前回は歩積両建預金について解説いたしました。今回はSSS保証(スタートアップ創出促進保証制度の略称)のガバナンスチェックについて紹介いたします。SSS保証は創業後5年未満の法人(法人成り企業を含む)が対象者で、保証限度額3,500万円・保証期間10年以内・金融機関所定の金利・担保不要・保証人不要という条件で利用できる、2023年に取り扱いが始まった信用保証制度です。破格の契約条件で創業融資を受ける代わりに企業はコミュニケーションコストを負担する必要があります。
経営者が金融機関との良好な信頼関係を築くために経営の透明性確保が必要であり、情報開示の内容の適時性・適切性や正確性を確保するためにガバナンス体制を構築することが求められます。SSS保証による融資を受けた後、3年目および5年目のタイミングで「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」を作成し、中小企業活性化協議会による確認・助言を受けるルールです。SSS保証の概要は中小企業庁のWebサイトに掲載されており、「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」のExcelファイルもダウンロードすることができます。
「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」は、中小企業収益力改善支援研究会が2022年12月に取りまとめた「収益力改善支援に関する実務指針」において、ガバナンス体制の整備に特に必要な項目を具体化し整理したものです。実務指針の第3章「ガバナンス体制の整備支援の実務と着眼点」に書かれている内容が基本的に対応するのですが、業歴の長い中小企業も対象に含めた指針を創業融資のガバナンスチェックに援用しているため、若干差異が生じており興味深いです。
例えば、内容の正確性に関するチェック項目である下記3点の確認事項は、実務指針の本文中に記載はなく突然チェックシート内に登場します。支援者という用語は士業等及び金融機関のことを指します。
【1】経営者は日々現預金の出入りを管理し、動きを把握する。例えば、終業時に金庫やレジの現金と記帳残高が一致するなど収支を確認しており、支援者は経営者の取組を確認できる。
【2】支援者は直近3年間の貸借対照表の売掛債権、棚卸資産の増減が売上高等の動きと比べて不自然な点がないことや、勘定明細にも長期滞留しているものがないことを確認する。
【3】経営者は、会計方針が適切であるかどうかについて、例えば、「「中小企業の会計に関する基本要領」の適用に関するチェックリスト」等を活用することで確認した上で、会計処理の適切性向上に努めており、支援者はそれを確認できる。
決算書や各勘定明細については、指針では「必要な資料が少なくとも直近3年分あるか」と書かれている一方で、チェックシートでは年数に関する記載が省略されています。財務指標についても、指針ではローカルベンチマークから引用し例示された「売上高営業利益率、営業運転資本回転期間、労働生産性、EBITDA有利子負債倍率」が確認対象になっていることに対し、チェックシートでは「EBITDA有利子負債倍率は15倍以内、減価償却前経常利益は2期連続赤字でない、純資産額は直近が債務超過でないこと」が判定条件となっています。
実務指針に記載がありチェックシートに項目がないポイントとしては、資金繰りの検討が挙げられ、着眼点が4つあります。
【1】売掛金回収条件・買掛金支払条件を確認する。
【2】月次売上・仕入・外注の見込金額は、受注状況や季節性等を勘案する。
【3】税金や社会保険料の支払、借入金返済、設備投資・修繕予定等の支出を確認する。
【4】上記検討結果等を踏まえて月次の資金収支を計算し、資金不足が懸念される場合は対応策を検討する。
上記の「収益力改善支援に関する実務指針」と「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」との間の細かい差異を通して、中小企業と比較したときのスタートアップの特徴が浮かび上がってきます。創業期の確認内容は概ねシンプルに設計されていると言えそうです。SSS保証のガバナンスチェックに関する説明は以上です。次回は農業融資について取り上げます。
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