決まった住所を持たず、日本中を旅しながら生活しているカメラマンの南谷有美(なんや・ゆみ)さん。訪れた地域では人々とどのように交流し、どんな仕事をしてきたのか。それぞれの地域の魅力についても綴っていただきます。


私が注目している職人さんを紹介するシリーズ。今回は、紺屋のナミホさんです。岐阜県郡上市と愛知県知多半島を拠点に、藍染職人として活動されています。

昨年訪れた鳥取県智頭町の旅で、ふらっと立ち寄った工房。そこには、藍染で作られた商品が並んでいました。その独特で美しい色合いに心を奪われ、それ以来「藍染」というワードを見つけるとつい反応してしまうようになりました。

そんな私がいつものように何気なくネットを見ていると、どこからか流れてきたクラウドファンディングの記事。それが、ナミホさんの活動に関するものでした。

クラウドファンディングの期限は過ぎてしまっていたものの、どうしてもお話を伺いたいと思って直接連絡。すると、快く承諾してくださいました。ナミホさんの仕事内容や、作品に対する想いについてお話を伺ってきました。

  • 藍染職人の紺屋のナミホさん

天然藍の美しい色に感動し、藍染職人に

元々デニムが好きで、大学卒業後はアパレル店員として働いていたというナミホさん。デニムについて勉強していく中で、ナミホさんの興味関心は「染め」に。化学的に作られたインディゴにはない、天然藍の美しい色に感動したのだそうです。

以来、自分でも染めてみたいという思いが湧いてきて、7年働いたアパレル会社を退職。藍について本格的に学んでいくことを決めました。

とは言っても藍についてあまり知識がなかったナミホさんは、まずお師匠さん探しをすることに。藍の生産で有名な徳島をはじめ、さまざまな工房を訪れましたが、なかなか思い通りの場所に出会えなかったのだそうです。

そんな時に偶然訪れた郡上踊りで、ある出会いが。それが、石徹白洋品店のオーナーである平野馨生里さんとの出会いでした。意気投合したナミホさんは、平野さんのもとで藍について学び、実践していくことを決めました。

現在は福井県大野市と徳島県の2つの場所にもお師匠さんがいらっしゃって、定期的に通い、さらに学びを深めているそうです。

  • 藍は畑で育てるところから

  • これが藍染のもとになります

ナミホさんの作業風景

ナミホさんは「天然藍発酵灰汁建て」という昔ながらの伝統的な技法にこだわり染色されています。天然藍発酵灰汁建ての材料は、すくもと灰汁と貝灰とフスマ。天然の素材にこだわり、化学的なものを使用していないところが魅力です。どういう工程を経て染められるのか、実際に作業風景を見学させていただきました。

  • 水に浸します。今回は白いシャツを染めます

  • こちらが工房。樽の中は深いので、物が落ちないように網を入れます

  • いざ染料の中へ。手の感覚を信じて染めていきます

  • え。緑色?

  • 水で流します。だんだん色が変わってきましたね

  • 完成。きれいな藍色に染まりました

お客さんの希望の色の濃さに合わせて、染める回数も異なるとのこと。こうやって一つ一つ手作業で、丁寧に染められています。染める素材も布だけでなく、木材や皮などさまざま。今日も素敵な作品が誕生しています。

  • ナミホさんの作品

藍染職人の心の中

藍染職人として活躍されているナミホさんですが、気になるのはその心の中。職人になってよかったこと・大変だと感じたことをお伺いしました。

まずよかったことは、日本の伝統に関わっているという実感があることだそうです。現在は本藍染よりも、扱いやすくて綺麗に染まる化学染料が主流になってきているのだそう。古来より受け継がれている日本の文化が失われていくのは、悲しいですよね。そんな大切な日本の伝統文化を継承する人の1人になっていることが、ナミホさんの原動力の1つとなっているようです。

反対に、藍染職人になって大変だと感じたのは、想像以上に手間がかかるということです。染料は生き物と同様で、日々の管理がとても大変。適度な温度を保つこと、1日1回は混ぜること、傷まないように2日に1回は染めることなど、多くのルールがあります。

また染料は日々様子が変わるため、弱ってきたらエサ(酒)を追加することも。染料がなくなってしまうまでの半年間は、あまり遠くには出掛けられないのだそうです。

あともう一つは、手が青く染まってしまうこと。スーパーなどに買い物に行くと、店員さんに「え。」という表情で見られることもしばしばあるようです。肌のターンオーバーは割と早めですが、爪の色はなかなか戻らないのだそう。気になるときは、手袋などをして対策されているそうです。

  • ナミホさんの手。私は素敵だなと思いました

最後に、今後のビジョンについてもお伺いしました。すると、「2年後に、知多半島に工房を作りたい」との展望が。

現在は岐阜県郡上市と愛知県知多半島の2拠点で活動をされているナミホさんですが、生まれ育った知多半島を盛り上げたいという想いを持っているようです。

現在も染料のエサに國盛という知多の地酒を使っていますが、地のものを使って物作りをしていきたいのだそう。藍甕は常滑のもので、布は知多木綿、有松絞りを藍でやってみたい…と、聞いているだけでワクワクしてしまいます。

伝統的な藍染を後世に伝えていくという役割を担っているナミホさん。これからのご活躍も楽しみにしています。

南谷有美(なんや・ゆみ)

カメラマン/ライター
2018年4月に認可外保育園の園長を退いてから、各地を巡る旅人に。リモートで仕事をしながら、好きな場所で好きなことをして生活しています。