前回は2023年版財務担当者へお薦めする参考文献と題して、書籍・雑誌・論文を紹介いたしました。今回は、一般保証・セーフティネット保証・危機関連保証の使い分けと他の融資商品との組み合わせ方について考えます。コーポレート・ファイナンス分野の議論のひとつとして、ペッキングオーダー理論があります。企業が資金調達をするとき、内部留保→負債→株式の順に検討するという経験則です。さらに分析の粒度を細かくした場合、負債の中にもペッキングオーダーが存在するのではないかという私の仮説を紹介します。

筆者が考えている負債のペッキングオーダーは、議論の簡略化のために融資商品単位の詳細な検討・確認を割愛しますが、危機関連保証→セーフティネット保証→一般保証(責任共有制度対象外)→一般保証(責任共有制度)→プロパー融資(経営者保証)→プロパー融資(無保証)→銀行引受私募債→条件緩和融資(特別当座貸越やコミットメントライン)→シンジケートローン→公募債の順番です。SSS保証・資本性ローン・転換社債・コマーシャルペーパー(CP)がどの位置に当てはまるのか、本来は宣言した方が良いと思うのですが、明確な序列をつけることが現時点では難しいので本稿ではご容赦ください。

金融機関が検討しやすい順に並べていきます。借り手の企業が返済不能となったとき、貸し手の金融機関は元本がより確実に填補されることを好みます。プロパー融資よりも保証協会付き融資の方が元本回収の可能性が高く貸倒リスクは低いため、借り手の経営環境が厳しいときは特に、交渉の場で保証協会付き融資を提案されることが多くなります。大枠として、保証協会付き融資→プロパー融資の優先順位になります。

信用保証協会の保証は大別すると3種類あり、いつでも利用できる一般保証、条件に合致すれば利用できるセーフティネット保証、利用可能なタイミングが非常に限定的な危機関連保証に分かれます。利用可能性の観点から、企業側の行動としては危機関連保証が利用できるときは利用する、次にセーフティネット保証を検討する、危機関連保証とセーフティネット保証の双方が利用できないときに一般保証を選択することをお薦めします。業績が黒字でもセーフティネット保証が使えるケースがあるので、日頃から利用条件を把握するようにしましょう。

脱線しますが、過去の危機関連保証やセーフティネット保証の制度融資では15年の長期契約が締結可能となっていました。制度上利用可能でも、期間は10年までに留めることを推奨します。歴史を振り返れば、バブル崩壊・阪神淡路大震災・リーマンショック・東日本大震災・熊本地震・コロナ禍と、日本社会全体として資金繰りに不安が発生する事象は10年に1回は訪れると覚悟した方が良いです。10年で危機関連保証・セーフティネット保証の残高がゼロになるように資金計画を設計すれば、危機が訪れた際に資金繰り支援の政策パッケージをフル活用できる確率が高まります。

一般保証の詳細について見ていきます。借り手の企業が返済不能となったとき、信用保証協会から金融機関に対して100%填補される責任共有制度対象外のものと、80%填補される責任共有制度のものに分かれます。広く利用されている保証協会付きの創業融資は責任共有制度対象外です。繰り返しになりますが、貸し手の金融機関は元本がより確実に填補されることを好みますので、交渉の場で提案されやすい内容も一般保証(責任共有制度対象外)→一般保証(責任共有制度)の順になります。実はセーフティネット保証も責任共有制度対象外のものと責任共有制度のものに分かれるのですが、本稿では省略します。

コロナ禍では、信用保証協会の枠を目一杯使うか否か、議論が分かれました。財務の機動的な対応を可能とするために、非常時以外は満額を利用せずに、枠を残しておくことがコツです。政策的な理由で、借り手にとって有利な制度融資が突然登場することがあります。例えばコロナ禍の東京都文京区では、独自の制度融資として最長8年間利子を全額補給するプランが提供されました。国や都道府県の制度融資で保証の枠を使い切った企業は、後から登場した有利な制度融資を利用することができませんでした。チャンスを逃さないように予め備えておくことが肝要です。

信用保証協会の枠を残すためには、早い段階からプロパー融資を増やすための活動を始める必要があります。一般保証の限度額は8,000万円ですが、俗に月商の2~3倍の融資を受けられると言いますので、売上高が3億円に届く経営規模となったときに一般保証以外の手段で融資を受けなければ、融資残高全体の増額が難しくなるとイメージできます。創業融資の次に申し込む融資から、必要資金の一部でも良いのでプロパー融資にできないか交渉することが王道のアプローチです。融資実行金額のうち担保と保証でカバーされている範囲がどこまでなのか、保全の割合が融資交渉の焦点になることがあります。プロパーと保証協会付きを半々でと提案するなど、保証協会付きの残高を増やすことを容認するとコミュニケーションがスムーズになるケースが存在します。保全の割合を上げたのだから金利を下げてくださいと伝えるなど、バランスを見ながら条件を詰めて意思決定をします。 プロパー融資についても考察します。外部機関に保証料を支払わない形態の融資をプロパーと呼びます。経営者保証をつけるケースや、親会社が法人保証をつけるケース、無保証のケースがあり得ます。しつこいですが、借り手の企業が返済不能となったとき、貸し手の金融機関は元本がより確実に填補されることを好みますので、無保証融資の審査のハードルが高いです。負債のペッキングオーダーはプロパー融資(経営者保証)→プロパー融資(無保証)の順となります。

プロパー融資は調達時のコストとして保証料を支払う必要がないので費用面で有利です。融資残高の全額を無保証のプロパー融資にしたい衝動に駆られますが、コロナ禍の資金繰り支援においては信用保証協会の残高がある場合の審査が迅速で、信用保証協会の残高がない場合の審査は新規申込扱いでリードタイムが長かったです。信用保証協会の利用は中小企業にとって有事の際の防衛手段となり得るので、無保証融資に拘り過ぎない方がよいでしょう。なお、上場企業は経営者保証をつけないのでプロパー融資(無保証)以降が選択肢です。

銀行引受私募債の発行するためには適債基準を満たす事業規模が求められるので、申込金額を小さくすれば成立する可能性があるプロパーの無保証融資と比較して、審査が厳しくなります。条件緩和融資(特別当座貸越やコミットメントライン)は、極度額を設定した上で請求と返済のタイミングを借り手が契約期間内で任意に設定するため、借り手に有利となる分、利用できる企業が限られます。負債のペッキングオーダーはプロパー融資(無保証)→銀行引受私募債→条件緩和融資(特別当座貸越やコミットメントライン)だろうと想定しています。

特別当座貸越は企業側がフィーを支払わない代わりに極度額の設定の主導権が金融機関側にあり、コミットメントラインは企業側がフィーを支払う代わりに金融機関側は請求(借入)を拒めないという特徴があります。銀行引受私募債や特別当座貸越は信用保証協会の保証を付けることもできるので、融資商品の機能に魅力を感じて検討する際は詳細を確認してください。例えば、東京信用保証協会の「特定社債保証」や「当座貸越根保証」が該当します。

短期継続融資という考え方があります。短期の手形貸付をロールオーバーしたり、特別当座貸越を満額請求して期限いっぱい借りることで、融資期間中の元本返済をゼロにして金融機関への支払いを金利のみとする手法です。運転資金の調達は短期継続融資が理想的と考える専門家もいらっしゃいますが、私は貸し剝がし対策の面で短期継続融資は脆弱だと判断しています。事業のベースとなる運転資金は長期で調達して、毎年約定返済で減る部分については再契約とともに融資条件の改善を図り、季節性資金は条件緩和融資で対応する戦術が現代ではベストだとイメージしています。

シンジケートローンと公募債は、資金の提供者が複数になる、不特定多数になるという観点で、単独の金融機関および信用保証協会とのコミュニケーションで済む条件緩和融資よりも難易度が高くなります。負債のペッキングオーダーは関与するプレイヤーの数で素直に並べて、条件緩和融資→シンジケートローン→公募債と捉えています。

議論をまとめます。利用できる可能性や融資審査の難易度、プレイヤーの数等を総合して考慮した結果、企業の財務担当者が取り組みやすいものから難しいものへと負債のペッキングオーダーを並べると、危機関連保証→セーフティネット保証→一般保証(責任共有制度対象外)→一般保証(責任共有制度)→プロパー融資(経営者保証)→プロパー融資(無保証)→銀行引受私募債→条件緩和融資(特別当座貸越やコミットメントライン)→シンジケートローン→公募債になると考えます。

どの融資契約に信用保証協会の保証をつけるのか、プロパーにするのか、自社の業績だけでなく景気や社会の動向を見ながら計画することが重要です。審査の相手もいる話ですので思い通りにいかないこともありますが、融資条件を改善していく意思を持つことが大事ですので、財務担当者の皆様には根気よく取り組んでいただきたいと思っております。

一般保証・セーフティネット保証・危機関連保証の使い分けと他の融資商品との組み合わせ方に関する説明は以上です。次回は融資を受けた後の社内情報整理について解説します。

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