものに分けられます。内閣府のWebサイトで公開されている、2021年5月14日の令和3年第6回経済財政諮問会議にて提出された資料「経済対策のフォローアップについて(金融政策、物価等に関する集中審議資料)(参考資料)」に集計値が載っているので、抜粋して表にまとめました。

公的金融機関は政府系金融機関と読み替えて大丈夫です。民間金融機関は件数・金額ともに公的金融機関の倍以上、資金を供給していたことが分かります。

日本政策金融公庫の融資実績については、パンフレット「2021 日本政策金融公庫のご案内」の中で、「新型コロナウイルス感染症関連の融資は、令和3年3月末時点で80万8,850件、13兆8,702億円を決定しています」と紹介されています。集計期間が異なることが理由だと推測されますが、先に紹介した内閣府の数字との間に差異があります。さらに、時系列データとして「セーフティネット関連融資実績」が公表されており、新型コロナウイルス感染症特別貸付、災害復旧貸付、東日本大震災復興特別貸付、経営環境変化対応資金、金融環境変化対応資金、農林漁業セーフティネット資金等が含まれますが、2020年に実行された融資の規模が桁違いに大きいことを確認することができます。2016年は熊本地震の影響があった年です。

民間金融機関が信用保証協会を利用して実行したセーフティネット保証融資の件数と金額は、中小企業庁のWebサイトに掲載されています。「保証実績の公表(信用保証協会別の金融機関別、信用保証協会別、金融機関別)」のページに2018年以降の統計がまとめられていますが、ここでは「信用保証協会別の保証実績」の資料を参照します。原典では保証承諾金額が百万円の単位で集計されていますが、他の情報と比較し易くするために1億円未満を切り捨てております。下表には「セーフティネット保証」(1号~4号、6号)及び「危機関連保証」を利用したものが示されています。

2018年の融資件数の内訳を確認すると、セーフティネット保証の利用が最も多かった都道府県は大阪府で1,564件、次いで岡山県が466件、北海道が275件、広島県が234件、兵庫県が171件と続きます。上位3道府県で全体の75%以上、上位5道府県で90%以上を占めています。2019年以降の詳細な都道府県ランキングの分析は割愛しますが、2018年は経済の地盤沈下が指摘されていた地域にセーフティネット保証の利用企業が偏在していたのに対し、新型コロナウイルス感染症が広がった以降は全国的に利用が進んだことが分かります。

セーフティネット保証と危機関連保証の内訳については、一般社団法人全国信用保証協会連合会のWebサイトに掲載されている「令和2年度事業報告」の中に記載があり、「セーフティネット4号の保証承諾は79万4千件、13兆7,311億円、危機関連保証は62万1千件、13兆1,204億円となった。」と書かれています。セーフティネット4号と危機関連保証を合計すると141万5千件、26兆8,515億円となりますので、先述の中小企業庁発表の数字と比較すれば、セーフティネット1号~3号および6号の件数は僅かだと類推できます。

上記の統計には保証協会の責任共有制度(80%保証制度)の対象となるセーフティネット5号の数字が含まれておりません。「セーフティネット保証」(1号~4号、6号)及び「危機関連保証」は保証協会の責任共有制度対象外となる保証(100%保証制度)です。

新型コロナ対応融資について、元本返済が猶予される「据え置き期間」が短かったのではないかと問題提起する報道もありました。2021年2月8日の日本経済新聞の記事『中小コロナ融資40兆円 返済開始「1年以内」が過半 コロナ政策 2年目の試練(上)』が代表例で、当該記事を引用した他媒体の続報も多かったですが、記事内の数字の取り扱いには注意が必要です。下表は記事中の円グラフをもとに筆者が作成したものです。

据え置き期間を設定しなかった融資が、据え置き期間ゼロとして「6カ月以内」に含めるかたちで集計されているのか、それとも集計から除外されているのか、判然としません。250万件を超える規模で実行された融資のうち、返済開始「1年以内」が本当に過半を占めるのか、確認できない状況です。

融資の契約期間と据え置き期間との対応関係が分からない点についても課題があります。例として、融資の契約期間が1年で据え置き期間が6カ月の場合は6回の分割返済になり、融資の契約期間が10年で据え置き期間が6カ月の場合は114回の分割返済になります。極端な比較ですが、同じ融資金額で同じ据え置き期間でも元本返済のペースは19倍異なるので、据え置き期間だけを軸として情報を集約し議論することは危ういと考えます。

データの出所とされている中小企業庁のWebサイト内を可能な限り探ってみたのですが、報道の元になった発表資料を筆者の力では発見することができませんでした。非常事態における融資の据え置き期間の相場を明らかにしたいと考えておりますので、引き続き調査してまいります。

2020年の新型コロナ対応融資の状況に関する説明は以上です。次回は令和3年度(2021年度)の制度融資について、情報を整理します。